今回は「リワーク(復職支援)」の現場で、精神科作業療法士としてご活躍されている、佐藤俊之さんのインタビューをお届けします。


編集部:
佐藤さんは普段どのような活動をされているのか?お聞かせください。

佐藤さん:
現在は復職支援、いわゆる「リワーク」というところで仕事をしております。
リワークというのは、うつ病や適応障害等の精神疾患を理由に会社を休職せざるを得なくなった方に、元の会社に復帰して頂く事を大目的にしている「リハビリテーションプログラム」です。

現在所属している医療施設は、約10年程前に立ち上がり、私は7年程務めています。
私は作業療法士・精神保健福祉士・公認心理師の国家資格を持っていて、主にメンタルケアが専門の作業療法士として「精神科デイケア」という枠組みで治療をしています。

リワークでは、病気を持ちながら他の方と一緒に働ける状態での復帰となるので、病気の指導だけでなく、「病気を持ちながら働くにはどうすればいいのか」や「どういう交渉を産業医の先生や人事部としていくのか」といったところも一緒に考えたり、場合によっては同行して交渉もするという事も行っております。

編集部:
数あるリワーク施設の中で、佐藤さんが所属されている施設の特徴はどういった所でしょうか?

佐藤さん:
まずは「運動にとても力を入れている事」が挙げられます。
いわゆる「うつ病とは」「適応障害とは」という様な座学は他の施設に比べたらすごく少なくなっています。
また「即日受け入れを目指している」所も特徴です。他の施設だと、長い所で3か月待つというのも珍しくないのですが、そうなってしまうと休職期間が圧迫されてしまい、復職が間に合わない場合もあるので、うちを希望していただけるのであれば、使っていただく。且つ、すぐに開始できる様に受け入れを強化しています。

編集部:
メンタル不調で休職となった方が「リワーク施設」を選ぶ際、皆さんご自身でリサーチして、希望されて来られるのでしょうか?

佐藤さん:
実は日本では、この辺りの法整備が全くされていないという課題があります。
なので、誰発信で「リワークに行きましょう」となるかはまちまちです。
ご自身で見つけられる場合、家族がアドバイスする場合、会社としてリワークが必須な会社もあれば、そうでない会社もある。といった状況なのですが、最終的に「リワーク」というのは医療サービスでお薬と一緒なので、指示を出すのは「主治医」になります。主治医が知らないとリワーク施設に繋がる事は無いのです。
なので、私の施設もそうですが、同じクリニック・同じ主治医からの紹介で来られる方が多いですね。

運動を活用した「リワーク」とは?

編集部:
佐藤さんの施設が、座学を少なくし、運動を推奨されているのは何故でしょうか?

佐藤さん:
病気の勉強も大切です。しかしながら今の時代は、ネットや動画配信などで情報を得ることができます。どうやって自分の体調をモニターして業務中の様々な出来事に対応するか?という所の方が大切だと考えているので、私たちはグループワーク等の集団活動に重きを置いております。

ボードゲーム等をよく使うのですが、ボードゲームを使ってルール把握からシェアリング、クリアまでを行ったり、他にも、4時間ぐらいかけて、チームごとにプレゼンの資料を作って発表するといった事もやります。
こういったグループワークは、実際の仕事に近い形でのストレス負荷をかけつつ、皆さんの動きをスタッフが観察でき、ご自身でも自己分析しやすいといった特徴があります。

また、運動を多用しているのは、「運動自体が仕事にすごく近い機能を持っている」と考えているからです。「体力をつける」というのが第一優先ではなく、うちで採用している「フットサル」や「バスケットボール」の様なハードな競技スポーツは特に、運動ができる人も苦手な人もチームの中で役割があり、指示をしたり、指示を受けたり、その中で生まれる軋轢(あつれき)をちゃんと解消できるのか?もしスキルが足りなければ練習しなければならない。体力がなければ、練習をしたり走り込まなきゃいけない。といったところが仕事と一緒だと感じています。

運動は「脳」にとっても良い!?

また、運動は

  1. ストレス耐性の向上
  2. 不安の減少
  3. 抗うつ効果

など、「脳にも良い影響を与える」というデータが沢山あります。

運動をする事によって、脳には「ストレス反応」が生じます。
脳はストレスにさらされると、神経が傷つきますが、傷んだ神経は回復する際太く・傷つきにくくなる事が分かっています。運動はストレスの負荷量が調整しやすいので「適度なストレス」を与え、回復の過程で丈夫な神経を作り、ストレス耐性が向上する事が期待できます。

不安の減少についても、様々な研究が行われています。
チリの高校生を対象に行った研究では、【運動強度の差異】は不安減少に影響があると報告されています。週3回90分激しい運動をさせたグループと、週1回90分通常の体育の授業を受けたグループを比較した所、激しい運動をしたグループは14%不安度が下がった(後者はわずか3%)という研究結果が出ています。
つまり、ある程度激しい運動をした方が不安は減少しやすいというという事がこの研究からわかったのです。

また、抗うつ効果についてですが、
様々な動物実験を通して、運動により脳の神経新生が増加し、抗うつ効果の発揮につながる可能性が考えられています。

私たちの感情は脳の様々な機能が相互に作用して作られています。そのため、神経伝達物質が減ると脳の情報伝達がうまくいかず、感情のコントロールも難しくなります。運動はこの神経伝達物質の分泌を増やし、脳のつながりを修復できることがわかっています。

運動が苦手でも大丈夫!?

編集部:
運動がすごく苦手・嫌いだという方にも、運動を活用したリワークプログラムを勧められるのでしょうか?

佐藤さん:
はい。うちで用意しているリハビリテーションが運動ですので、それが出来ないとなると、最悪リワークを変える提案をする事になってしまいます。
私たちは、運動がメンタル不調を抱えている方に効果があると確信して、運動プログラムを責任を持って提供しています。それが出来ないとなると、うちを卒業するのは難しくなってしまうのですが、最初は苦手だと仰っていた患者さんも、実際は皆さんやるんですよね。
今日も50代過ぎた方が「フットサルに来ます」と宣言していかれました。

編集部:
苦手だった方の気持ちの変化は、どういった体験や声がけで起こるのでしょうか?

佐藤さん:
まずは、どの年代の方も、どんな患者さんでも実際にやっているのを目の当たりにするのが大きいと思います。
自分はまだ参加してない段階でも、
「〇〇さんがフットサルに行って何故かすごく元気になってる」とか、
「〇〇さん、体はしんどくて愚痴も言っているのに、何でまた行くんだろう」とか、そういったやり取りを、私たちが知らない所で沢山されているんですよね。
他の人がもうみるみる元気になっていくのを目の当たりにするので
「じゃあ、私も行ってみようかな」っていう風に思ってくれるみたいですね。

あと、うちの施設はOBの方々がほぼ毎回参加されるんですよ。仕事を休んでまで来てくれてたりもするのですが、そういった方も実は、「始めた頃はめちゃくちゃ下手だったり、転んだりしていたんですよ」という風に、出来なかった頃の話をすると、
「じゃあ毎週頑張っていれば自分もあんなに走れるようになるのかな。」
とか
「運動は苦手だけれども何か貢献できるのかな」といった認知の変容が起こってくるのを私は感じてますね。

編集部:
やはり言葉で説明されるよりも、何よりも説得力があるのが、
「実際にやっている方の姿を見る」事なんですね!

運動が苦手な方や、コンディション的にいきなりハードな内容は難しい方に運動を処方する際気を付けていらっしゃる事等ありますか?

佐藤さん:
全員がフットサルをやるのは目標ですが、実際のところは怪我があったり、最初はきついという方もいるので、負荷が調整しやすい筋トレやダンス等も用意しています。
あとは別の日に太極拳を入れているのでそれもある意味、運動の段階付けになるかなと思います。
あとは患者さん自身が自主的に運動をしていて、お互いに声を掛け合っていらっしゃいます。これからフットサルをやるにあたって、心配な人を筋トレに誘ったり、一緒にルールの確認をしたりですとか、運動が苦手な人のハードルを下げる活動が自主的に行われているんです。そういった流れができているのは、自分が入りたての頃、同じ様に声を掛けてもらった経験があるからなんですね。

編集部:
そういった雰囲気がOBの方々から脈々と引き継がれているのですね。
ちなみにフットサルの様なチームスポーツは、男女混合で行っていらっしゃるのでしょうか?体力レベルの差や、激しいボディコンタクトもあると思うのですが。

佐藤さん:
フットサルは、ルールとしてボディーコンタクトがNGなスポーツなので、そういった意味でもフットサルを選んでいますね。メンタルケアの現場でフットサルが多用されているのは、そういった理由もあると思います。
活動の一例として、日本ソーシャルフットボール協会という組織があります。
ここではチームスポーツを通して、うつ病等の精神疾患や障がいを抱えた方々が、自信を持ち挑戦する意欲を持ち続けられるような環境を整え、精神疾患・精神障がいのあるなしに関わらず、フットボールを通して交流することにより、精神疾患や障がいへの理解を広げる事を目指しています。
 ※フットボール=サッカーやフットサルなど

あとは、運動が苦手な方には
「とにかく目の前のボールを無心で蹴るのはめちゃくちゃ気持ちいいよ」
というアドバイスもよくしています。仕事上で色々と嫌な思いをされた方も、
「とにかく仲間からパスされたボールを自分の責任で蹴る。」
これがとてもマインドフルネスな経験だと思っていて、更にボールを蹴るというのは許された破壊行動なので、フラストレーションの発散にもなっている様です。
あとは、無心で目の前のボールを追っていると「仕事いけるかな?」などの不安は考えていられないので、無心で目の前のボールを追って3時間ぐらい走っていると、ハードだけど、頭がスッキリしているんですよね。皆さん、
「2時間位じゃ足りないです!もっとやりたいです!」とか
「ダンスや筋トレじゃなくて、フットサルがやりたいんです。あのチームの中に居たいんです!」って仰る方がおり、私もびっくりする位皆さん積極的に参加されます。

編集部:
OBの方も頻繁に顔を出されるというのは、もうそこが居場所になって一つのチームになっているんですね。

佐藤さん:
本当にそうです。仲間になっているんですよね。メンバーさん同士の愛情の様な物を感じます。


Part1では、佐藤さんが携わっていらっしゃる「リワークプログラム」についてお話を伺いました。私自身、チームスポーツ(特に球技)は大の苦手で、学生の頃の体育の授業ではボールから逃げていたタイプなので、今まで自ら「フットサル」をやってみようと思った事は無かったのですが、チームスポーツと仕事との共通点や、実際に苦手な方でも続けられて、復職後仕事を休んでまでも参加なさるOBの方々のエピソードを聞いているうちに、「私も挑戦してみたい!」という思いが沸いてきました。
「運動は健康に良い」と頭では分かっていても、継続は難しいという方は多く居らっしゃいますが、実際に運動をやって元気になった人、変わった人の姿を目の当たりにする。そういったエピソードを聞くという事が、一番説得力があり、心を動かす力があるという事を痛感したインタビューとなりました。

Part2では
メンタル不調を予防するライフスタイル、不調のサインにいち早く気づくコツ等をお伺いして参ります。次回の記事もお楽しみに!


【プロフィール】
佐藤 俊之(さとう としゆき)
■所属:医療法社団柏水会三軒茶屋診療所 東京リワークセンター/慶應義塾大学病院/アームズラボ
■資格:作業療法士/精神保健福祉士/公認心理師/一般社団法人日本うつ病リワーク協会認定/リワーク認定スタッフ/日本作業療法士協会 認定作業療法士(AOT)/一般社団法人SST普及協会 認定講師(NO97)/日本心理教育・家族教室ネットワーク認定 家族心理教育インストラクター/WRAPファシリテーター/日本スポーツ精神医学会認定 メンタルヘルス運動指導士/ストレスチェック実施者