「ダイエットをして見た目をよくしたい」「体重を減らして健康になりたい」という方は多いかと思います。

低糖質ダイエットやグルテンフリーダイエット、8時間ダイエットやファスティングなど、数々のダイエット法が世の中には存在しますが、どんな方法を使用したとしても、ダイエットの基本は以下の2つに集約されます1

  1. 食事量をコントロールして摂取カロリーを減らす
  2. 身体活動量を増やして消費カロリーを増やす

これを言うと、こんな声が聞こえてきます。

「そんなことは頭ではわかってるんだよ。でもできないから困ってるんだよ」

そう感じている方にオススメなのが「レコーディングダイエット(記録をつけるダイエット)」です。

本記事では、2022年に日本肥満学会から発表された肥満症診療ガイドライン20222や、諸外国の肥満改善のためのガイドラインといった信頼できるエビデンスを基に、なぜレコーディング(=記録)することでダイエットの成功率が高まるのかを解説します。その後、何を記録すれば良いのか、具体的なレコーディングダイエットのやり方を詳しくお伝えします。

体重を減らすために費やす労力を無駄にしたくない!という方は、ぜひこの記事を読んでレコーディングダイエットを実践してみていただければと思います。

レコーディングダイエットとは?

A recording diet is a form of behavioral therapy, technically called "self-monitoring."

レコーディングダイエットとは行動療法の1つで、専門的には「セルフモニタリング」と呼ばれます。

行動療法とは、患者(=ダイエットをしたい人)の間違った思考や問題となっている行動を適切な方向に導いて、問題の解決や目標の達成をはかる技法のことを言います3

米国国立衛生研究所による肥満症治療のガイドライン4によれば、「摂取カロリーを減らすこと(=食事療法)」と「消費カロリーを増やすこと(=運動療法)」に加えて、この行動療法を一緒に行うことで、減量や減量した体重をキープする効果が高いことがわかっており、諸外国で発表されている肥満改善のためのガイドラインでも、行動療法を併用することが推奨されています。

セルフモニタリングとは?

セルフモニタリングとは「自分の行動や考え、感情などを自分で観察して記録する作業」のことを指します。

ダイエットを成功に導くための行動療法には様々な種類がありますが、セルフモニタリングは、肥満症診療ガイドライン20222をはじめ、多くの国のガイドラインにおいても、最も推奨される行動療法の1つとして紹介されています。

なぜレコーディングダイエットで成功率が高まるのか

まず前提として、ダイエットを始めようと思ったとき、まずするべきなのは「食事の管理(=摂取カロリーを減らすこと)」です。

2014年に発表されたレビュー5では、肥満者を対象に、以下の3パターンで、3〜6ヶ月という短期間でそれぞれどのくらいダイエットの効果があるのかが比較されました。

  1. 食事管理のみ(=摂取カロリーを減らす)
  2. 運動のみ(=週3〜5回の中・高強度有酸素運動)
  3. 食事と運動の両方

結果、3の食事と運動の両方のグループが一番減量できたものの、1の食事管理のみとそんなに大差がなかった、ということが報告されています(2と3は大きな差があった)。

すなわち、6ヶ月程度の期間でのダイエットでは、いかに食事をコントロールして摂取カロリーを減らし、「摂取カロリー<消費カロリー」の状態を作ることができるかが、ダイエット成功の大きな鍵を握ります。

そして、食事管理を成功に導くのが「レコーディングすること」なのです。

You may be taking in more calories than you subjectively perceive.

少し古いですが1992年に発表された研究6では、ダイエットがなかなかうまくいかないという224人の男女を被験者として、毎日の食事を正確に記録してもらうことに加えて、主観的にどれくらいカロリーを摂取したと思うかをインタビューして、自分の感覚と客観的なデータの違いを比較しました。

すると、多くの被験者がインタビューでは「1日1,200kcalも食べていないと思う」といった、1日の目標摂取カロリーを達成したといった回答をしたのに対して、記録された数値を見ると、本人の主観よりも平均で47%も摂取カロリーが多かったことがわかりました。

また「お菓子はほとんど食べず、野菜をたくさん食べました」といった回答をした被験者も多かったのに対し、実際に食べた野菜の量は報告された量より51%も少なかった、とも報告されています。

この研究からわかることは「自分が主観的に感じている以上にカロリーを摂取している可能性がある」ということです。

ヒトの記憶というのは、私達が考えている以上に曖昧なものです。自分にとって都合が悪いことが起こると、意図的ではなくても、無意識に、自分に都合よくその出来事を解釈する性質があります。

「今日のお昼は野菜をいっぱい食べたぞ!」と感じていても、実はとんかつの付け合わせのキャベツのみであり、それが記憶の中で大きくなっていただけといったことがよくあります。

しっかりと食べたものをレコーディングして、主観ではなく客観的に数値としてセルフモニタリングを行うことで、主観と客観のズレを修正し、摂取カロリーを正確に把握して「摂取<消費」の状態を作ることができれば、必ずダイエットは成功します。

自分の記憶や感覚に頼っていると「こんなに頑張ってるのに全然体重減らないわ…」という状態となり、こんなに頑張ってるのに減らないならもうやめた!となってしまうのです。

レコーディングダイエットのやり方

それでは、何をどう記録していけばよいのかといった、具体的なレコーディングダイエットのやり方について解説していきます。

米国国立衛生研究所によるガイドライン4をはじめ、多くの肥満改善のためのガイドライン7, 8で推奨されているのが、以下の3つをレコーディングすることです。

  1. 体重
  2. 食事
  3. 身体活動

それぞれ、どのように記録していけば良いのかをお伝えします。

1)体重

Graphical Weight Diary

多くのガイドライン2, 4, 7, 8によって、肥満を解消する上で体重を測定することは重要であると示されています。

また、それを記録して、視覚化することで、減量効果が上がることが実証されています9

肥満症診療ガイドライン2022では「1日4回(起床直後、朝食直後、夕食直後、就寝直前)」の体重測定が推奨されており、それを上画像のようにグラフ化することで、減量の進み具合や、体重が減っていかない問題点を可視化することができると示されています(肥満症診療ガイドライン2022では「グラフ化体重日記」と紹介されています)。

「1日4回は多くてしんどいな」と感じる方は、1日1回で良いので毎日測定しましょう。1日1回の場合は「起床直後」に測定することが推奨されています2

毎日同じタイミングで体重を測定することで「今日こんなに増えたってことは、昨日の〇〇が良くなかったのかな」といったように、すぐ自己修正が可能になります。

レコーディング方法については、デジタル機器の使用よりも紙に手で記入するほうが効果が高いと示すデータが多い10ですが、これは自分のやりやすいやり方(=毎日レコーディングしやすい方法)で良いと思いますので、好みの記録用のアプリやTo Doリスト系のアプリを試してみると良いでしょう。

TANITAやOMRONなどの体重計を使用すれば、測定すると自動的にスマホアプリに記録してグラフ化してくれるため、すごく簡単で継続しやすいかと思います。

2)食事

Apps exist that calculate calorie intake by simply taking a picture of what you eat.

前述したように、体重を減らすことが1番の目的の場合、ダイエット成功の鍵は食事の管理です。

より簡単に、短時間で食事内容を記録して摂取カロリーを把握するためには「ダイエット管理アプリ」の使用をオススメします。

「あすけん」「カロミル」「MyFitnessPal」といったアプリは、食べたものを写真に撮るだけで摂取カロリーを計算してくれたり、品物をメニューで検索することで栄養成分量を出してくれたりします。

私は「あすけん」を使用していますが、あすけんでは目標体重やいつまでに達成したいかを設定しておくと、1日の目標摂取カロリーを自動で設定してくれるため、後はとにかく食べたものを記録して、目標摂取カロリーの達成を目指すだけでOKです(他のアプリでも同じようなことができるはずです)。

1つポイントを挙げると、1日の終わりにまとめて記録するのではなく、毎食ごとに記録をしたほうが良い、ということです。

「記録することで健康になれるか?」というテーマのもと、レコーディングによって減量や禁煙、食生活の変化に与える影響をチェックしたレビュー11によれば、1日の中で食事について記録する回数は、多ければ多いほ食生活は改善する、ということが報告されています。

前述しましたが、私達ヒトの記憶というものは非常に曖昧で信頼できるものではありません。何かを口にしたらすぐに記録する、というクセをつけることで、より正確に摂取カロリーを把握することができ、ダイエット成功に近づきます。

3)身体活動

The number of steps and walking time per day increases simply by wearing the wearable.

減量が目的の場合、最優先するべきは食事の管理であることをお伝えしてきましたが、余裕があれば、運動や身体活動量を記録することもダイエット効果や成功率を高めます。

iPhoneであればヘルスケアアプリが標準搭載されていますし、Apple WatchやFitbit、Garminといった身体活動量計を使用することで、運動や日常生活での身体活動でどのくらいエネルギーを消費したかを自動的に算出してくれます。

2022年に発表された身体活動量計(ウェアラブル)に関するレビュー12によれば、身体活動量計を身につけただけで、1日の歩数が約1,800歩、歩行時間にすると約40分増加したことを報告しています。

なぜ身につけるだけで身体活動量が増えたのかについて、このレビューの筆者は、ウェアラブルによって自分の状況(=身体活動量)を可視化すると、自然と自分の目標を達成するために身体活動を増やす行動をとり始めたり、そのモチベーションが高まる可能性があると考察しています。

ウェアラブルの装着やヘルスケアアプリを使用する際には、ただ身につけるだけではなく、毎日最低1回は確認して、身体活動量をチェックするようにしましょう。

他の方法としては、「毎日この運動 or 身体活動を行う」というものをいくつか決めて、それができたかできなかったか◯✕をつけたりチェックマークを入れる、というのも効果的です。

  • 3回腕立て伏せをする
  • 5回スクワットをする
  • 3分掃除機をかける
  • 下りは階段を使う
  • 通勤の行きか帰りで一駅手前で降りて歩く

上記はあくまで例ですが、簡単すぎると感じるくらいの運動や身体活動を設定して、毎日たくさん◯やチェックマークをつけられた方がモチベーションが上がりやすく、継続しやすくなります。

体重と同様、紙(ノートやカレンダーなど)に記入しても良いですし、To Doリスト系のアプリを使用してもOKです。

まとめ

ダイエットの成功率を高めるためには行動療法を利用することが近道であり、行動療法の1つであるレコーディングダイエット(=セルフモニタリング)が、なぜダイエットの成功率を高めるのかをエビデンスをもとに解説し、具体的なやり方についてお伝えしました。

一見「記録する」という行為はめんどくさいと考えがちですが、時間にすれば1日でたったの10分程度です。この10分をレコーディングのために捻出するだけでダイエットの成功率がグンと上がるわけですから、ぜひめんどくさがらず、アプリやガジェットといったツールをうまく利用して、楽しく記録していってください。

あなたのダイエットが成功することを祈っております。

参考文献・資料

  1. 津川友介. HEALTH RULES. 集英社; 2022. 
  2. 日本肥満学会. 肥満症診療ガイドライン2022.; 2022.
  3. 認知行動療法とは| 大阪メンタルクリニック 梅田院. osakamental.com. Accessed August 30, 2023. https://osakamental.com/symptoms/cbt/page-1.html#:~:text=%E8%A1%8C%E5%8B%95%E7%99%82%E6%B3%95%E3%81%AF%E3%80%81%E4%B8%80%E8%88%AC%E3%81%AB%E3%80%8C%E8%A1%8C%E5%8B%95,%E3%82%92%E3%81%AF%E3%81%8B%E3%82%8B%E6%B2%BB%E7%99%82%E6%B3%95%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82
  4. National Heart Lung, Institute B, Others. Managing overweight and obesity in adults: systematic evidence review from the Obesity Expert Panel, 2013. US Department of Health and Human Services: National Institutes of Health. Published online 2013.
  5. Johns DJ, Hartmann-Boyce J, Jebb SA, Aveyard P, Behavioural Weight Management Review Group. Diet or exercise interventions vs combined behavioral weight management programs: a systematic review and meta-analysis of direct comparisons. J Acad Nutr Diet. 2014;114(10):1557-1568.
  6. Lichtman SW, Pisarska K, Berman ER, Pestone M, Dowling H, Offenbacher E, et al. Discrepancy between self-reported and actual caloric intake and exercise in obese subjects. N Engl J Med. 1992;327(27):1893-1898.
  7. American Diabetes Association. 8. Obesity Management for the Treatment of Type 2 Diabetes: Standards of Medical Care in Diabetes—2021. Diabetes Care. 2020;44(Supplement_1):S100-S110.
  8. Wharton S, Lau DCW, Vallis M, Sharma AM, Biertho L, Campbell-Scherer D, et al. Obesity in adults: a clinical practice guideline. CMAJ. 2020;192(31):E875-E891.
  9. Pacanowski CR, Levitsky DA. Frequent Self-Weighing and Visual Feedback for Weight Loss in Overweight Adults. J Obes. 2015;2015:763680.
  10. Mueller PA, Oppenheimer DM. The pen is mightier than the keyboard: advantages of longhand over laptop note taking. Psychol Sci. 2014;25(6):1159-1168.
  11. Harkin B, Webb TL, Chang BPI, Prestwich A, Conner M, Kellar I, et al. Does monitoring goal progress promote goal attainment? A meta-analysis of the experimental evidence. Psychol Bull. 2016;142(2):198-229.
  12. Ferguson T, Olds T, Curtis R, Blake H, Crozier AJ, Dankiw K, et al. Effectiveness of wearable activity trackers to increase physical activity and improve health: a systematic review of systematic reviews and meta-analyses. Lancet Digit Health. 2022;4(8):e615-e626.