「最近太ったな〜」と感じたとき、あなたは何が原因だと考えますか?

多くの人は「最近食べ過ぎかなー」とか「最近運動してないもんなー」といったことがまず思い浮かぶと思いますが、最近の多くの研究で「睡眠不足だとヒトは太りやすくなる」ということがわかってきています。

コロンビア大学の研究には、睡眠時間が4時間以下の人は、睡眠時間が7〜9時間の人と比較すると73%も太りやすくなる、と示されています。

「肥満」と「睡眠」は、一見すると関係なさそうに感じますが、実はものすごく関係があります。

本記事では、なぜ睡眠不足になると太りやすくなってしまうのか?また、太らないための睡眠の方法をお伝えします。

睡眠が肥満を引き起こす2つの理由

睡眠不足になると太りやすくなってしまう2つの理由をお伝えします。

1)代謝が低下する

私達は1日の中で多くのエネルギーを消費します。

ヒトが生きているだけ(何もせず、じっと寝ているだけ)で消費する、生命活動に最低限必要なエネルギー量のことを「基礎代謝量」と言います。

基礎代謝量とは別に、日常生活で身体を動かすためのエネルギー量を「活動代謝量」と言います。

これら2つの代謝量が、寝不足になるとどちらとも下がることがわかっています。同じ生活、同じ活動量でも、エネルギーをあまり使わない体になってしまうため、消費エネルギーが減ることで、太りやすくなってしまうのです。

寝不足になると、元気がなくなり、頭はボーッとして脳が働かなくなり、動くのもおっくうになるため、1日の身体活動の量が減ってしまいます。単純に体を動かさなくなることにもつながり、エネルギーの消費量が減ってしまいます。

2)食事に関係するホルモンのバランスが悪くなる

食事に関係する3つの代表的なホルモンとは「レプチン」「グレリン」「インスリン」です。

レプチンは「食べ過ぎを抑えるホルモン」と言われ、グレリンは逆に「食欲を増進させるホルモン」と言われます。

睡眠が不足すると、満腹感を促してくれるレプチンは出づらくなり、逆に空腹感を感じさせるグレリンが出やすくなります1。つまり、食欲がどんどん湧いて、抑制が効かなくなるということ。寝不足になると何かを常に口に入れたくなり、摂取カロリーが増えてしまうのです。

インスリンは、どこかで聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。インスリンは「血糖値を下げるホルモン」です。

食事をしたり飲み物を飲んだりして糖質を摂取すると血糖値は上がり、脳や体を使ってエネルギーを使うと血糖値は下がっていきます。血糖値が上がったままの状態が続くと、血管を傷つけ、網膜症や腎症といった病気(=糖尿病の合併症)につながってしまうので、血糖値を下げる必要があります。

体にとっての正常な血糖値を超えると、すい臓からインスリンが分泌され、正常な範囲の血糖値に戻してくれるのですが、寝不足が続くとインスリンの分泌が悪くなるとともに、インスリン自体の能力も低下してしまうため、速やかに血糖値が下がらなくなります。これが慢性化してしまうのが「糖尿病」です。

睡眠不足になることで、インスリンの働きが悪くなってしまうと、働かない分、量で補おうと、インスリンが大量に分泌されます。

大量のインスリンは血圧を上げ、中性脂肪の合成を促し、糖尿病になるリスクも上がってしまうため、睡眠不足が続くと肥満につながることになります。

良い睡眠習慣で肥満を予防する

睡眠と肥満の関係をここまで解説してきました。では、どのようにして「良い睡眠習慣」を作れば良いのでしょうか?

覚えておきたいことは「睡眠に入る3時間前の行動で睡眠の質は変わる」ということです。4つのポイントを紹介します。

1)睡眠の「量」が一番重要。量を確保した上で「質」を高める

睡眠の話をするとまず思いつくのが「何時間くらい寝れば良いのか」という睡眠時間についてです。睡眠時間は、多ければ多いほうが良いという単純なものではありません。人によって最適な睡眠時間の量が異なります。

米国の国立睡眠財団(National Sleep Foundation)によれば、年齢別に推奨される睡眠時間は以下の通りです2

  • 0〜3ヶ月:14〜17時間
  • 4〜11ヶ月:12〜15時間
  • 1〜2歳:11〜14時間
  • 3〜5歳:10〜13時間
  • 6〜13歳:9〜11時間
  • 14〜17歳:8〜10時間
  • 18〜25歳:7〜9時間
  • 26〜64歳:7〜9時間
  • 65歳以上:7〜8時間

こちらのリストを参考に、必要最低限の睡眠時間量は確保しましょう。

睡眠時間量を確保した上で睡眠の質を高めてはじめて「良い睡眠」となります。睡眠の質を高めるためのポイントをここから紹介します。

2)寝る3時間前(もしくは日の入から3時間以内)までに夕食を済ませる

食事の後、体内では、消化・吸収するために胃や腸といった内臓が活発に働き始めます。寝る直前に食事をしてしまうと、起きている間に消化が終わらず、寝ている間も内臓が消化活動を続けることになります。

本来であれば脳も体も休養するのが睡眠ですが、消化をするために内臓が働いていれば、体は休まりませんよね? ですので、寝る直前(3時間以内)に食事を摂ることは、睡眠の質を下げてしまいます。

もしどうしてもお腹がすいて眠れないという場合は、温かいスープやホットミルクなど、消化の良いものにしましょう。

1つ注意点としては、「寝る3時間前までならいいんだ!」と考えて「私は深夜3時に就寝するから夜0時までは食べても大丈夫!」と考える方がいらっしゃいますが、これは間違いです。

ヒトには体内時計が備わっており、太陽が沈んで暗くなると(=夜になると)身体は「蓄積モード」となります。蓄積モードになってから食べたものは、その日のエネルギー源としては使わずに、明日のエネルギー源として貯蓄するようになります。

よって、蓄積モードになってから食事をすると、食べたものが明日のエネルギー用として貯蓄するために体脂肪に変換されやすく、つまり太りやすくなってしまうのです。

身体が蓄積モードに移行するのが「日の入りから約3時間後」と言われていますので、太陽が沈んで外が暗くなってきたら、そろそろ夕食を食べないとな、と考えていただくと良いかと思います。

また、眠れないときにお酒を飲むとすぐに寝ることができるという方がいますが、あまりおすすめできない入眠の方法です。

アルコールを飲んで酔っ払った状態というのは、脳が興奮している状態です。脳が興奮した状態での睡眠は質が下がります。

また、アルコールには利尿作用があるため、トイレに行きたくなって夜中起きてしまうという問題もあります。

3)寝る90〜120分前にお風呂に入る

寝る前にお風呂に入ると、リラックスして質の高い睡眠がとれそうですよね? ですが、寝る直前にお風呂に入ることは、逆に睡眠の質を下げてしまうことがわかっています3

お風呂に入ると深部体温が上がります。良い睡眠をとるためには、入眠するときに深部体温が下がっていたほうが良いのです。よって、眠る直前にお風呂に入って体温を上げてしまうと、眠れなくなってしまうのです。

そこでおすすめしたいのが「寝る90〜120分前にお風呂に入る」こと。

人間の身体は体温を一定に保とうとするので、お風呂に入って体温が上がると、お風呂から出た後に上がった分を下げていきます。この「身体が体温を下げていく機能」を利用して、体温が下がってきているタイミングで睡眠に入ることで、効率的に入眠を迎えることができ、結果として質の高い睡眠を得ることができます。

お仕事などで帰りが遅く、寝る90分前にお風呂に入るなんて時間的に無理だという方は、お風呂の温度をぬるめにするか、シャワーのみで済ませましょう。

シャワーのみで良いという方は、最後に足首に1〜2分ほどシャワーをあてることで、身体の体温を上げることができ、約60分後には体温が下がってきているので、そのタイミングで寝ることで睡眠の質を上げることができます。

4)寝る直前にテレビ・スマホ・タブレット・パソコンを見るのは控える

多くのテレビや書籍で言われていますが、寝る直前にこれらのモニターの光を見てしまうと睡眠の質が下がってしまいます。

よく「ブルーライト」が話題になりますが、それと同じくらい良くないのが、単純に「明るい光」をみることと、これらを操作し、情報を得ることで脳が活動を開始し、興奮してしまうことです。人は暗くなると眠くなるので、寝る直前はできるだけ明るい光は見ないようにし、脳を興奮させないようにしましょう。

脳を興奮させない、ということを考えると、寝る前に「仕事をする」ことも避けたいですね。パソコンでの作業はもちろん控えたいですが、それらを使わない仕事でも、頭を働かせなければいけない作業は脳を興奮させるため、やはり睡眠の質を下げてしまいます。

まとめ

もしあなたが寝る直前に夕食や夜食を食べていたり、お風呂に入っていたり、スマホやタブレットなどをみていたりする場合、あなたの睡眠の質はかなり下がっている可能性があります。

最近食事をコントロールしていてもやせないなーとか、むしろ太っているという場合は、もしかしたら睡眠が原因かもしれません。

寝る前は脳を興奮させないようにし、脳と体がしっかりと休まるようにしましょう。寝る前の行動で睡眠の質は変わり、結果として太りにくいライフスタイルを作り上げることができますよ。

参考文献・資料

  1. Patel SR, Hu FB. Short sleep duration and weight gain: a systematic review. Obesity . 2008;16(3):643-653.
  2. Hirshkowitz M, Whiton K, Albert SM, et al. National Sleep Foundation’s updated sleep duration recommendations: final report. Sleep Health. 2015;1(4):233-243. doi:10.1016/j.sleh.2015.10.004
  3. Haghayegh S, Khoshnevis S, Smolensky MH, Diller KR, Castriotta RJ. Before-bedtime passive body heating by warm shower or bath to improve sleep: A systematic review and meta-analysis. Sleep Med Rev. 2019;46:124-135.