「運動をしたほうがいいのは分かってるけど、時間が取れない…」

これは、多くのビジネスパーソンが抱える共通の悩みです。

朝はギリギリまで寝て、通勤準備でバタバタ。仕事中は会議、会議の連続でタスクに追われている。仕事終わりはもう疲れてぐったり…。

「1日20〜30分の運動習慣」が大事と分かってはいても、それをこなすのは現実的に難しいと感じている方も多いのではないでしょうか。

実際、世界保健機関(WHO)が定める「週150分以上の中強度の運動」を達成できていない成人は、世界的にも多く、日本でも約3人に2人が運動不足とされています。

ですが最近、「まとまった時間が取れなくても、健康効果は得られる」という考え方が広がってきています。

それが、たった数分の短い運動でも、“積み重ねる” ことで効果があるという「マイクロワークアウト」と呼ばれる運動習慣です。

本記事では、国内外の研究結果も交えながら、マイクロワークアウトの概要や効果、更に毎日忙しく働くビジネスパーソンでも実践可能な方法について、紹介していきます。

マイクロワークアウトとは?

「マイクロワークアウト(Micro Workout)」とは、1回あたり1〜5分程度の短時間運動を、生活のスキマに取り入れて、1日に何回も行う運動習慣のことを指します1

WHOをはじめとした様々な団体により推奨されてきた「週150分以上の中強度運動」。これを1日に換算すると「1日20〜30分の運動」となりますが、これを一気にまとめて行うのではなく、短い運動をこまめに積み重ねる、というのがマイクロワークアウトの特徴です。

この考え方は、近年世界的に注目されており、海外では「エクササイズスナック(Exercise Snacks)」とも呼ばれています。

「スナック」という言葉には、食事の合間に摂る軽食のように、日常の合間に運動を “つまむ” というニュアンスが込められています。

マイクロワークアウト最大のメリットは、ジムに行ったり、特別な道具が必要なわけでもなく、日常生活の中で、合間やスキマでサッと行えることです。

  • 出勤前、玄関で靴を履く前にスクワットを10回だけやる
  • 昼休みに、階段を1階分だけ上がる(2階からエレベーターを使う)
  • 歯磨き中に、何回やるとかは決めずに、かかと上げ運動をする
  • 会議が始まる1分前に、1分だけ首回しや肩回しをする

上記はあくまでほんの数例ですが、運動するぞ!といった気合が必要なわけでもなく、何か準備するわけでもなく、気負わずに「日常の “ついでに”」「何かを始める前にちょっとだけ」でできる手軽さが魅力の運動習慣です。

ここで驚きなのが、1回あたりの運動時間は「数分」と短時間でも、頻度と継続を重ねることで、まとまった時間で運を行うのと同等の効果が得られることが、最近の研究で明らかになってきていることです。

1日「数分の運動×複数回」で効果あり!研究が示すマイクロワークアウトの効果

「たった数分の運動で本当に意味があるの?」と感じる方もいるかもしれませんが、近年の研究では、マイクロワークアウトの有効性が次々と示されています。

1)心肺機能の向上:1回5分以内 × 1日2回以上 × 週3日以上

2025年に、British Journal of Sports Medicineから発表された系統的レビュー2では、「1回5分以内」の「中〜高強度運動」を「1日2回以上」「週3〜7日」「4〜12週間」にわたって行う「エクササイズスナック(=マイクロワークアウト)」が、身体活動の少ない成人の心肺持久力を有意に向上させることが報告されています。

特に効果が見られた運動は「階段昇降」「下半身中心の筋トレ」「太極拳」などで、どれも特別な器具や広いスペースを必要としない、日常生活の中で取り入れやすい内容でした。

更にこの研究で報告された点として、研究参加者の継続率(ルールをちゃんと守って運動をした人の割合)が高かったことも報告されており、この点においても、毎日忙しく働いていて、時間がないビジネスパーソンにとっても大きな魅力と言えるかと思います。

2)死亡リスク・心疾患リスクの低下

2023年に、Lancet(ランセット)に掲載された研究3では、日常生活内で「中〜高強度の身体活動」を「1〜5分」の短い時間で「1日に複数回」行う方法によって、全死亡率および心血管系の病気になるリスクが、5〜10分程度の運動と同程度に低下することが示されました。

この研究で報告された驚くべき点は「1分未満」の活動であっても、全死亡リスクとの有益な関連が見られた点です。本当に短い時間での運動でも、ちゃんと意味があることが示されています。

ちなみにこちらは、特にその短時間の中に「高強度」の活動を行う時間の割合が高いほど、効果が顕著に出たことも報告されています。

つまり、たとえ1分でも “ちょっと息が上がるくらい” の運動を行えると、そしてそれを繰り返すことができると、しっかり健康維持・増進につながる可能性があることが示唆されています。

3)長期病欠の予防にも寄与

デンマークで行われた、7万人以上の労働者を対象とした研究4では、勤務時間中に「チューブを使った背中の運動」などの短時間のマイクロエクササイズを行ったグループは、2年以内に30日以上の長期病欠となるリスクが有意に低下したことが示されました。

さらに、こちらは推計として示されていますが、このマイクロエクササイズをすべての労働者が実施した場合、新規の長期病欠が起こるリスクが約12.8%が予防可能とされています。


このように、1回に行う運動は “数分” でも、それを1日に何回も行い、それを継続することで、運動不足の解消や明確な健康効果を得られることが、複数の質の高い研究で確認されています。

今日からできる!マイクロワークアウト実践アイデア5選

「1回数分」を1日の中で何度も行うというマイクロワークアウトならなんとかできそうかな、と感じた方も多いのではないでしょうか?

とはいえ、いざ「今日からやろう!」と思っても、実際に「何をやればいい?」「どんなタイミングでやるのがオススメ?」といった疑問が湧く方もいらっしゃるでしょう。

ここからは、毎日忙しく働くビジネスパーソンでも “今日から無理なくすぐに始められる” 5つのマイクロワークアウト実践アイデアをご紹介します。

また、マイクロワークアウトは毎日コツコツ行うことが大切なため、こちらの記事(習慣化のコツまとめ|新しい習慣を身につける科学的アプローチ)の内容も踏まえて、マイクロワークアウトを習慣化していくコツも合わせてお伝えします。

1)歯磨きしながら「かかと上げ(+スクワット)」

みなさん必ず1日1回は歯磨きをするかと思います。中には1日2〜3回歯磨きをする方もいるでしょう。

歯磨きをしているとき、ただ歯を磨くだけではもったいないので、歯磨きに支障がない程度に、少しだけ体を動かすのはどうでしょうか?

簡単なのは「かかとの上げ下げ(ヒールレイズ)」です。「かかとを上げてつま先立ち→かかとを下ろす」を繰り返しましょう。

ふくらはぎは “第2の心臓” とも呼ばれます。かかとの上げ下げによってふくらはぎを活性化させると、全身の血流が良くなり、脳の活性化やコリの改善、むくみ解消など、様々な良い影響が生まれます。

余裕があれば、かかとの上げ下げを1回行う毎に、少し腰を落とすスクワットも行えるとベターですね。無理せず、数回だけスクワットを行って、後はかかとの上げ下げだけでもOKです。

「歯磨き」のような「すでに習慣になっている行動」に、「習慣化したい新しい行動をくっつける」というのは習慣化の王道テクニックです。

歯磨きをはじめたら自然と体が動くようになったらしめたもの!ぜひ楽しみながら実践してみてください。

2)ミーティング開始前に「膝引き上げ腹筋(ニートゥーチェスト)

ミーティングが始まる前、例えば、会議室に到着して椅子に座り、もろもろ準備を整えてから会議が始まるまで、数十秒〜数分の待ち時間があったりしますよね?

もしくはオンラインミーティングであれば、オンライン会議のURLにアクセスしてから、実際に打ち合わせが始まるまでの数十秒〜数分の待ち時間を、ただボーッと待っているのはもったいないです。

ぜひこのちょっとした時間を使って、腹筋を使ったエクササイズをしてみましょう。

簡単なのは、椅子に座った状態から、両足を地面から持ち上げて浮かせた状態でキープする運動です。ちょっと下っ腹のところがキュッとなるかと思います。

余裕があれば、両足を浮かせた状態から、少し膝を胸に引きつけて戻す、を繰り返すことで、更に腹筋への刺激が強まります。椅子の背もたれにもたれた状態でも、もたれなくても、どちらでもOKです。

会議中でも、ちょっと集中力が切れてきたなと思ったら、両足を浮かせて腹筋に刺激を入れましょう。なんなら両足を浮かせながら発言しましょう。腹筋に力が入っているため、良い声が出るかもしれません。

こちらも「会議」をトリガーにすることで、「あっ、運動の時間だ」と思い出す習慣化テクニックです。

「会議室の椅子に座ったら」「Zoomを開いたら」といった行動のスイッチを決め、そのスイッチが入ったら「足上げ腹筋をやる(違うエクササイズやストレッチでももちろんOKです)」と行動も決めておくことで、習慣化しやすくなります。

3)移動中は「つま先歩き」

通勤する時、会議室に移動する時、お昼ご飯を買いに行く時、トイレに行く時など、在宅で仕事をされる方でも、少なからず1日の中で「歩く」という活動を行うことはあるかと思います。

ただ無意識に歩いてしまうと、それは “慣れている” 運動なので身体に負荷はかかりませんが、ちょっとかかとを上げた状態で「つま先歩き」をするだけで、それは普段よりも少し強度の高い「運動」になります。

少しだけかかとを浮かせた状態で歩くのは、周りにバレづらいので、コソトレ(=こそこそバレずに運動すること)に最適です。 ※ヒールを履いている場合は危ないのでやめましょう。

もちろん疲れたらかかとを下ろして普通に歩いて構いません。またできそうになったらつま先歩きを少し行う、を繰り返してみましょう。

エレベーターの中や、電車を待っている間は、1)の歯磨き中にやってみましょうと紹介した「かかと上げ」を行っても良いですね。

「10秒だけ」や「10歩だけ」でもOKです。ちゃんと意味はあります。調子が良ければ回数や秒数を多めに行い、疲れていれば数秒・数回だけですぐやめてOKです。

1回だけでもやる、毎日数秒だけでもやる、がマイクロワークアウトの重要なポイントです。

4)仕事が終わったタイミングで「伸び・首回し・肩回し」

一日の仕事が終わって家に帰るときや、在宅ワークの方も「今日はこれで終わり!」というタイミングで、少しだけ体を動かしておくだけで、明日の疲れのたまり具合が変わります。

特にデスクワークの方は、パソコン作業で固まりがちな上半身の軽い運動やストレッチを行うことで、血流が良くなり、凝りの改善や、脳のスッキリ感も得られるでしょう。

5)寝る前に「ちょっとだけストレッチ」

お風呂に入った後や、寝る準備が整った後など、ベッドに入る前に数分だけストレッチをしてみましょう。「今日はここが疲れてるな〜」と感じる部位のストレッチができるとより良いです。

このタイミングでのストレッチも、何かとセットにすると習慣化しやすいです。「お風呂から上がってフェイスパックをしている間」「パジャマに着替えたら」「歯を磨いたら」「部屋の電気を消す前」など、自分の生活ルーティーンの中でやりやすいタイミングを選びましょう。

どこが疲れてるかよくわからないという方は、前ももやもも裏、お尻、ふくらはぎ等の下半身の筋肉のストレッチを行うと良いでしょう。全身の約6割の筋肉が下半身に集まっているため、下半身のストレッチをすることで血流の改善や、睡眠の質を高める効果も期待できます。

まとめ

「忙しくて運動できない」は、もう言い訳にならないことが様々な研究によって示されてしまいました。

1回数分、日常のスキマで、ほんのちょっとだけ体を動かす。これを積み重ねることで、しっかり健康増進・仕事の生産性向上につながります。

大切なのは、完璧な理想的な生活習慣ではなく、小さくてもまず始めて、続けることです。

まずは今日、ほんの10秒でも。“できるタイミングで、できることを、少しずつ” が、新しい健康習慣の第一歩となります。

参考文献・資料

  1. Exercise snacks: small bouts, big benefits. BJSM Blog. October 24, 2025. Accessed December 19, 2025. https://blogs.bmj.com/bjsm/2025/10/24/exercise-snacks-small-bouts-big-benefits/
  2. Leandro CG, da Silva KS, Saunders DH, et al. Exercise snacks to improve cardiorespiratory fitness in inactive adults: A systematic review and meta-analysis. Br J Sports Med. 2025;59(4):236-243. doi:10.1136/bjsports-2024-107321.
  3. Ahmadi MN, Hamer M, Gill JMR, et al. Brief bouts of device-measured intermittent lifestyle physical activity and its association with major adverse cardiovascular events and mortality in people who do not exercise: a prospective cohort study. Lancet Public Health. 2023;8(10):e800-e810. doi:10.1016/S2468-2667(23)00183-4
  4. Andersen LL, Skovlund SV, Vinstrup J, et al. Potential of micro-exercise to prevent long-term sickness absence in the general working population: prospective cohort study with register follow-up. Sci Rep. 2022;12(1):2280. Published 2022 Feb 10. doi:10.1038/s41598-022-06283-8