今月より、国内外のサッカークラブでコーチとして活躍するとともに、プロサッカー選手の三浦知良選手のパーソナルコーチとしても経験豊富な喜熨斗勝史(きのし かつひと)さんのコラムがスタートします!

第1回目は「なりたい自分を目指す Life Conditioning」というテーマで記事をお寄せいただきました。


喜熨斗 勝史(きのし かつひと / 1964年10月6日 生まれ)

  • 日本サッカー協会公認S級コーチ(監督・コーチ・フィジカルコーチ)

日本のサッカー指導者。東京都練馬区出身。日本体育大学、東京大学大学院修了。Jリーグでトップチームのコーチを歴任したのち、中国スーパーリーグに移籍した。2016年から、中国スーパーリーグでは唯一の日本人コーチ。語学力を活かし、グラウンドでは英語、ポルトガル語での指導もできる。

三浦知良選手の活躍の裏にライフコンディショニングあり!

皆さんもご存じの通り、先日、J1リーグ横浜FCに所属する三浦知良選手(53歳)が、J1リーグ最年長出場記録を更新しました。

試合では、若手と同じように動き、声を出し、ボールを奪われることなく、アグレッシブなプレーを見せてくれました。得点こそ決められませんでしたが、55分に途中交代するまで、首位の川崎フロンターレを相手に互角に戦い、相手監督やサポーターからも拍手を送られてピッチを後にしました。

このニュースを聞いて、皆さんはどのように思われたでしょうか。「さすがカズだな」「すごいな、自分とは違うな」「なんで、あの歳まで、プロでサッカーができるのかな」など、いずれにしても、驚きと称賛の意見がほとんどだと思います。

中には「若手に道を譲るべきだ」とか「そろそろ潮時じゃないか」という、ややネガティブな意見もありますが、ここではカズの日ごろの頑張りに免じて、目をつむることにしましょう。では、なぜカズはここまで最前線で頑張ってこられたのでしょうか?その答えが「Life Conditioning」(※1)という言葉の中にあるのです。

※1)Life Conditioningについて

Life Conditioningとは「あなたの持っている力を最大限に引き出すための準備」のことを指します。

「フィジカル」「メンタル」「インテリジェンス」をバランスよく鍛えることで、人としての器(=立方体)が大きくなり、「Work Conditioning」を向上させる空間も大きくなります。

本記事では、Work(仕事)のみならず、Life(生活)の全てを見直して、リンクさせるために、長年第一線で活躍されている三浦知良選手のストーリーをご紹介していきます。

30代後半 ライフコンディショニングプログラム始動!

私がカズに出会ったのは、1995年。カズが加茂ジャパンの代表選手の時でした。フィジカルコーチ(ブラジル人)のサポートで、フィジカルチェックをした時です。

まだ20代だったカズは、勢いでプレーしても十分活躍できる選手でしたが、体脂肪のデータが悪いことを伝え「このままでは、将来大変だ」と伝えて、キャンプを後にしたのを覚えています。

時は流れ、2003年。ベルマーレ平塚、セレッソ大阪、浦和レッズのコーチを歴任し、大宮アルディージャに所属していた私に、カズから電話が入ったのです。

30代後半になり、ヴィッセル神戸でレギュラーの座を奪われたカズからの相談でした。

「もっと、切れる体を作って、トップチームで試合に出たい」「そろそろいい歳だけど、まだまだプロ選手としてワールドカップを目指したい」そんな想いを吐き出すように話してくれました。

私は「とにかく、プロサッカー選手でいたい」そんなモチベーションを強く感じました。その日から、私とカズのプロ選手としてのコンディショニング、つまりカズにとっての「Life Conditioning」改善プログラムが始動したのです。

なりたい自分になる秘訣「バランスよく鍛えて可能性の立方体を大きく!」

カズの場合「なりたい自分」ははっきりしています。

よく、ある程度年齢のいった人(私もそうですが)が、「若返りたい」とか「あの時の自分を」などと言うのを聞きますが、時間は、だれにも逆に動かすことはできません。それは、キングと呼ばれるカズの場合も同じです。

過去に戻るのではなく、これから自分の力で変えることのできる未来に目を向ける。そして、なりたい自分になるために、やらなくてはいけないこと、やってはいけないこと、やらなくてもいいこと、をはっきりさせなくてはなりません。

チームトレーニングの内容、個人トレーニングの内容、生活リズム、休養(睡眠)のとりかた、食事の内容やタイミング、空いた時間の過ごし方、勉強しなければいけないこと、などなど。生活のすべてを見直し、すべてをリンクさせて、プロジェクトはスタートしたのです。

もちろん、改善点は大量にありました(本人も自覚していたと思います(笑))。一度にスタートするのは無理があります。まずは問題点を自覚し、どうすればいいか学ぶことからスタートしました。

そして、決心がついたら始める。結果を見ながら継続する。そんな流れで、今や恒例のグアムキャンプがスタートしたのです。ただ、終始一貫して気を付けたのが、「フィジカル」と「インテリジェンス」と「メンタル」のバランスです。

人間としての大きさを大きくしなければ「Life Condition」は上がらない。それがカズと自分に共通する哲学でした。

我々はワーカー(仕事人)である前に、ヒューマン(人間)です。

パフォーマンスを上げるために、フィジカルだけ鍛えたり、頭だけ良くしたり、リラックスしているだけだと、必ず歪みが生じます。この3つをバランスよく鍛え、3次元の立方体的に大きくしていかなければ、なりたい自分にはなれないのです。

それぞれに適度な負荷をかけ、休養を取り、回復して次のステップへ。これをゆっくりと少しずつ繰り返すことで、あなたの立方体は大きくなっていくでしょう。

キングカズのように、いつまでもアグレッシブに結果を出し続けるのは、並大抵のことではありません。それに、始めの一歩を踏み出すには、大きなエネルギーが必要です。

さらに、現代はネット社会。トレーニングや栄養、コンディショニングに関する情報も必要以上に溢れています。何からどう始めればいいのか、迷っていたり、始めてみたけど続かなかったりと、皆さんの悩みは尽きません。

そんな、悩みを解決し、皆さんの持っている力を最大限に発揮し、なりたい自分に近づく秘訣を「Work Conditioning Tips!」でお伝えしてきます。

次回は、よく言う「トレーニング」についてです。

編集後記

三浦知良選手が長年第一線で活躍されている舞台裏には、戦略的な「Life conditioning」があったのですね!

プロのスポーツ選手が実践しているコンディショニングの考え方は、オフィスワーカーの皆さんのWork conditioningにも応用できます。次回の記事もぜひ楽しみにお待ち下さい!