「たくさん動いた日はよく眠れる」という経験は、誰しもが一度はしたことがあるのではないでしょうか?

近年、「仕事の生産性(=ワークパフォーマンス)を高める」ことは、必須のビジネススキルの1つと言って良いくらい注目を集めています。

いかにして、短時間でクオリティの高い仕事をするかや、クリエイティブを発揮するかといったことが、仕事の充実度を高め、それがプライベートの充実にもつながり、良いワークライフバランスを保つ上でも重要になっています。

そして、仕事の生産性を高める上で必須となるのが「良い睡眠をとること」です。

本記事では、様々ある睡眠を改善する方法の1つとして「運動と睡眠の関係」について掘り下げていきます。

国内外の様々な研究によって、適度な運動が睡眠の質を高めることや、運動習慣のある人は不眠や睡眠障害になりにくいことが明らかになっています1が、具体的に、運動をするとなぜ睡眠が改善するのか?睡眠の質を高めるためには “いつ” “どのような” 運動をしたら良いのか?といった疑問に、科学的根拠に基づいてご紹介していきます。

特に、普段不眠傾向にあるという方は、運動による睡眠の改善効果はかなりはっきり出ると言われているため、ぜひご一読いただき、できそうなところから実践してみていただけると良いかと思います。

「深部体温の低下」がスムーズな入眠を促進する

ヒトには体内時計(=サーカディアンリズム)と呼ばれるものが存在し、この体内時計に合わせて深部体温が上がったり下がったりしています。

基本的に深部体温は、夕方から夜にかけて最も高くなり、深夜(明け方)に最も低くなります(上図の黒線参照)。作業療法士の菅原洋平先生によれば、深部体温が1日のうちで最も高くなるのは「起床から11時間後」ということです2

「深部体温が下がっていく」ことで眠気が起きるため、体内時計によってヒトは自然と夜の時間になると眠くなって入眠していくのですが、この深部体温の下降を更に強めるための効果的な方法の1つが「運動」となります。

「就寝4〜6時間前の運動」が睡眠を改善する

運動をすると体温が上がりますが、ヒトには体温を常に一定に保とうとする「恒常性(=ホメオスタシス)」の機能があるため、短時間で体温がグッと上昇すると、運動を終えた後にグッと下降します(上図の赤線参照)。

体内時計による深部体温の低下に加えて、運動後の深部体温の下降のタイミングをうまく組み合わせることで、相乗効果によって深部体温の下降がスムーズに起こり、入眠が促進されるとともに、入眠直後の深い睡眠(=徐波睡眠)が増加するため、熟睡感の向上など睡眠の質が高まることがわかっています。

「就寝90〜120分前の入浴」も睡眠の改善に効果的

寝付きが悪い人必読!寝付きが良くなる6つの入眠スイッチ」の記事で紹介していますが、深部体温の上昇と下降を利用した睡眠の改善には、運動以外に「入浴(お風呂に入る)」も有効です。

2019年に発表されたレビュー3では、就寝の90〜120分前に40〜43℃のお風呂に浸かるか、シャワーを5〜10分浴びることで、入眠までの時間が約10分短縮されることが報告されています。

不眠でお悩みの方は、就寝4〜6時間前の運動に加えて、就寝90〜120分前の入浴も加えると、より睡眠の改善に効果的と言えます。

夜型の人は「午前中の運動」で体内時計が整う

夕方から夜にかけての運動は、深部体温の上昇と下降を使った睡眠の改善方法ですが、午前中の運動は「体内時計の調整」に効果的であることがわかっており、それによって睡眠の改善が期待できます。

夜型の人や、夜ふかしをしてしまった翌日は、午前中に運動をすることで、後ろにズレていた体内時計を前進させることができ、睡眠ホルモンと呼ばれる「メラトニン」の分泌を早めることができて、睡眠リズムの調整に効果的です。

いつもより就寝が遅くなってしまったときに、仕事の開始前などに軽い運動を行うことで、体内時計が調整されて、日中にしっかりと脳を働かせて仕事をすることや、夜いつもの時間にスムーズに入眠することにつながります。

習慣的な運動が睡眠の改善に効果的

2015年に行われた研究4によると、週2〜3回の中〜高強度運動を6週間継続したところ、特に中度〜重度の不眠患者の睡眠が顕著に改善したことを報告しています。

具体的には、習慣的な運動によって下記のような要素が改善することがわかっています5

  • ノンレム睡眠(=深い睡眠)の増加
  • レム睡眠(=浅い睡眠)の減少
  • 入眠にかかる時間の短縮
  • 総睡眠時間の増加
  • 中途覚醒(=深夜に起きてしまう時間)の減少

寝付きをよくしたい方や、睡眠の質を高めたい方は、軽い運動でも問題ないので習慣的(週2〜3回)に運動を行うと良いでしょう。

またこの研究では、特に不眠傾向にある方は顕著に習慣的な運動による睡眠の改善効果が高いことが報告されているため、不眠でお悩みの方はぜひ運動の習慣をつけることをおすすめします。

習慣化については「習慣化のコツまとめ|新しい習慣を身につける科学的アプローチ」の記事でまとめていますので、こちらもぜひご一読ください。

「たった1回の運動」でもその日の睡眠は改善する

運動による睡眠の改善効果は、その日にすぐ出ます。

Rovedaらによる2011年の研究6によれば、どんな運動を行ったとしても(筋力トレーニング、有酸素運動、など)、その日の睡眠時間を増加させる効果があることを報告しています。

つまり「たくさん動いた日はよく眠れる」は、研究によっても証明されているということになります。

しかし、1回の運動の睡眠改善効果はその日のみにしか影響せず、次の日の睡眠時間を増加させる効果はないことが報告されています。

上記したような睡眠の様々な要素を改善して、毎日の睡眠の質を高めたい場合は、習慣的に運動を行う必要があります。

睡眠の改善に効果的な運動の内容・強度・時間

どんな運動が睡眠の改善に効果的か?については、有酸素運動(ウォーキングや速歩、ジョギング、水泳、サイクリングなど)をはじめ、筋力トレーニング(自重、ウエイトトレーニングなど)、ヨガ、ピラティス、その他自分の好きな運動やスポーツであれば、基本的にどんな運動でも睡眠に良い影響を与えることがわかっています。

運動の強度は「軽く汗をかく程度の運動」で充分に睡眠の改善効果が期待できます。心拍数で言うと、最大心拍数の70%前後になるような強度の運動が最適と言えます(最大心拍数=220−年齢)。

筋肉痛が発生するほどの強度での運動は、寝付きを悪くしたり、睡眠の質の低下を引き起こす可能性があるため、注意が必要です。

運動時間は1日に「20〜60分」程度が目安ですが、1日を通して身体を動かしている時間がたくさんあれば睡眠の改善につながるため、運動時間が1回5分であってもやるべきであり、睡眠の改善にプラスの影響を与えます。

まとめ

運動をすることで睡眠が改善するメカニズムや、一回限りの運動と継続的な運動習慣による睡眠への影響の違い、更に睡眠改善のための運動の種類や強度などについてお伝えしました。

ベッドに入ってもなかなか寝付けない、夜中に必ず目が覚めてしまうなど、睡眠に関するお悩みがある方はぜひ、夕食前後(=就寝の4〜6時間前)での軽い運動を取り入れてみてください。

参考文献・資料

  1. メンタリストDaiGo. 賢者の睡眠. リベラル社; 2021.
  2. 菅原洋平. 睡眠、仕事すべてのパフォーマンスをあげる体内時計の3つの法則. インプレス(Impress Corporation); 2013.
  3. Haghayegh S, Khoshnevis S, Smolensky MH, Diller KR, Castriotta RJ. Before-bedtime passive body heating by warm shower or bath to improve sleep: A systematic review and meta-analysis. Sleep Med Rev. 2019;46:124-135.
  4. Hartescu I, Morgan K, Stevinson CD. Increased physical activity improves sleep and mood outcomes in inactive people with insomnia: a randomized controlled trial. J Sleep Res. 2015;24(5):526-534.
  5. Kubitz KA, Landers DM, Petruzzello SJ, Han M. The effects of acute and chronic exercise on sleep. A meta-analytic review. Sports Med. 1996;21(4):277-291.
  6. Roveda E, Montaruli A, Calogiuri G, Carandente F, Sciolla C, Angeli A. Effects of endurance and strength acute exercise on night sleep quality. Int SportMed J. 2011;12(3):113-124.