(天気が悪いから頭が痛いなぁ…)(昔痛めた膝が痛い…もうすぐ雨降るかな)
天気・天候の変化によって頭痛や関節の痛みが発生したり、体調の悪化を感じるという方は一定数存在します。
この「天気痛」は、実は多くのビジネスパーソンにとって、日々の仕事の生産性を大きく低下させる隠れた敵となっています。
特に、締め切り間近の日や大切な商談の日に、天気痛による不調を感じると、仕事の質やスピードが落ちてしまうことは避けられません。
しかし、この天気痛を知り、適切な対策を取ることで、その影響を最小限に抑えることが可能です。
本記事では、天気痛とは何なのか?どのような天候の時に天気痛が起こるのか?といった基本情報から、その撃退方法に焦点を当て、ビジネスパーソンの新常識として、痛みの改善方法や予防方法といった知識を提供いたします。
天気痛とは?
天気痛とは、気温や湿度の変化、気圧の変動といった気象条件の変化によって、体のある部分に痛みが現れたり、体調の変化を感じる病態を指します。
2005年に発表された研究1では「Weather Sensitivity(気象感受性)」という言葉で表されており、気象感受性が高い人は、天気・天候の変化によって痛みの出現や体調の変化、持っている病気や疾患の悪化、ウェルビーイング(well-being)の低下などが起こる、と示されています。
気象感受性が高い人ってどれくらい存在する?
ドイツで約1000人を対象に「天気の変化によって体調の影響を受けるか?」というアンケートを行ったところ、「大きく影響を受ける」「多少影響を受ける」のいずれかに回答をした人は全体の約55%でした1。
日本でも、2020年にロート製薬とウェザーニュースが天気痛に関する調査を行ったところ、「あなたは天気痛を持っていますか」という質問に対して、「はい」か「持っている気がする」と回答したのは全体の約6割であったことが報告されています2。
つまり、2人に1人以上という高い割合で気象感受性が高い人が存在し、天候の変化に何かしら影響を受けて体調の変化を感じているということになります。
また、気温が低い日ほどウェブでの「股関節痛」「膝痛」「関節炎」といったキーワード検索の回数が増加し、平均最高気温が30°を超えるような夏場には減少していることを示す研究もあります3。
毎日忙しく働くビジネスパーソンにとって、自分ではコントロールできない「天候」によって体調が悪くなることはぜひとも避けたいところです。
どんな天候の時に天気痛は起こる?
気象感受性が高い人に「どんな天候の時に天気痛が起こるか?」という質問をすると、以下のような回答が多かったと示されています1。
- 寒い時
- 湿気がある時
- 雨が降っている時
- 嵐がある時
また、はっきりとは感じにくいものですが、天気痛に大きく関わっていると考えられているのが「気圧」です。
- 低気圧の時
- 気圧の変化が大きい時
ポイントは、気圧の低さ自体も関係しますが「気圧の変動」が大きく起こった時に天気痛が発生しやすいということです。気圧が高い状態から低くなってきているときや、逆に低い気圧から高くなっているときも、天気痛が発症しやすいようです。
朝晩と昼の気温差の大きい春先や、低気圧状態が続く梅雨の時期、夏から秋にかけての台風が多いシーズンなどは気圧が変動しやすいため、天気痛が起こりやすい時期と言えるでしょう。
天気痛で現れやすい症状
上記したような天候で、以下のような症状が現れた場合、天気痛の可能性があります。
- 頭痛(偏頭痛)
- 慢性疼痛(首・肩こり、腰痛、膝痛、過去怪我した部位への痛みなど)
- 関節痛(変形性膝関節炎・変形性股関節炎など)
- めまい(良性発作性頭位めまい症)
- 倦怠感・眠気
- 気分の落ち込み・不安・うつ
- ぜんそく
- 婦人科系疾患(月経過多・不正出血など)
- 歯の痛み
「天気痛調査20202」によれば、一番多かったのが「頭痛」で、次いで「肩こり」「首こり」「関節痛」を感じる方が多かったと報告されています。
また近年は、天候の変化がメンタルヘルスに大きな影響を及ぼすことが報告されています4。具体的には、気圧の変動によって自律神経のバランスが乱れることで、気分が落ち込んだり、イライラしやすくなるといった症状が発生します。
また、日照時間と認知機能の関係(=日照時間が短いほど認知機能が低下する)も報告されています5。
痛みや体調悪化といった目に見える症状がなくても、天候が悪い日は「なんか集中力が続かない」「なんか身体が重だるい」といった感覚になる方は、気象感受性が高い可能性があります。
天気痛が起こる原因・メカニズム
気象感受性が高い人とそうではない人が存在し、気象感受性が高い人に天気痛が発症することをお伝えしてきました。
では、気象感受性が高い人というのは、そうでない人と比較すると何が違うのでしょうか?
様々な研究6,7や、天気痛ドクターとして知られる佐藤純先生の書籍8を見てみると、気象感受性が高い人は、「耳」に存在する神経やセンサーの感受性が高い可能性があることが示されています。
耳の奥には「気圧を感知するセンサー」が存在します。そのセンサーが気圧の変化を感じ取ると、耳を通る神経が刺激され、神経伝達物質が放出されたり、交感神経が活性化されたりといったことが起こります。
神経伝達物質の放出が起こると、脳の血管が拡張し、炎症物質も放出されることで頭痛が起こることが示されています8。偏頭痛が起こる原因として「何らかの理由で脳の血管が急激に拡張するため」ということが言われているため9、気圧感知のセンサーが敏感な方は、気圧の変化によって偏頭痛が引き起こされてしまうことがあるようです。
また、交感神経の過度な活性は、血管の収縮や身体の緊張が発生するため、長く続いてしまうと、血行不良によって肩こりや腰痛といった慢性痛や関節痛が発症しやすくなります。
更に、たとえ少しの痛みだったとしてもそれが過敏に感じられる(=すごく痛く感じる)ようになるため、実はそんなにひどい痛みではないのにも関わらず、仕事に影響が出るほどの痛みとして感じられることがあります。
天気痛の改善・予防方法
ここまで天気痛とはどういうものか?どんなときに、どんな症状が現れやすいのかなど、天気痛について今分かっていることをお伝えしてきました。
天気痛の基本的なことがわかったところで、では天気痛が起きたらどのようにその痛みや症状を改善させれば良いのかや、そもそも天気痛が発生しないようにする予防法をここからお伝えします。
1)「天気痛というものが存在する」ということを認識する
あなたがもし天気によって体調の変化や痛み等の症状が現れる場合(=気象感受性が高い場合)、まずはそれを認識することが大切です。
(なんで天気が悪いと頭が痛くなるんだろう…)と、原因不明の何か病気なのではないか?と悩んでしまうと、更に症状や病態が悪化する可能性があります。
「天気痛」というものが存在すること、気象感受性が高い人が世界中に一定数存在するということ、天候の変化で痛みや症状が発生することは何も不思議ではないということを理解し、自分は気象感受性が高いんだな、と認識しましょう。
いきなり痛みや体調の変化が現れても「これは天気痛だ」と認知することだけで、症状が軽くなることがあります。
2)気圧変動アプリの使用+天気痛日記
あなたの天気痛が、どんな天候のときにどんなタイミングで発症するのかをしっかりと記録につけていくことで、天気と体調がどう連動しているかが可視化され、よりはっきりと自分の天気痛の特徴を掴むことができます。
「天気痛」や「気圧」といったワードでスマホアプリの検索をすると、様々なアプリが無料で利用できます(有名どころは「ウェザーニュース」「頭痛ーる」「気圧速報」「やんなっちゃったきろく」あたりでしょうか)。
気圧の変化をリアルタイムで教えてくれたり、気圧が大きく変動すると思われる時間帯にプッシュ通知で知らせてくれたりするため、天気痛が起こりそうだなと事前に理解し、備えることが可能になります。
ちなみに「天気痛調査20202」での「普段どのように天気痛を予防していますか?」という質問で一番多かった回答が「天気予報をチェックする」であったと報告されています。
また、アプリの利用と並行して、天気痛が発生したときを記録しておきましょう。
気圧をはじめとして、どんな天候や気温、湿度のときに発症したのか、痛みのレベル・症状はどんな感じだったのか?について記録を残していくことで、自分がどんなときに不調に向かうのかが可視化されます。
事前に天気痛が現れそうだとわかっていれば、下記のような対策をとることで予防や症状を軽減させることが可能になります。
3)迷走神経を刺激して副交感神経を活性化させる
耳に存在する気圧のセンサーが気圧の変動を感知すると、交感神経活動が活性化することは前述しました。
過度な交感神経活動は痛みを感じやすくなるため、副交感神経活動をしっかり活性化させることで自律神経のバランスが整い、天気痛の症状が改善する可能性があります。
そして、副交感神経がしっかりと働くためのキーとなるのが「迷走神経」を活性化させることになります。
迷走神経を簡単に活性化させることができる方法は以下の通りです。
- 歌を歌う(鼻歌・ハミングでもOK)
- うがいをする
- 冷水で顔を洗う / 身体を冷やす
- ゆったりと呼吸をする
迷走神経活性化については「疲労回復と心身のリラックスに欠かせない『迷走神経』を活性化する4つの方法」の記事で詳しく解説していますので、こちらもぜひお読みください。
4)耳を温める・耳が冷えないようにする
天気痛が起こるのは、耳に存在する気圧センサーが敏感に反応してしまうから、ということをお伝えしましたが、耳周りの血行が悪くなると、更に過敏になってしまいます。
よって、耳周りの血行が悪くならないようにすることが、天気痛予防につながります。
耳を触って冷たく感じる場合は血行が悪くなっている可能性があるため、ホットタオルで温めたり、耳を引っ張ったりぐるぐる回したりといったマッサージを行ってみましょう。
冬の時期はニット帽や耳あてを使用して防寒対策を行うことで、耳を冷やさないようにすると天気痛が起こりにくくなる可能性があります。
5)ドクターに薬を処方してもらう
医師の診断を受けて正しい薬を処方してもらうのが前提ではありますが、めまいを抑える薬(=抗めまい薬)は、耳の血行を促進させてむくみや浮腫をとる効果があるため、耳の機能が正常に働くようになり、気圧に対する過剰な反応を抑えることで、天気痛の予防や症状の改善につながる可能性があります。
天気によって痛みや症状がひどくなるという方は、可能なら「気象病外来」「天気痛外来」を受診しましょう(日本にはあまりたくさんは存在しませんが)。
もし近くにそのような外来がないという場合は、症状によって、頭痛がひどい場合は頭痛専門外来や神経内科、めまいがひどい場合は耳鼻科、関節痛が起こる場合は整形外科をまず受診しましょう。
天気痛ドクターの佐藤純先生は、天気痛の治療を実践している医師を受診して薬を処方してもらうのがベストですが、受診が難しい場合は、ドラッグストアで酔い止め薬を購入してみても良いでしょう、とおっしゃっています。
天気痛が起こりやすい人は気圧の変化だけで症状が現れやすいため、新幹線でトンネルを通る時や飛行機での移動中、もしくはエレベーターに乗っているときに、天気痛のような症状が起こることもあるようです。そんな方は、ぜひ酔い止め薬を試してみてください。
ちなみに、頭痛が起きた時に頭痛薬(痛み止め)を飲んでやり過ごすという方は、飲み過ぎに注意しましょう。鎮痛剤の飲み過ぎは「薬物乱用頭痛」になってしまう可能性があります(月に10日飲んでいる方は飲み過ぎです)。
6)生活習慣を改善して自律神経バランスを整える
迷走神経を刺激して副交感神経を活性化させることで自律神経のバランスを整える方法をお伝えしましたが、睡眠や食事といった1日を通しての生活リズムを見直して、よりよいライフスタイルを築くことも、自律神経を整える上で重要であり、天気痛を改善・予防する上でも重要になります。
脳や身体の疲労回復のためにも、更に自律神経のバランスを整えるためにも、必須なのが「良い睡眠をとること」です。
良い睡眠とは、充分な睡眠時間をとりつつ、深い睡眠がしっかりとれる睡眠のことを指します。
充分な睡眠時間を確保しつつ、質の高い睡眠をとる方法については「寝付きが悪い人必読!寝付きが良くなる6つの入眠スイッチ」の記事で詳しく解説していますので、ぜひこちらも合わせてお読みください。
食事に関しても、不規則な食生活や偏った栄養バランスは自律神経を乱す要因となります。自律神経を整えるための食事方法については「夏バテ予防はお早めに〜自律神経を鍛える夏バテ予防方法〜」の記事をお読みください。
まとめ
天気痛について、起こるメカニズムや症状、更に改善・予防方法について詳しく解説しました。
「天気痛というものは確かに存在する」ということを認識し、自分はどんな天候のときに症状が発症するのかをアプリや痛み日記によってチェックすることで、痛みをコントロールすることができるようになります。
痛みがひどい場合は我慢せず、病院を受診することをおすすめします。天気痛は気のせいではありません。医師に説明すれば必ずあなたに合った処置や薬の処方を行ってくれます。
また、天気痛の改善において「自律神経」がキーワードとして出てきました。迷走神経に刺激を与えるとともに、生活習慣を見直して自律神経バランスを整える生活を心がけましょう。
あなたのビジネスライフがより快適に、常に高いパフォーマンスが発揮できることを祈っております。
参考文献・資料
- von Mackensen S, Hoeppe P, Maarouf A, Tourigny P, Nowak D. Prevalence of weather sensitivity in Germany and Canada. Int J Biometeorol. 2005;49(3):156-166.
- 【天気痛調査2020】天気痛は平均週2日発症、5人に1人が生活への支障あり | Weathernews Inc. Published July 16, 2020. https://jp.weathernews.com/news/32013/
- Telfer S, Obradovich N. Local weather is associated with rates of online searches for musculoskeletal pain symptoms. PLoS One. 2017;12(8):e0181266.
- Obradovich N, Migliorini R, Paulus MP, Rahwan I. Empirical evidence of mental health risks posed by climate change. Proc Natl Acad Sci U S A. 2018;115(43):10953-10958.
- Gao Q, Luan D, Wang X, Xin S, Liu Y, Li J. Effect of sun exposure on cognitive function among elderly individuals in Northeast China. Clin Interv Aging. 2018;13:2075-2082.
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- Sato J. Weather changes and pain. Spinal Surg. 2015;29(2):153-156.
- 佐藤純. ビジネスパーソンのための低気圧不調に打ち勝つ12の習慣.; 2021.
- 企画編集部. 慢性頭痛が薬に頼らず(楽)治る最強療法. マキノ出版; 2019.