今回ご紹介するのは、正社員として働きながら、社会人ラクロスクラブチームFUSIONに所属し、世界を目指すモグさんこと細梅志保美さんです。
ラクロス選手のアスリート生活の実態とともに、競技と仕事を両立するコツやメリットなどを伺いました。


編集部:
世界を目指すトップアスリートとしてトレーニングを積みながら、会社員として仕事を続ける生活はかなりハードではないかと思います。普段はどんな生活をされているのでしょうか。

【スケジュールの一例】

6:00 起床
7:00 トレーニング
9:30 仕事
午前:キッズ体操教室指導
午後:法人企業へのプログラム開発
夕方:セミナー
18:30 晩ごはん
20:00 練習
22:30 フリー 仕事・お風呂・セルフケアなど
23:00 就寝

モグさん:
平日の夜に有志で練習することはありますが、基本的に練習は土日が中心です。そのほか、夜にチームミーティングをすることがあります。

編集部:
トップアスリートでも、練習が毎日あるわけではないのですね。

モグ:
驚かれる方も多いのですが、ラクロスはグラウンドがありません。自分たちで費用を払って公共のグランドを借りて練習しています。練習時間も決まっていないので、3時間から長くても6時間ぐらいです。その中で戦術を詰めて、技術向上もして……と考えると、全く時間が足りません。そこで、平日の夜にzoomミーティングで情報を共有し、次の練習までにそれぞれが頭に入れておくようにしています。そうすることで土日にその練習ができるので効率的に時間を使うことができます。
コロナ禍により、zoomミーティングになったことで、どこからでも参加できるようになりました。情報を共有しやすくなり、新しいことを取り入れやすくなったともいえます。

編集部:
毎日トレーニングやセルフケアをされていますね。どんなことをしているのでしょうか。

モグ:
トレーニングは、その日によって違うのですが、火曜日はトレーナーさんについてもらって、マンツーマンのパーソナルトレーニングをしています。水曜日と金曜日は、ジムに行ってウエイトトレーニングです。
セルフケアは、ストレッチです。若いときは大丈夫だったのですが、年齢とともにストレッチは必須になっています。少しでも痛みが出ると、ケガにつながってしまうので。
練習場所によって人工芝や天然芝など、グラウンドが変わるし、接触が多い競技でもあります。ケガを防止するためにも、毎晩のストレッチやトレーニングは欠かせません。私はアスリート社員でもあるので、ケガを防ぐことは大切だと思っています。
どうしても身体がキツいとトレーニングを休むこともありますが、その時間は必ず休養に充てることにしています。

編集部:
アスリートは食事も大切ですね。食事は自分で作っているのですか?

モグさん:
実家にいた頃は母が栄養たっぷりの食事を用意してくれました。本当に感謝しかありません。結婚して家を出てからは自炊をしています。私は食べることが大好きですし、夫もアスリートなので、美味しく栄養がとれるよう、夕食は必ず作るようにしています。

編集部:
ご主人もラクロス選手なんですね

モグさん:
はい。食事のときは、ずっとテレビでラクロスの試合を流しています。

編集部:
ご家庭でもラクロス一色なのですね。
自炊で気を付けていることを教えてください。

モグさん:
鶏肉を中心にして、野菜をしっかりと摂るようにしています。たんぱく質、脂質、炭水化物の量を考えなければいけないのですが、計算すると大変なので、できるだけ見た目が色とりどりになるように作っています。

編集部:
朝食、昼食はいかがでしょうか?

モグさん:
朝と昼は「なるべく身体にいいもの」を意識しています。
朝食は、時間がないのでご飯、納豆や卵でエネルギーを摂っています。
昼食は、家にいるときは作りますが、外にいれば外食です。そのときは、できるだけたんぱく質を多く、脂質が少なくなるメニューを選んでいます。
トータルで意識しているのは、夕食だけです。

編集部:
これから暑くなりますが、作るのが億劫になってしまったり、食欲が落ちてしまうのではないでしょうか。

モグさん:
そういうときのために、鶏むね肉を低温調理したものなど、すぐに食べられるものをストックしています。冷しゃぶサラダのような体を冷やすようなメニューもよく食べますね。
どんなにヘロヘロになっても食べると元気が出てくるので、しっかり食べることは欠かせません。

アスリートのメンタルの保ち方

編集部:
アスリートとしてメンタルを保っていくのは大変だと思います。ご自身のメンタルとの向き合い方を教えてください。

モグさん:
今までにも、メンタルのよくない時期は何度か経験しています。
そういうときの自分の状態を考えてみると、「私はできているのに」とか「私は頑張っているのに」のように、矢印が自分に向いていることが多いんです。
逆に「相手に対し、こうしたい」とか「自分はこうなりたい」のように、矢印が外向きの時は、メンタルの状態がいいときだと気づきました。
だから、「最近、うまくいかないな」と感じた時は、ノートに書きだして、自分の矢印の状態を整理しています。

編集部:
今まで、誰かに言われて印象に残った言葉はありますか?

モグさん:
大学4年生の頃、チームを引っ張るリーダーをしていました。監督やコーチとは何でも言える関係だったのですが、ヘッドコーチから言われたのが「人間性を変えれば、プレーも変わるよ」でした。言われてみれば、あまりにも自分自身のやりたいことが先走り過ぎていて、子どもっぽいところがあったと思います。
その言葉をきっかけに、「自分は誰にどんな影響を与えているのか」と考えるようになりました。素敵な人間になろうと思うようになったことが大学時代の大きな発見です。
ラクロスで強くなるためには、技術や戦術などいろいろな要素があります。でも、最終的には、気持ちを強く持ってる人が大きく出てくることが多い気がしています。

編集部:
大学生の頃から、監督やコーチとはしっかりとコミュニケーションが取れていたのですね。

モグさん:
その頃は、「直コミ」が絶対キーワードだったんです。部員同士も、LINEじゃなくて、直接コミュニケーションをとることを大切にしていました。お互いにどんなことを考えているかは、話さないとわかりません。本音で話をできる関係を大切にしてきました。

編集部:
社会人になった今はどうですか?

モグさん:
社会人のクラブチームの方が難しいですね。社会人になってもラクロスを続けている理由がそれぞれ違います。必ずしも全員が日本一になりたいという気持ちだけでラクロスをしているわけではありません。チームに所属していることが楽しいとか、自分にとってプラスになるとか。その熱量の差をどう埋めるのか、そもそも埋める必要があるのか悩ましいところです。
もちろん、ラクロスが好きで全員がつながっているという安心感はあるので、そこでうまくコミュニケーションを取っていくしかないんだろうなと思っています。

編集部:
チームを引っ張る立場として、チームメイトのメンタルケアで工夫をしていることはありますか?

モグさん:
チームの中にも役割みたいなものがあります。気持ちが落ちているときに、私と話すと熱量負けをしてしまうらしく、相手にとってプラスにならないことも少なくないと感じています。
私の役目は背中を見せて前を走ることであり、ケアは話し上手な人や寄り添うことが得意な人に任せています。

競技しながら働くということ

編集部:
アスリートとしての経験が仕事に生きていると感じることはありますか?

モグさん:
ラクロスは、決断と判断の連続です。ここにパスを出せば、相手が嫌がるとか、シュートが入るとか。仕事も同じで、自分が決断や判断するタイミングに対し、常にアンテナを張っています。
私の周りには、仕事も競技も充実しているという人が多く、両立させることには大きなメリットがあると感じています。

編集部:
そうはいっても、仕事と競技の両立はなかなか難しいのではないでしょうか。

モグさん:
私が担当している仕事は、決められた時間にしなければいけないことが少ないんです。期限に対し、自分で計算してできる仕事が多いので、おそらく意図的にそういう仕事を振ってくださっているのだと思います。
両立ができているのは、周りから支えられているということを痛感しています。

編集部:
今後の目標を教えてください。

モグさん:
2028年のロサンゼルスオリンピックで、ラクロスが正式種目になる可能性が高いと言われています。大きな夢としては、そのときに母になってフィールドに立つことです。
まずは、6月末から行われる世界大会で5位以上という目標を達成して、ラクロスの面白さをみんなに知ってほしいと考えています。

編集部:
世界大会を楽しみにしています。
頑張ってください!


モグ(細梅志保美)さん
株式会社アスポ アスリート社員。
ラクロス選手として社会人女子クラブチームFUSIONに所属。
Animal Flow Lv.1・Lv.2インストラクター AFAA IGFI JLA-B級指導者。
現在は明治大学他でコーチも務める。
高校時代はバスケットボールを経験し、明治大学入学をきっかけにラクロスを始める。

【ラクロス選抜歴】
2015年 女子22歳以下日本代表
2016-2017年 女子日本代表
2018-2019年 全国強化指定選手団
2020-2022年 女子日本代表

【ラクロス受賞歴】
2014年:ラクロス全日本大学選手権大会 優勝/ラクロス全日本選手権大会 優勝
2015年:ラクロス全日本大学選手権大会 優勝、MVP受賞/ラクロス全日本選手権大会 優勝
2016年:ラクロス全日本大学選手権大会 準優勝/ラクロス全日本選手権大会 準優勝、VP受賞/関東リーグベスト12
2017年:ラクロス全日本クラブ選手権大会 2位
2018年:ラクロス全日本クラブ選手権大会 3位
2019年:ラクロス全日本クラブ選手権大会 2位
2020年:関東クラブラクロス2020 特別大会 3位
2021年:ラクロス全日本クラブ選手権大会 3位