「最近眼がかすむ」「眼が充血しやすくなった」「なんとなく見えにくい」など、年齢を重ねるにつれて、眼の不調を感じる方が増えてきます。

前回のインタビュー(【眼科医インタビュー①】スマホ老眼・眼精疲労を防ぐために今すぐできる眼の健康習慣)では、現代人が抱える眼精疲労やドライアイの対策について伺いましたが、今回は「長期的な眼の健康維持」に焦点を当てて、眼科専門医の鈴木先生にお話を伺いました。

眼の病気の中でも、特に注意が必要な「緑内障」は、20人に1人が発症するといわれる身近な病気でありながら、初期症状に気づきにくく、進行してしまうと元に戻すことができません。

また、加齢とともに現れるドライアイや眼の出血なども、正しい知識がないまま対処していると、かえって症状を悪化させてしまうことがあります。

人生100年時代と言われるようになった今、眼は全身の健康状態と密接に関わっている重要な組織です。血流や生活習慣が眼の健康に与える影響、日常生活でできる予防法、そして適切なケア方法について、専門医の視点から詳しく解説していただきます。

一生使い続ける大切な眼を守るために、ぜひ正しい知識を身につけて、今日からできることを始めてみませんか?


鈴木 克則
医療法人社団 復明館 すずき眼科クリニック院長。日本眼科学会認定眼科専門医。昭和大学医学部卒業後、昭和大学病院付属東病院や昭和大学藤が丘病院、富士吉田市立病院等で勤務。緑内障が専門。趣味はDIY、魚釣り、筋トレ、魚の飼育。

眼の健康維持は、定期検査による早期発見・早期治療が大切

編集部
年齢を重ねると、どうしても気になってくるのが眼の病気です。長く眼の健康を維持していくためには、どんなことに気を付ければいいでしょうか?

鈴木先生
眼の病気は、定期検査をして、早期発見、早期治療をすることがとても大切です。

白内障は、比較的早くから自覚症状が出ます。眼がかすむようになったり、眼鏡をかけても視力が出ないなと感じたら、眼科で検査をしましょう。それからの治療でも十分に間に合います。

しかし、視神経が圧迫されて、視野が狭くなっていく緑内障は、進行しないと症状が出てきません。進行段階が10段階あるとしたら、8、9段階でやっと症状が出てきます。進行してしまうと、元に戻すことはできませんから、1とか2段階程度で発見して、早期に進行を止めることが理想です。

緑内障は、眼球の奥の血流の悪化などの後天的な原因のほか、遺伝的な要素もあります。両親、祖父母で緑内障の方が2人以上いる人は、特に気を付けたほうがいいと思います。決して珍しい病気ではなく、20人に1人の割合で緑内障の患者がいると言われています。

編集部
眼科で定期検査を受けている人は、少ないかもしれませんね。健康診断の眼圧検査で発見はできるのでしょうか?

鈴木先生
眼圧が25mmHgを超えた状態が長期に及ぶと緑内障になる確率が高くなります。高い数値が出た場合、早期に病院を受診したほうがいいでしょう。

しかし、数値が低いからといって安心はできません。視野の欠けを調べる緑内障のセルフチェックもありますが、なかなか自分で調べるのは難しいです。OCT検査(眼底三次元画像解析)ができる眼科にいって、診断をしてもらうのがいいでしょう。それなら、血管が切れている場所までわかります。

眼の健康維持のために日常生活でできること

編集部
眼の健康を維持するために、日常生活でできることはありますか?

鈴木先生
あくまでも眼は体の一部ですから、体全体の健康に気を付けることです。

例えば、眼の栄養補給は血液から行われます。つまり、血液、血流、血管が悪くなると、眼も病気にかかりやすくなります。

食事でいえば、たんぱく質を多めに摂り、塩分や炭水化物、脂質を控えることが必要です。それから、週3回程度の有酸素運動をしてください。

私のクリニックを受診する患者さんの中には、「病気の原因は、血流が悪いからだ」というと、「なんで眼科で血流の話をされるんだろう」と不思議がられる方もいます。眼も体の一部であることがピンとこないようです。

編集部
タバコはどうでしょう?

鈴木先生
禁煙は必須です。タバコは体に悪い成分がたくさん含まれていて、眼の奥の脂の酸化を促します。網膜の中心が悪くなってしまう「加齢黄斑変性」は、タバコが大きな要因です。

編集部
生活習慣病の原因になるような生活は、眼にもよくないということですね。逆に、やせている方は安心なのでしょうか。

鈴木先生
やせすぎている方にも、様々な健康上の問題があります。

まず、筋肉量が少ない傾向があります。貧血を抱えている人が多く、それも緑内障の原因の一つです。また、低血圧の人は、組織に血液を送る力が弱くなっています。低血圧の人には、定期的な有酸素運動をおすすめしたいですね。運動をすることで、だんだん血圧が健常化していきます。

編集部
鈴木先生は、運動習慣がない患者さんにどんな指導をしているのですか?

鈴木先生
無理な目標設定をせず、1年かけて、30分走れる体にもっていこうと話します。最初の目標は「30分の散歩」です。3、4ヶ月経ったら、「30分の散歩はできましたか?」と聞いて、続いた人には、「それなら、そろそろ早歩きにしましょう」とステップアップしていきます。

患者を指導する立場として、私自身も運動は欠かせません。一緒に頑張りましょうと励ますようにしています。

編集部
サプリメントはどうでしょう。眼に効果があると謳われているブルーベリーのサプリは、やはり積極的に摂ったほうがいいのでしょうか?

鈴木先生
ブルーベリーやラズベリーのサプリは、あくまでも抽出液であり、栄養分ではありません。

その人の体の酸化度を見てみないと何とも言えませんが、基本的には「ビタミンC」と「ビタミンE」のサプリがおすすめです。ビタミンCは、肌にもいいといわれていますし、多く摂っても害はありません。私もビタミンCとEのサプリを飲んでいます。

眼の充血が気になる場合のケアの方法

編集部
最近よく、眼が真っ赤に充血してしまうのですが、ケアをして防ぐ方法はありますか?

鈴木先生
毛細血管が1本ずつ見えるのが充血です。絵の具を塗ったように真っ赤になるのは、出血ですね。

編集部
そうなんですね。どうして出血してしまうのでしょうか。

鈴木先生
原因は、加齢によるドライアイです。

年齢を重ねると、白目にもしわができます。さらに上のまぶたが下がってきて、下のまぶたとうまく重なり合うことができなくなったり、涙を眼球に張り付ける機能が落ちているなど、さまざまな背景があります。

見えにくいからと凝視していると、2~3秒で眼は乾いてしまいます。ある程度の年齢になったら、眼鏡の度数の調整が必要なのは、こういう理由もあります。乾いた状態で眼球を動かすことで、摩擦により白目から出血してしまいます。

編集部
眼にもしわができるんですね。

鈴木先生
40歳を過ぎれば出てきます。ドライアイは、温度や湿度にも関係するので、エアコンにも注意が必要です。何もないのに眼の表面がチクっとしたり、ゴロゴロするのは、眼が乾燥している可能性が高いでしょう。

編集部
ドライアイ用の目薬を使えばいいのでしょうか?

鈴木先生
市販されている目薬だと、潤いをキープできるのは1分ぐらいです。長いものでも、3~5分程度。頻繁に出血するようなら、眼科で処方されるムコスタやジクアスなどの目薬を使うことをおすすめします。

あまりにも頻繁に出血したり、痛みがある、視力が下がるなどの問題があるようであれば、しわを伸ばす手術もあります。しかし、リスクもあるので、手術をしなければいけない人はそう多くはありません。目薬を使ったり、眼を温めるなどのケアをしっかりとしてください。

涙を出すためには、眼を温めるのは効果的

編集部
前回、眼を温めるのは、効果がないというお話でしたが?

鈴木先生
疲れ目対策には効果はありません。しかし、涙を出すためには効果的です。

涙のとろみ成分には、脂分が含まれています。年齢を重ねると、その脂が固まりやすくなってしまうのです。温めると脂分が溶けるので、詰まりを解消することができます。1日1回程度は温めたいですね。お風呂に入ったときに、お湯にタオルを浸して絞り、それを眼に乗せて温めるといいと思います。

もし、眼のふちが赤くなったり、かゆみがある場合は、固まった脂が詰まってバイ菌が繁殖している可能性があるので洗ってください。眼の専用シャンプーがあるので、使ってみるのもいいと思います。

編集部
眼のふちにも脂が詰まってしまうのですね。女性は、マスカラやアイラインを使う方も多いのですが、それは大丈夫でしょうか。

鈴木先生
マスカラに使われている有機溶媒は、眼の脂分に悪影響を及ぼします。できれば使わないほうがいいと思います。アイラインも、あまりにも眼の際まで引いてしまうと悪影響です。

また、日常のお手入れで使うクリームなどの油性のものも、眼のふちにつけてしまうのは良くありません。美容にとっていいことでも、眼にとって悪いこともあります。ドライアイで悩んでる人には、自分で痛めつけている人も多いのです。

あとがき

よかれと思ってやっていることでも、実は眼にとって悪いことがたくさんあるのですね。

まずは、正しい知識と正しいケアを知って、末永く大切に自分の眼と付き合っていきたいと思います。鈴木先生、ありがとうございました。