みなさんは、お昼ご飯を食べた後しばらく仕事をしているとウトウトしてしまった、という経験はありませんか?

ご飯を食べると、それを消化するために血液が使われるため、脳への血流が少なくなって眠くなる。だからご飯を食べた後に眠くなるのはしょうがない、といったことが言われていたこともあります。

しかし、人間の臓器でいちばん大切なのは「脳」であり、日常生活を送る上で、脳への血流が眠くなるほど少なくなる、なんてことはありません。

ではなぜランチの後に眠くなるのでしょうか?

もちろん原因は1つではありませんが、大きな原因の1つとして考えられるのが「血糖値スパイク」と呼ばれる現象です。

血糖値が急に上昇し、同様に急激に下降する血糖値スパイクは、集中力の低下や疲れをもたらし、ワークパフォーマンスに悪影響を及ぼします。

今回は、この血糖値スパイクとはどのような現象なのかを詳しく解説するとともに、血糖値スパイクを抑えて、日々の業務で思考をクリアにしてエネルギーを持続させ、ワークパフォーマンスを最大化するための5つの実践的アプローチをお伝えします。

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血糖値とは?

血糖値スパイクについて知るためには、まずは血糖値について知る必要があります。

血糖値とは、血液の中に含まれるブドウ糖の量のことをさします1。食事によって炭水化物(糖質)を摂取すると、体内で消化され、ブドウ糖に分解されます。分解されたブドウ糖は小腸で吸収され、血液によって脳、様々な臓器、筋肉と全身に運ばれます。

つまり、ブドウ糖が小腸で吸収されて、血液によって全身に運ばれる際に血糖値が上がります。血糖値は上がりすぎても下がりすぎても人間にとっては良くない(=命の危険がある)ため、血糖値がある一定のレベルを超えると、体はそれに反応して、血糖値を下げようとします。この血糖値を下げる役割を果たすのが「インスリン」と呼ばれるホルモンです。

インスリンは、血糖値が上がった際にすい臓から分泌され、血液中のブドウ糖を体内の細胞に摂り込むことで血糖値を下げます。炭水化物の摂取量が適切であり、血糖値の上昇が緩やかであれば、必要量が脳に運ばれてエネルギーとして使われ、今使う必要のないブドウ糖は、肝臓や筋肉に運ばれてグリコーゲンとして蓄えられます。

※糖尿病とは、血糖値を下げる役割を果たすインスリンが充分に分泌されずに血糖値が高いままになってしまい、充分な量が分泌されているのにも関わらず、ブドウ糖をうまく細胞に摂り込むことができなくなってしまう病気です。

血糖値スパイクとは?

食事で摂取する糖質の量が適切であれば問題はないのですが、必要以上に糖質を摂取すると、血糖値が急上昇してしまいます。

血糖値の急上昇は人間にとっては緊急事態のため、一刻も早く正常値に下げようと、すい臓から大量のインスリンが分泌されます。

大量のインスリンが一気に血液中のブドウ糖を細胞に摂り込むと、急上昇していた血糖値が今度は急降下します。

この急上昇→急降下という現象のことを「血糖値スパイク」と呼び、血糖値スパイクが起こると気分や睡眠の質の低下、体重の増加、肌の状態の悪化、免疫力低下など、あらゆる身体の機能に影響が及ぶことがわかっています2

血糖値スパイクを避けるべき3つの理由

この血糖値の急上昇→急降下は、私達の体にどのような影響を与えるのでしょうか?

1)糖尿病になってしまうリスクが上がる

上記しましたが、血糖値の急上昇によって、すい臓は大量のインスリンを分泌しなければならないのですが、これはすい臓にかなりの負担をかけます。

大量のインスリン分泌を繰り返していると、すい臓は疲れてきて、機能が低下してしまうため、だんだん血糖値を下げるために必要な量のインスリンを分泌できなくなったり、血糖値を下げる能力が低下するため大量のインスリンが分泌されたり、血糖値を下げなければいけないタイミングでインスリンをしっかりと分泌することができなくなる、といったことが発生します。

インスリンによってうまく血糖値をコントロールすることができずに血糖値が高い状態が続くと(=糖尿病)、血圧が上がったり(=高血圧)、中性脂肪の合成を増やしたり(=内臓脂肪の増加→メタボ)、動脈硬化を進行させたりと、あらゆる生活習慣病のリスクを高めることになってしまいます。

2)仕事のパフォーマンスの低下を引き起こす

記事の冒頭でお伝えした「ランチ後の眠気」以外にも、集中できない、なぜかイライラする、ランチをしっかり食べたのにお腹がすく、などはすべて血糖値が急降下した際に現れる症状です。

更には、血糖値が急激に下がると脳の働きが悪くなることもわかっています。

3)体脂肪の増加

大量にインスリンが分泌されると、血液中のブドウ糖を体内の細胞に摂り込んで血糖値を下げる、という話は何度もしてきていますが、肝臓や筋肉内で溜め込まれているグリコーゲンがまだ充分存在していた場合、まだ使われない余ったブドウ糖は、インスリンによって中性脂肪に変えられ、体内に蓄えられてしまいます。

肥満は糖尿病だけでなく、様々な病気の原因となってしまうことがわかっていますから、最近お腹が出てきたな、と感じている人は、もしかしたら普段の生活で血糖値スパイクが起こっている可能性があります。

血糖値スパイクを起こさないためにできる5つのこと

それでは、血糖値スパイクを起こさないためには、どのようなことを意識して生活すれば良いのでしょうか。

1)朝食を抜かないでちゃんと食べる

前日の21:00に夕食を食べ終え、そこから何も食べずに睡眠をとったとします。睡眠中は何も食事をしないため、血糖値は下がっていきます。朝起きたときすでに血糖値はだいぶ下がった状態なのですが、朝食を抜くことで、さらに血糖値は下がっていきます。

血糖値が下がれば下がるほど、何か食事を摂った際に血糖値は急上昇します。つまり、血糖値スパイクが起きてしまうため、血糖値スパイクを起こさないためには、朝起きてすぐに食事をして、血糖値を上げておく必要があります。

朝食で糖質を少しでも摂取しておくと、血糖値が上がって活力がわくため朝からしっかりと仕事や活動をすることができると同時に、ランチを食べた際に血糖値が急激に上がってしまうことも防いでくれます。

2)朝食の食べ合わせ=炭水化物とたんぱく質を一緒に摂る

朝食は、食べれば何でも良いわけではありません。「炭水化物(糖質)とたんぱく質を一緒に摂る」ことも、血糖値スパイクを起こさないためにできることの1つです。

炭水化物のみを摂取すると、血糖値の急上昇が起きやすくなってしまいます。朝食も、前日の夕食から考えると8〜10時間以上空いていることが多いですからね。炭水化物と一緒にたんぱく質を摂取することで、血糖値の急上昇を抑える効果があります。

「ご飯と納豆」や「パンと目玉焼き」といった組み合わせですね。もし会社近くのコンビニで朝食を買って食べるという場合は、「おにぎり2個」ではなく「おにぎり1個とゆで卵」「おにぎり1個とサラダチキン」といった組み合わせにするのがベターです。

3)お昼のランチでは「GI値の低い食品」を食べる

お昼のランチは「GI値の低い食品」というものを意識して食べられると、血糖値スパイクを防ぐことができ、午後からのパフォーマンスを維持することができます。GI値とは「グリセミック・インデックス」のことで、食品の血糖値の上がりやすさを表した数値です。

一般的に「GI値=70以上」のものは「高GI値食品」と呼ばれ、血糖値の急上昇を引き起こすと言われているため、GI値が70以下の食品を選べると良いでしょう。例えば、白米、うどん、食パンは高GI値食品ですが、同じ炭水化物でも玄米・五穀米、そば、ライ麦パンや全粒粉パンは低GI値食品です。

4)食後10分の散歩

食事の後、たった10分だけでも歩いたり、軽い運動をするだけで、血糖値の上昇が緩やかになり、血糖値スパイクを防ぐことができます。

具体的には、食後60分以内に10分程度筋肉を使う(散歩やウォーキング、腕立て伏せ、スクワット、腹筋などでOK)ことで、血糖をエネルギーとして消費することができるため、血糖値の急上昇を防ぐことができ、血糖値スパイクによる身体への悪影響や健康リスクの上昇が起こらなくなります3

5)食事を摂るタイミング=間食を活用する

最後に「食事を摂るタイミング」のお話をしましょう。上記していますが、血糖値は下がれば下がるほど、次に食事を摂取した際に急上昇しやすくなります。

よって、食事と食事の間をあまり空けずに、こまめに何かを食べることが、血糖値スパイクを防ぐことにつながります。つまり「間食」をうまく活用することが、血糖値をコントロールするコツになります。

理想は3〜4時間おきに食事もしくは間食を摂ること。6時間以上空けてしまうと、血糖値スパイクが起きやすくなってしまいます。

間食で食べるものも、低GI値のものを選べるとベターですが、たくさんの量を食べるわけではないので、そこまで気にしなくても良いです。以下に、間食にオススメのものを紹介します。

  • ヨーグルト
  • ナッツ類
  • ダークチョコレート
  • チーズ
  • 野菜スティック
  • ゆで卵

ほとんどのものはコンビニでも買えるものかと思いますので、ぜひご活用ください。

間食で一番ダメなのは「スナック菓子」や「ジャンクフード」です。大量の糖質が使われているため、少ない量でも血糖値スパイクが起きてしまうと同時に、摂取カロリーの増加によって太りやすくなってしまいます。

間食はうまく活用すると血糖値コントロールに役立ちますが、食べ過ぎは肥満を引き起こすため注意が必要です。

まとめ

いくら血糖値スパイクを起こしたくないからと、糖質カットなどの極端なことをする必要はありません。炭水化物はエネルギー源として重要な栄養素です。

大事なのは、「様々な栄養素を組み合わせた食事を摂る」ことと「食事のタイミング」です。

うまく血糖値をコントロールして、1日中高いパフォーマンスを発揮していきましょう!

参考資料・文献

  1. Jimenez CC, Corcoran M, Crawley JT, et al. National athletic trainers’ association position statement: management of the athlete with type 1 diabetes mellitus. PubMed. 2008;42(4):536-545.
  2. ジェシー・インチャウスペ. 人生が変わる血糖値コントロール大全. かんき出版; 2022.
  3. Borror A, Zieff G, Battaglini C, Stoner L. The Effects of Postprandial Exercise on Glucose Control in Individuals with Type 2 Diabetes: A Systematic Review. Sports Med. 2018;48(6):1479-1491. doi:10.1007/s40279-018-0864-x