スポーツ医学は、主としてスポーツ競技の能力向上を目的とする学問分野です。人間の骨格、筋力などの運動機能や、運動する時の呼吸や代謝機能などを科学的に解明し、スポーツを行うことによる身体の変化や健康への影響を様々な分野の専門家が横断的に研究しています。
そのほか、スポーツやトレーニングを医療現場で活用することも、スポーツ医学と呼べるでしょう。
一方、近年では、ケガの治療や病気の回復のために運動を取り入れる「運動療法」が、予防医学やリハビリテーションの現場で取り入れられるようになりました。
これは、スポーツ競技選手に限らず、ビジネスパーソンにも役立つのではと考えられ始めました。
そこで、スポーツ医学に長年関わっていらっしゃる東京明日佳病院院長の渡邊 幹彦先生にお話を伺いました。
前回のインタビュー記事はこちら↓↓
第1回:身体の声、聞こえていますか?
目次
自然を感じながらだからこそ楽しい
編集部:
7月には東京オリンピックが予定されていますが、これからのスポーツについて、どう考えていらっしゃいますか?
渡邊先生:
これからのスポーツの世界がどうなっていくか考えた時、コンマ何秒の世界の中で、薬を使ってでも記録を取りにいきたいのか、サイボーグのようになってもやろうと思うスポーツなのか、はたまたeスポーツなんてジャンルも出てきていますよね。
そんな中、そもそもスポーツの楽しさって何かと考えてみた時に、僕が普段接している野球選手との話で共感しているのが、雨だとか、風が吹いていたりだとか、自然の中でやるのがいいということですね。
ドーム球場よりも、雨風が吹いていて、湿度を感じられる甲子園や広島球場などでやるほうが好きな選手は多いです。ドーム球場では、天候によらず試合ができて中止がなく興行的に助かるのだけど、選手自身は楽しくないそうです。
僕が趣味のゴルフをしながら楽しいと感じるのも、やはり雨が降ったり風が吹いたりっていう自然の中だからかと思います。今日は風が強いなとか感じながら、自然の中でスポーツするのが楽しいのです。
いいなぁと自分で気づける感性が幸せの鍵
渡邊先生:
入院中の患者さんは、雨だろうが、暑かろうが、エアコンがあれば温度や湿度の管理ができるし、心拍数を管理しながら生命活動はできるけど、そうではなくて、今日こんな日だったねと感じられる事が生きているという事なのではと思います。
病院の中で生きていても、それは本当の意味で生きているといえるのか、医者として働きながら、どうなのかなぁと思っています。
若いときは元気で、毎日熱を測る必要もないし、ご飯を食べてすっきり目をさます事ができて、一人でなんでもできるのが当たり前ですよね。でも年を取って、トイレや食事が一人でできなくなると、人の手が必要になります。だけどそうなってからでは遅い。そこを教えてあげる必要性を感じています。
また、こうなったら大変というばかりではなく、いかに今自分たちが充実しているか、そこを毎日感じながら暮らす事が大事なのだと思います。それは働く人も同じです。いいなぁと思える感性が毎日の幸せだったりしますよね。
編集部:
若い時って、健康をあたりまえと思ってしまいがちですね。
渡邊先生:
たくさん稼いでいい所に住むのを目標にしがちだけど、年取ってから入院するとなると、お金をたくさん持っていて、いい家に住んでいても、結局最後は病院で寝ていたら誰でも同じだねと。結果的に最後はみな同じなら、こうしなきゃいけないというのも、あまりないのではないでしょうか。
日本はとかく働きすぎといわれていますし、皆が同じ方向、同じ価値観でがんばるのではなく、それぞれ一人一人が自分の幸せについて考えて気づくことが大切だと思います。
編集部:
周りの目を気にしたり、誰かより上に立つことばかりを目指していると、自分にとっての幸せを見失ってしまいそうですね。
渡邊先生:
そうですね。他からの評価ではなく、自分目線でいいなぁと思える感性が毎日の幸せだったりします。
例えば、数字が良くなったからじゃなくて、これはいい運動だと思える事が、その人たちを良くしてあげている内容であって、必ずしも数字じゃないのです。
いっぱい手術したから名医なのか、手術は必要だから名医も必要だけど、実はそこまでにいかないようにするのが名医かもしれないとか、長生きする中で人間の体のケアは、手術以外の要素もいっぱいありますよね。
みんながそれを理解して、どう気がついて、どう行動するかが大事だと思っています。
(編集後記)
仕事、プライベート関係なく、自分自身の価値観で「良いと思える事」に気づける感性が毎日の幸せに繋がっているというお話、興味深く伺いました。
次回のテーマは、「日本でよりよく生きるには」というテーマでお届けします。
スポーツ選手とビジネスパーソンに共通するお話、第3回もどうぞお楽しみに!
渡邊 幹彦
東京明日佳病院院長 スポーツ整形外科医
日本整形外科スポーツ医学会評議員、日本臨床スポーツ医学会評議員、日本肘関節学会評議員、2013年WBC日本代表チームドクター
香川医科大学卒業後、昭和大学整形外科に入局し活躍
その後、日本鋼管病院スポーツ整形外科部長、昭和大学客員教授などを歴任し
2013年に東京明日佳病院副院長
2015年に院長へ就任