みなさんは「PMS(ピーエムエス)」という言葉をご存知でしょうか?これは「Pre-Menstrual Syndrome」の頭文字をとったもので、日本語にすると「月経前症候群」と呼ばれます。
まだ女性でも知らない人がいるほど認知度が低いPMSは、月経(=生理)前に身体的不調(倦怠感・下腹部痛・頭痛・肌荒れなど)や精神的不調(眠気・無気力・情緒不安定・イライラ・集中力の低下など)が現れてしまうものですが、その症状や感じる不調は一人ひとり違うため、なかなか周りの人に伝わりにくく、PMSが原因で会社の同僚や家族、パートナー等とのトラブルになってしまうこともあります。
本記事では、米国公認アスレティックトレーナー(BOC-ATC)であり、個人や企業向けに “産前産後コンディショニング” を提唱・普及している井上かな映さん監修のもと、PMSの基本的な知識から具体的な症状、そして改善対策をわかりやすくお伝えします。
男性の方も、PMSについて知り、女性の体にどのようなことが起こっているのかを知ることで、職場でのトラブル回避になったり、サポート方法を知ることで仕事を円滑に進める助けになるかと思います。
性別に関係なく、現代に働くビジネスパーソンにおいて必須知識とも言える「PMS」を知り、同僚や家族等と良好な関係を築く手助けとして、ぜひ参考にしてみてください。
【監修者】井上かな映
- NATA公認アスレティックトレーナー(ATC)
30~60代の女性の姿勢や不調の改善、ボディメイクを得意とし、なかなか体重が戻らない・体型が崩れ始めたという悩みを持つ女性を中心にピラティス&パーソナルトレーニングセッションを提供。産前産後コンディショニングを提唱し、個人や企業にも普及している。スタジオトーチ代表(https://studio-torch.com)。
PMSとは?
日本産科婦人科学会によると、PMS(月経前症候群)とは「月経前の3〜10日間続く身体的あるいは精神的な症状で、月経開始とともに軽快もしくは消失するもの」と定義されています1。
米国産婦人科学会(American College of Obestetricians and Gynecologists; ACOG)は、PMSの診断基準として「過去3回の月経周期において、月経開始前5日間に、身体的・精神的症状がなにか1つでも存在した場合」と示しています2。
ACOGの診断基準では「月経開始前5日間」とありますが、PMSの症状は人によって10日も前から出る人もいれば、3日前から出るという場合もあるため、何日前からというところはあまり重要ではなく、あくまで「月経開始前のタイミングで毎回不調が現れるか?」というところが、PMSかどうかを確認する上で大切なポイントになります。
また、Matsumotoらによる報告3では、多くの方のPMSの症状のピークは月経開始2日前であると示されています。
月経が起こってから発生するいわゆる「生理痛」は出血しているときに起こるため、「これは生理痛だ」と自分で認識しやすいですが、PMSはそのようなサインがないことから、何が原因で不調や症状が起きているのかが自分で認識しづらく、そのためそれを改善させるための対策を行わずに、ただただ解消するのを待つ、という女性が多いことが報告されています4。
同じくACOGのガイドラインでは、月経前に現れた症状は「月経が開始してから4日以内には消失し、少なくとも月経周期の13日目までは現れない」というのもPMSの診断基準の1つとして示されています。
下記「PMSを改善させる5つの対策」で紹介しますが、自分の症状がどんな時期・タイミングで現れるのかを記録しておくことで、自分はPMSなのか?それとも違う原因なのか?が判断しやすくなります。
PMSで現れる症状
PMSによって現れる症状は200種類以上もあると言われており、また同じ人でも毎月同じ症状が現れるとは限らず変化します。毎回同じタイミングで同じ症状が出るのであれば対策はとりやすいですが、そうでないところがPMSの難しいところです。
200種類以上ある症状の中でも、特にPMSによって多くの人に現れやすい症状を抜粋して紹介します。
PMSで現れる身体的症状
- 倦怠感
- 乳房痛・乳房に張りが出る
- 腹痛・下腹部の膨張感
- 頭痛
- 筋肉痛・関節痛・腰痛
- 四肢のむくみ
- 便秘
- 食欲不振 / 食欲増加 / 嗜好の変化
- 体重増加
- 眠気 / 不眠(睡眠障害)
- 肌が荒れる・ニキビができる
- めまい
- のぼせる
女性ホルモンについては下記で詳しく解説していますが、女性ホルモンの1つである「プロゲステロン」は、多く分泌されると体に水分をためこむ性質があるため、これにより四肢がむくんだり、全身に水分がたまってくると倦怠感を感じたり、乳房にたまってくると乳房の張りや痛みを感じるようになります。
また、生理前は血糖値を低下させるホルモン「インスリン」の能力が低下してしまうため、その能力を補うためにいつもよりも多くインスリンが分泌されます。それによって、食後低血糖になりやすく(=血糖値スパイク)、眠気が出やすくなります。
血糖値やインスリンについて詳しく知りたい方は「血糖値スパイクを抑えてワークパフォーマンスを最大化する5つの方法」の記事も合わせてぜひお読みください。
PMSで現れる精神的症状
- イライラする・怒りが爆発してしまう
- 攻撃的になる
- 情緒不安定(突然悲しくなる・泣きたくなる)
- 抑うつ気分(気分の落ち込み・憂鬱)
- ボーッとする・意欲や興味の減退
- 不安になる
- 混乱した気分になる
- 落ち着かない
- 自己否定的になる
- 集中力の低下
- 緊張状態(いつも張り詰めた気分になる)
- 孤独感・絶望感
一般的にPMSで現れる症状の特徴として、出産経験がある方には精神的症状が多く出現し、出産経験のない方には身体的症状が多く見られる傾向がある、と言われています5。
また補足として、大塚製薬によるPMSに関する情報サイト「PMSラボ」の「PMSチェック(https://www.otsuka.co.jp/pms-lab/check/)」を行ってみるのも良いでしょう。
PMSが起こる原因
PMSが起こるはっきりとした原因はわかっておらず、今のところ「不明」と言われています。ですが、様々な研究や文献によって、PMSを引き起こしているであろう2つの要因が示されているためご紹介します。
1)女性ホルモン(特にプロゲステロン)の増減・変動
PMSが起こるタイミングが月経周期における「黄体期」に繰り返して起こるため、2つの女性ホルモン「エストロゲン」と「プロゲステロン」が関係しているのは間違いないだろう、と推測されています。
特にプロゲステロン(「黄体ホルモン」とも言います)は、妊娠の準備のために、排卵後の黄体期に多く分泌され、基礎体温の上昇や体の水分の排出の抑制、食欲の増加といった現象を起こします。よって、この現象に伴って様々な不調や症状が現れるのではないかと言われています。
更にプロゲステロンは、セロトニンやドーパミン、ノルアドレナリンといった「感情」に関わる脳の神経伝達物質にも作用していると言われており、排卵期〜黄体期〜生理期のプロセスの中での増減によって神経が過敏になり、精神的な症状が現れてくるのではないか、とも推測されています。
2)自律神経バランスの乱れ(過度な交感神経活動)
月経周期と自律神経活動の関連を調べた研究6では、PMS症状が現れる女性は、黄体期〜月経期前の期間に交感神経活動が優位になる傾向があることを示しています。
別の研究7では、排卵期〜黄体期の後期にかけて、副交感神経活動が低下する傾向があったことを報告しています。
過度な交感神経活動や副交感神経機能の低下といった自律神経バランスの乱れは、頭痛や腰痛、むくみといった身体症状や、イライラや不安、やる気が出ないといった精神症状を引き起こします8。
体や心の健康と密接な関係がある自律神経の機能低下やバランスの乱れが、PMSを引き起こしたり、その症状や不調の程度を重くしている可能性があることが示唆されています。
PMSを改善させる5つの対策
PMSとはどういうものか、何が原因でPMSが起こる可能性があるのかを知ったところで、ではどのように改善対策を行っていけるのかをご紹介します。
1)日々の症状を記録する(PMSダイアリー)
前述していますが、自分の症状や不調がどういったものなのか?それはどんな時期・タイミングで、どれくらいの頻度で現れるのか?といったことを日々記録していくことで、自分はPMSなのか?それとも別の病態の可能性があるのか?が明らかになります。
もしPMSかもな?と感じれば、病院に行って診察を受けることで適切な薬を手に入れることができたり、自分の症状に応じた対策や、未然に防ぐための行動をとることも可能になります。
ソフィが提供している「PMSダイアリー(https://www.sofy.jp/content/dam/sites/www_sofy_jp/campaign/sofyPMSdiary.pdf)」を使用してもよし、ご自身のスマホのメモや日記等に記録していくのもOKです。
PMS症状が現れるパターンやタイミングがわかることで、事前に用事や仕事の調整が可能になり、むやみやたらと不調に振り回されずに生活することができるようになるでしょう。
2)自律神経バランスを整える(特に副交感神経機能の向上)
PMSが起こる原因の1つとして「自律神経バランスの乱れ」があるため、自律神経機能を整えるアプローチは、PMSの症状を軽減させることができる可能性があります。
過度な交感神経活動を抑制し、副交感神経機能を高めるために重要なのが「良い睡眠をとること」です。睡眠不足や睡眠の質が低下すると、副交感神経活動による身体や脳の休息が充分に行われないため、自律神経機能が低下してしまいます。
最低7時間睡眠を確保するとともに、「寝付きが悪い人必読!寝付きが良くなる6つの入眠スイッチ」の記事を参考に、睡眠の質を高めて自律神経バランスを整えましょう。
また「ストレスの多さ」も交感神経活動を高めるため、慢性的に過度なストレスがかかり続けると副交感神経活動が活性化せず、PMSを引き起こしたり、症状が重くなる原因にもなります。よって「ストレスコントロール」がPMS対策として重要になります。
自分に合ったストレス対策を見つけつつ、エビデンスとしてストレスレベルを低下させる効果が認められているのが「呼吸法」です。
PMS症状を持つ女性を対象に呼吸法を行った研究9では、「4秒で息を吸い、2秒息を止めて、8秒かけて息を吐く」という呼吸法を1日10分間行ったことで、呼吸法を行わなかったグループと比較して、副交感神経活動が活性化したことによる気分の向上やリラックス効果があったことを報告しています。
呼吸法は道具がいらず、どこでもできるため、ストレスコントロールが必要だと感じている方は、上記した呼吸ペースでの呼吸法をぜひ行ってみてください。もしくは「マインドフルネス呼吸のやり方|感情制御能力向上&脳疲労解消に最適」の記事を参考に、マインドフルネス呼吸にチャレンジしていただくのも良いかと思います。
3)有酸素運動
PMSに対する有酸素運動の効果を調べた研究10によると、1日20分間のジョギングを週3回、3ヶ月続けたことによって、特別運動をしなかったグループと比較すると、PMSによる身体症状(腰痛、腹痛、むくみなど)や精神症状(不安感、気分の落ち込みなど)が大きく改善したことが報告されています。
ジョギングはちょっとしんどいな、という方は散歩でもOKです。自然を感じられるような場所をゆったり散歩することはストレス解消にもなるためぜひ取り入れましょう。
また、ストレッチも立派な運動になります。じっくりジワジワ筋肉を伸ばす「静的ストレッチ」は副交感神経活動を活性化する効果があるため、PMS改善の対策として有効と言えるでしょう。
4)低用量ピルの使用
PMSを引き起こす原因の1つとして「女性ホルモンの増減」が関係している可能性があるため、女性ホルモンの増減の変動をなくす「低用量ピル」の使用によって、PMS症状が改善・軽快することがあります。
低用量ピルは、2つの女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)が配合されたものであり、低用量ピルを摂取することで脳は、すでに身体に2つの女性ホルモンがしっかりと分泌されていると判断し、これ以上女性ホルモンを出す必要はない、と考えます。
女性ホルモンの増減幅が狭くなることで排卵が起こらなくなるため、”月経前” という時期自体がなくなり、PMSが起こらなくなる、という原理になります。
低用量ピルには、主に避妊目的で使用される「低用量経口避妊薬(OC; Oral Contraceptives)」と、月経困難症や子宮内膜症の治療に使用される「低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP; Low Dose Estrogen Progestin)」の2種類ありますが、どちらもPMSの改善や生理痛の改善、経血量の減少、生理周期のコントロールといった効果が認められています11。
LEPは、医師の診断のもと治療目的で使用する場合は保険が適用されます(OCは保険適用がないため全額自己負担となります)。
低用量ピルは少ないホルモン量で排卵を止める効果があると同時に、服用している期間だけ “一時的に” 排卵を止めることになります。よって、服用をやめればすぐに排卵が回復しますし、低容量ピルの服用がその後の妊娠に影響を与えることはないとされているため、用法用量を守って正しく使用することで「安全に生理をコントロールする」ことが可能になります。
5)周りの人(家族・同僚など)に伝える
PMSの時期は、どうしても短気になってしまったり、集中力がなかなか続かずにミスをしやすくなってしまうことがあります。
PMSはまだ認知度が低いため、周りの人にとってみると、ただただ「なんだか今日はあの人機嫌悪いなぁ」とか「最近あの人ずっとミスばっかしてるなぁ」となってしまい、トラブルの種となってしまうこともあります。
女性は、まずは自分がPMSについてしっかりと学び、上記したような対策をとってうまく対処していく必要がありますが、それと同時に、周りの人(家族やパートナー、仕事の同僚、友人など)に自分の症状やPMSについて伝えていくことも大切な対策となります。
トラブルになってしまう原因が「ただ知らない」だけのことも多々あるため、知っていれば、周りも落ち着いた対応やサポートが可能になることがあります。
女性全体の70%以上が月経前になんらかの不調を経験しているというデータもあるように(3)、決して自分だけがPMSに苦しんでいるわけではありません。
「今日から数日間はちょっと機嫌悪いかもだけど、そういう時期だから気にしないでね」「なるべくミスが出ないように気をつけるけど、どうしてもミス出やすい時期だから、入念な確認よろしく」といったようなコミュニケーションをとっておくことで、無駄なトラブルやギスギスした人間関係を防ぐことができるはずです。
まとめ
PMSについて、PMSの基本情報から、症状・原因・改善方法をお伝えしました。
PMSについてよくわかっていないことから「生理さえくれば症状は治まるから今は我慢だ」と考えて、ひたすら耐えるという方法をとっている方がいますが、それはもう古い考え方と言われています。
PMSは、基本的な生活習慣の改善も含めた、上記した対策をしっかりととることで改善・軽快は可能であるとともに、医師の診断の上での処方箋による治療や対症療法、低用量ピルの使用による生理のコントロールなど、できることはたくさんあります。
また、男性もこのPMSについて理解しておくことで、家族やパートナー、仕事の同僚等とよりよい関係を築くことができるはずです。
効果があると分かっているものは積極的に取り入れて、よりラクに楽しく充実した生活を送っていきましょう。
参考文献・資料
- 月経前症候群(premenstrual syndrome : PMS)|公益社団法人 日本産科婦人科学会. www.jsog.or.jp. Accessed October 23, 2023. https://www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=13 ↩︎
- American Collage of Obstetricians and Gynecologists(ACOG): Premenstrual syndrome. Guidelines for Women’s Health Care, A Resource Manual, Forth Edition. 2014; ACOG, Washington DC, 607-610. ↩︎
- Matsumoto T, Asakura H, Hayashi T. Biopsychosocial aspects of premenstrual syndrome and premenstrual dysphoric disorder. Gynecol Endocrinol. 2013;29(1):67-73. ↩︎
- 【NHK健康】生理前のつらい症状(乳房の痛み・発熱・関節痛・おなかの張り・寒気など)原因や対処法、PMSの治療. NHK健康チャンネル. Published May 14, 2022. Accessed October 23, 2023. https://www.nhk.or.jp/kenko/atc_670.html ↩︎
- 知ろう、治そう、PMS【月経前症候群】. 知ろう、治そう、PMS 月経前症候群. Accessed October 23, 2023. https://pms-navi.jp/about/ ↩︎
- 松本珠希,後山尚久,林達也・他.ゆらぎの科学と女性心身医学-月経周期に伴う心とからだの変化と自律神経活動との関連-.日本女性心身医学会雑誌.2007;2(3):433-443. ↩︎
- 近藤正彦,平野隆博,岡村靖.R-R間隔変動係数を用いた正常月経周期における自律神経機能変動の検討.日本産科婦人科学会雑誌.1989;41:513-518. ↩︎
- 小林弘幸. 眠れなくなるほど面白い 図解 自律神経の話. 日本文芸社; 2020. ↩︎
- 大平肇子, 町浦美智子, 斎藤真. 月経前症候群の症状を有する女性に対する呼吸法のリラクセーション効果. 母性衛生= Japanese journal of maternal health. 2013;53(4):497-504. ↩︎
- El-Lithy A, El-Mazny A, Sabbour A, El-Deeb A. Effect of aerobic exercise on premenstrual symptoms, haematological and hormonal parameters in young women. J Obstet Gynaecol. 2015;35(4):389-392. ↩︎
- 高尾美穂. 大丈夫だよ 女性ホルモンと人生のお話111. 講談社; 2022. ↩︎