テレワークの普及などで働き方が変わり、新しい生活様式の実践によってライフスタイルが変わり、「最近疲れやすくなった気がする」「休んでもなかなか疲れがとれない」といったことを感じているビジネスパーソンが増えています。

日本疲労学会は、健康な人における「疲労」を「一般に、運動や労力などの身体作業(運動)負荷、あるいはデスクワークなどの精神作業負荷を連続して与えられたときにみられる、身体的あるいは精神的パフォーマンス(作業効率)の低下現象」と定義しています1

「疲れる」と聞くと、1日中立ちっぱなしだったから疲れた、ジムで筋トレして疲れた、子供と遊んで疲れた、など「肉体的・身体的な疲労」をイメージする方が多いかもしれませんが、定義にあるように「デスクワークなどの精神作業負荷」によっても、私たちは疲れます。

「毎日テレワークで、ずっと座ったまま仕事をしているのに、なんでこんなに疲れるのだろう」と感じる方もいるかもしれませんが、これは「精神作業負荷による疲労」と考えられます。

また、疲労の定義の中で出てくる「パフォーマンスの低下現象」とは「本来の能力を発揮できない状態」をさし、具体的に言うと「思考力や注意力の低下」、もしくは「目がかすむ」「頭痛がする」「腰が痛い」といった症状が現れた状態となります2

つまり、ビジネスパーソンが毎日高いパフォーマンスを発揮して仕事を行うためには、疲労がたまらないようにする、もしくはたまった疲労をとっていくことで、パフォーマンスの低下を防ぎ、本来の能力を発揮できる状態をキープすることが非常に重要となります。

そして、ビジネスパーソンの多くが悩まされる「精神作業負荷」による疲労を解消し、心身をリラックスさせるためのカギを握っているのが「迷走神経(めいそうしんけい)」と呼ばれる神経を活性化させることです。

迷走神経とは?

自律神経には、「緊張を作る交感神経」と「リラックスを作る副交感神経」がありますが、迷走神経はこの2つのうち「副交感神経」の一種です。

疲れがたまりにくい体を作る、もしくはたまった疲労を回復させるためには、交感神経と副交感神経がバランスよく働いている状態を作る必要がありますが、現代人、特に毎日忙しく働くビジネスパーソンの多くは、交感神経が常に優位な状態である場合が多いです。

よって、自律神経のバランスをとるためには、意識的に副交感神経を優位にする行動をとる必要があるのですが、副交感神経がしっかりと働く体にする上で欠かせないのがこの「迷走神経」の活性化なのです。

迷走神経は、脳から始まり、目元・耳元・首元を通って、すべての内臓に枝分かれしていく神経であり、かなり広い領域をカバーする神経です。

全身に張り巡らされているこの迷走神経を活性化させることで、効果的に副交感神経のスイッチを入れることができるのです。

「自律神経」に関して詳しく知りたい方は「夏バテ予防はお早めに~自律神経を鍛える夏バテ予防方法~」をお読みください。

迷走神経を活性化させる4つの方法

迷走神経を活性化する上で、質の高い睡眠をとることや、栄養バランスの良い食事を摂るといった、日常の生活習慣の見直し・改善はもちろん重要です。

ですが「もっとパッとできる方法を知りたい!」「すぐに効果が出るものをやりたい!」という方のために、簡単にできて、しかも効果があることが報告されている、迷走神経を活性化させる方法を4つお伝えします。

良い睡眠習慣の作り方については「あなたの肥満の原因は『睡眠不足』かもしれない」、食事改善については「『感じる+考える』からはじめる食事改善」の記事もぜひお読みください。

1)歌を歌う

上記したように、迷走神経は喉元のあたりを通ります。よって、カラオケのように歌を歌ったり、鼻歌を歌ったり、ハミングをしたりすることで、喉元が刺激され、迷走神経が活性化してリラクゼーション反応が起きます3

後ほど、迷走神経を活性化させる方法として「深呼吸」も出てきますが、歌を歌うという行為は、息を長く吐くことにもなり、顔の筋肉を動かすことにもなりますね。

このような行為が、迷走神経はもちろん、副交感神経に働きかける他の脳神経も活性化させることができるため、少し疲れてきたかなと感じた時は、休憩がてら一曲歌ったり、鼻歌を歌ってみるといいですよ。

2)うがいをする

うがいをするときに使う筋肉は、迷走神経とつながっています。また「歌を歌う」と同様に、うがいをすることは喉元を刺激するため、やはり迷走神経の活性化につながります。

外出自粛やテレワークの普及によって「座りっぱなしは健康に良くない」というのが盛んに叫ばれておりますが、お仕事中、少し疲れたなと感じたときや、集中力を取り戻したいなと思った時は、一度立ち上がってうがいを数回行って、お仕事に戻ってみましょう。

迷走神経の働きによって副交感神経が活性化するため、リフレッシュ感や落ち着きを取り戻す効果があるとともに、座りっぱなしの予防にもなりますよ。

3)顔や体を冷やす

多くの研究によって「運動後に水風呂に入ることで、運動パフォーマンスの回復を早める」ということが報告されていますが4体を冷やすことは迷走神経を活性化させて、副交感神経を優位にすることもわかっています5

水風呂に入ると、入った直後は一時的に交感神経が活性化されますが、その後迷走神経の働きにより副交感神経が活性化され、リラックス効果が期待できます。

ですが、自宅で水風呂を準備するのはなかなか大変ですよね?そんな場合は冷たいシャワーを浴びたり、冷水で顔を洗うだけでもOKです。前述しましたが、迷走神経は目元の近くを通っているため、顔を冷やすことで迷走神経を刺激することができます。

長時間デスクワークを行ったり、プレゼン発表など強いストレスがかかった後などに、ちょっとだけ時間をとって、冷たい水で顔を洗うだけでも、自律神経のバランスが整って、落ち着きを取り戻すことができたり、心身のリラックスにつながります。

4)ゆったりとした呼吸

迷走神経を活性化させる方法として「呼吸の回数を減らす」ことと「息をしっかり吐く」ことも挙げられます。

自律神経は、息を吸うときに交感神経が優位になり、息を吐く時は副交感神経が優位になります。よって、息をしっかりと吐くことを意識することで、副交感神経を優位にしていくことができます。

また、呼吸という行為は「酸素を体に取り入れる」ために行ないますが、呼吸の回数が多いと、逆に体は酸素をうまく取り入れられなくなります。

3秒に1回のペースで呼吸をしていると、その時に吸い込んだ酸素の約50%程度しか、実際には体で代謝する(=酸素を体に取り入れ、血流にのせて全身に運び、細胞に取り込むこと)ことができません2。5秒に1回のペースで呼吸をすると約75%、10秒に1回だと約85%となります。

よって「4秒で吸って、6秒で吐く」という呼吸のペースで、できれば5分間、難しければ1分間だけでもいいので、このペースで呼吸をする時間をとってみましょう。副交感神経が優位になることで疲れの解消になることはもちろん、酸素を効率よく代謝できるようになることで、認知機能アップやうつ症状の軽減効果も報告されています2

まとめ

多くの方にとって「迷走神経」は聞き馴染みのない言葉だったと思います。ですが、この迷走神経を活性化させるために行うべきことは、とても簡単なものばかりですよね?

1日中仕事をしていたり、仕事のことを考えていたり、常に締切に追われていたり、といったビジネスパーソンの方は特に、1日に数分だけでも、迷走神経を刺激して、副交感神経が優位になる時間を作ることが、疲れをためないこと、もしくは疲れをとることにつながります。

毎日高いワークパフォーマンスを発揮できるように、ぜひ迷走神経を刺激して、疲れのマネジメントをしていきましょう。

参考文献・資料

  1. 日本疲労学会 (2011) .「抗疲労臨床評価ガイドライン」. http://www.hirougakkai.com/guideline.pdf , (参照 2021-10-01) . ↩︎
  2. 山田知生. スタンフォード式脳と体の強化書. 大和書房; 2021 ↩︎
  3. Vickhoff, B., Malmgren, H., Aström, R., Nyberg, G., Ekström, S. R., Engwall, M., Snygg, J., Nilsson, M., & Jörnsten, R. (2013). Music structure determines heart rate variability of singers. Frontiers in psychology4, 334. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2013.00334 ↩︎
  4. Versey, N.G., Halson, S.L. & Dawson, B.T. Water Immersion Recovery for Athletes: Effect on Exercise Performance and Practical Recommendations. Sports Med 43,1101–1130 (2013). https://doi.org/10.1007/s40279-013-0063-8 ↩︎
  5. Mäkinen TM, Mäntysaari M, Pääkkönen T, Jokelainen J, Palinkas LA, Hassi J, Leppäluoto J, Tahvanainen K, Rintamäki H. Autonomic nervous function during whole-body cold exposure before and after cold acclimation. Aviat Space Environ Med. 2008 Sep;79(9):875-82. doi: 10.3357/asem.2235.2008. PMID: 18785356. ↩︎