アメリカの巨大企業「Google(グーグル)」が、SIY(Search Inside Yourself)と呼ばれるマインドフルネス研修を社内の仕組みとして取り入れたことで日本にも広まった「マインドフルネス」は、facebook(現Meta)やCisco(シスコ)、Patagonia(パタゴニア)など、多くの大企業で実践・導入されています。

マインドフルネス呼吸を実践して “マインドフルネス力” をつけることで、感情制御能力の向上脳疲労解消の他、ストレス耐性の向上、睡眠の質向上、メンタルヘルスの改善、免疫力向上、更には集中力・記憶力アップ仕事の生産性向上など、多くのメリットがあることが科学的にも証明されています。

本記事では、マインドフルネスとは何か?マインドフルネス呼吸とは何なのか?をお伝えした後、マインドフルネス呼吸を行うとなぜ感情のコントロール能力が向上し、脳疲労が解消するのか、この2つの効果について詳しく解説していきます。

更に、マインドフルネス呼吸のやり方を、写真つきでイチから丁寧にお伝えしますので、マインドフルネス呼吸をやったことがない方も、ぜひこの記事を読んで実践してみていただければと思います。

マインドフルネスとは?

マインドフルネスとは「今行っている体験」に注意を向けて、その体験(=現実)について、良い悪いといった判断はせずに、あるがままを受け入れること、です。

マインドフルネスについては「【実践編】マインドフルネスを日常生活の中で鍛える方法を紹介!」でも解説していますので、ぜひこちらの記事もお読みください。

マインドフルネス呼吸とは?

マインドフルネスの力を高めるトレーニングとして、今回紹介するのが「マインドフルネス呼吸」です。

注意を向ける「今行っている体験」を「呼吸」に設定して、ひたすら呼吸に注意を向け続けるトレーニングを行うことで、目の前の対象に意識を向け続けることができ、あらゆる刺激や感情、衝動に惑わされることのない「マインドフルネス力」が高まっていきます。

マインドフルネス力を高めるべき2つの理由

マインドフルネス呼吸を行ってマインドフルネスの力を高めると、特に「感情のコントロール能力の向上」「脳疲労の解消」の2つの効果が期待できます。

なぜマインドフルネス呼吸を行うとこの2つの効果が得られるのか、について詳しく解説していきます。

1)感情のコントロール能力が向上する

マインドフルネス力がある人とない人では、以下のような状況になったときに、その後の行動が変わってきます。

【状況】仕事中、ふとツイッターを見たくなった。

【マインドフルネス力がない人】
「今行っている体験=仕事」に注意を向けることができず、目の前のタスクから逃げ出し、目先の楽しみに注意がそれて、一時の衝動である「ツイッターを見たい」に流されて、ツイッターを見てしまう。

【マインドフルネス力がある人】
(あっ、集中力が切れかかっているな)と現在の自分の状況に気づき、(ツイッターを見たいっていう感情に注意が向きそうになっているな)という現実を受け入れ、この感情を受け流し、(とりあえずもうちょっとだけ仕事して、キリが良い所で休憩しよう)と仕事を継続する。

マインドフルネス力を高めることで、一時の感情や衝動に流されず、その感情や衝動をスルーして、目の前のタスクに意識を向け続けることが可能になります。

2)脳疲労が解消する

脳には「デフォルト・モード・ネットワーク(Default-mode Network; DMN)」と呼ばれる脳回路があります。

この脳回路による活動は、脳の全消費エネルギーのうちの60〜80%を占める、と言われています。

つまり、このDMNの活動が活発になりすぎると(=過活動)、脳は必要以上にエネルギーを消費してしまうため、どんどん疲れてしまうということになります。

では、DMNの過活動とはどういう状況なのでしょうか?それが「今行っている体験に注意が向いておらず、過去や未来のことに心が奪われてしまっている状態のとき(=雑念が湧いている状態)」です。

マインドフルネス呼吸を行うことで、今行っている呼吸に注意が向くと、雑念にまみれた脳の活動が静まるため、脳を休めることが可能になります。

また、マインドフルネス呼吸を習慣的に継続してマインドフルネス力が高まると、普段の生活の中で雑念が湧くという状況が減ってくるため、疲労がたまりずらい脳になっていきます。

マインドフルネス呼吸のやり方【手順をイチから解説】

それでは実際にマインドフルネス呼吸を行ってみましょう。やり方や注意点を一つずつお伝えしていきます。

1)姿勢を整える

床に座って行っても良いのですが、最初は椅子に座って行うほうが、マインドフルネス呼吸を行いやすい姿勢をとりやすいかと思います。

椅子に深く腰掛けて、背もたれに骨盤をつけて骨盤を立てます。背中まで背もたれにつけると背すじがゆるみやすいので、背中は背もたれから離しましょう。

座高を高くするように、もしくは背すじを伸ばして首を長くするようなイメージで、姿勢を正します。胸を張ったり、腰を反ったりと変に力まずに、骨盤の真上に上半身、上半身の上に頭を乗せるといったイメージで、スッと姿勢をまっすぐにすることを意識しましょう。

お腹(腹筋)にも力を入れずリラックスし、両手もラクにももの上に乗せましょう。

目は開けても閉じても良いですが、基本は閉じて行います。両脚は組まず、両足をしっかりと地面につけましょう。

つま先からかかとまで、しっかりと床に接していたほうが身体が安定するため、 マインドフルネス中に呼吸に集中しやすくなります。

意外と、椅子に深く腰掛けるとかかとが床から浮くということも多いため、もしかかとが浮いてしまうようであれば、マインドフルネス呼吸を行う時だけでも何か大きめの本などを床に置いて、その上に足を乗せて、足裏がしっかりと全部ついているようにするのがベターです。

2)呼吸に関わる感覚に意識を向ける

マインドフルネス呼吸では「呼吸に関わる感覚」に意識を向けることで、まさに「今」行っている行動に意識を集中していきます。

「呼吸に関する感覚」とは、以下のようなもののことを指します。

  • 吸った時に鼻に入っていく空気の流れや温度
  • 吐いた時に口から出ていく空気の流れや温度
  • 呼吸時の胸やお腹の膨らみや凹み
  • 呼吸と呼吸の切れ目(すぐに息を吸いたくなるのか?少し呼吸が止まるか?)
  • 呼吸の深さ

ここに挙げた感覚を、マインドフルネス呼吸中に色々と感じてみるのも良いですし、もしたくさんあるとうまく注意を向けられないという方は、どれか一つに絞って、その感覚にひたすら注意を向けてみましょう。

たくさん息を吸おうとか、深呼吸をしようとか、何秒吸って何秒吐く、といったことを考える必要はありません。普段無意識にやっている呼吸に意識を向けると、最初は呼吸がぎこちなくなることもありますが、それでもOKです。

吸いたくなったら吸う。吐きたくなったら吐く。自然と呼吸が行われるのを待つようなイメージで、意識しているけれど無意識に行っている、といったイメージで呼吸を行います。

3)雑念が湧いてきたら、その事実に気づいて、呼吸に注意を戻す

マインドフルネス呼吸を行っていると、ほぼ必ずと言っていいほど「雑念」が湧いてきます。

雑念が湧くというのはつまり、「今行っている体験=呼吸」ではなく、過去の失敗体験を思い出し始めたり、今日この後やらなければならないタスクのこと(=未来のこと)を考え始めたりするということです。

「呼吸に注意を向けていたはずなのに、いつの間にか雑念が湧いて、それについて考えていた」ということに気がついたら、ゆっくりとまた呼吸に注意を戻します。

呼吸に注意を戻したのに、また違う雑念が湧いて、ふとしたときにそれに気づいたら、またゆっくりと呼吸に注意を戻します。これを繰り返しましょう。それがマインドフルネス力を鍛えるトレーニングとなります。

雑念からなかなかうまく呼吸に注意が戻らないときは、心の中で「戻ります」とつぶやくと、うまく切り替えられるかもしれません。

最初は1分から始めてみましょう。慣れてきたら3分、5分、と徐々に時間を伸ばしていき、1回で10分ほどできるようになると、マインドフルネス力がより高まりやすくなります。

雑念が湧くのは心の性質である

マインドフルネス呼吸を行っている際に「雑念が湧く」のは、決して自分の集中力がないからとか、心が弱いからとかではありません。雑念が湧くのは心の性質である、と考えましょう。

マインドフルネス呼吸の目的は「雑念が湧かないようにする」ではありません。「雑念が湧いたら、呼吸に戻る」を繰り返すことが、目の前の対象に意識を向け続けるトレーニングとなります。

雑念が湧くことに罪悪感のようなものを感じる必要はありません。その事実に気づき、ただ淡々と呼吸に戻りましょう。

まとめ

マインドフルネス呼吸を行うことで感情のコントロール能力が向上し、脳疲労が解消する理由をお伝えするとともに、具体的なマインドフルネス呼吸のやり方について解説しました。

マインドフルネス力を鍛えることで、ちょっとした衝動や感情に惑わされることなく、今行っている大切な体験や重要なタスクにしっかりと注意を向け続けることができるようになります。

ぜひ、まずは1分から、マインドフルネス呼吸をお試しいただければと思います。

参考資料

  • 樺沢紫苑. ブレインメンタル強化大全. サンクチュアリ出版; 2020.
  • 久賀谷亮. 世界のエリートがやっている最高の休息法 : 「脳科学×瞑想」で集中力が高まる. ダイヤモンド社; 2016.
  • 久賀谷亮. 脳が老いない世界一シンプルな方法. ダイヤモンド社; 2018.
  • 鈴木祐. ヤバい集中力 : 1日ブッ通しでアタマが冴えわたる神ライフハック45. SBクリエイティブ; 2019.