在宅勤務の普及や、オフィスでの長時間デスクワークにより、現代のビジネスパーソンの約8割が、一生に一度は腰痛を経験すると言われています1

パソコン作業による猫背・前かがみ姿勢や、会議での座りっぱなしが原因で起こる、腰周りの筋力低下や股関節周りの硬化が同時に進行して、慢性的な腰痛を引き起こしてしまいます。

本記事では、腰周りの筋力の向上や、股関節周りを柔軟にするようなエクササイズを、3ステップ(ほぐす、伸ばす、活性化する)で具体的にご紹介します。

【重要】腰痛を引き起こしている要因は「腰」ではないことが多い

多くの人は、腰痛だから腰をほぐしたり、腰を鍛えないといけない、と思っていますが、デスクワークによる腰痛の根本原因は、腰の筋肉ではない可能性があります。

腰より腰痛を引き起こしている可能性が高いのが「股関節の前側」です。

長時間のデスクワークで座り続けることで:

  • 股関節前側の筋肉が短縮・硬化
  • 腰の筋肉は逆に、常に引っ張られた状態
  • 筋力バランスが崩れて腰痛が発生

この問題を解決するために、ここから紹介する「ほぐす・伸ばす・活性化させる」の3ステップが効果的です。

【STEP 1】ほぐす|股関節前側の緊張をリリース

  • ターゲット部位:股関節付け根(腸腰筋)・前もも(大腿四頭筋)

まずは、デスクワークで硬くなった筋肉をほぐすことから始めましょう。多くの人が腰を直接マッサージしがちですが(それも悪くない)、実は腰痛解消のカギは「股関節前側」にあります。

長時間座り続けることで短縮・硬化した筋肉をまずほぐしてあげることで、次のステップの「伸ばす」や「活性化する」がより効果的になり、腰への負担を根本から軽減していくことが可能です。

まずは、骨盤前側の出っ張った骨のすぐ下にある筋肉(大腿筋膜張筋)をほぐします。

ツール(ストレッチポール / フォームローラーなど)を使う場合(上画像左):

  • 骨盤前側の出っ張っている骨の真下(ズボンのポケットあたり)にツールをあてる
  • ゆっくりと体重をかけて「痛気持ちいい」くらいの強度でゴリゴリほぐす(あまりにも痛い場合は、ゴリゴリせずに当てておくだけでもOK)

ツールがない場合(上画像右):

  • 麺棒や500mLのペットボトルを用意する
  • 椅子に座った状態で、骨盤の出っ張っている骨の下あたり(ズボンのポケット位置あたり)に麺棒を当ててゴリゴリほぐす(痛みが強い場合は当てておくだけでOK)

どちらの方法でも良いので、左右30秒ほど行いましょう。

続いて「前もも」です。前ももはとても強い筋肉なので、この筋肉が凝り固まってしまうと骨盤の動きが悪くなり、結果として腰に負担がかかってしまいます。

ツールを使う場合(上画像左):

  • うつぶせで、ストレッチポール等に前ももを乗せる
  • 膝上〜股関節まで、前後に動かしていったりきたりしながらほぐす

ツールがない場合(上画像右):

  • 麺棒や500mLのペットボトルで、股関節〜膝に向かって軽く圧をかけながらマッサージ
  • レギンスなどを履いた状態で行うと、麺棒が滑りやすくなるのでほぐしやすくなる

こちらも、左右30秒ほど行います。

【STEP 2】伸ばす|硬くなった筋肉を正常な長さに戻す

長時間座っていたことで凝り固まっていた股関節前側をほぐしたあとは、その部位を伸ばすことで、筋肉の長さをニュートラルの状態に戻していきます。

元の長さに戻すことで、腰周りの筋肉を「活性化させる」エクササイズを、より効果的に行うことができるようになります。

まずは横向きで行うストレッチから(上左写真参照)。

天井側の股関節と膝をそれぞれ90度に曲げた状態で、膝から下を地面におきます。地面側の足を手で掴み、ゆっくりと後ろに引いて前ももを伸ばしていきます。

天井側の股関節をしっかりと曲げておくことで骨盤が安定し、前ももを伸ばすときに腰が過度に反ってしまう事を防ぐことができます。

左右30〜60秒ほど行います。

続いて、より股関節の付け根を伸ばすために、椅子を使ったストレッチを行います(上右写真参照)。

片方のお尻は椅子に乗せた状態で、前足は膝の真下あたりに置きます。逆側の足を後ろに引いて、膝を軽く曲げた状態で脚を伸ばし、股関節付け根・前側をストレッチします。腰を反らさないように注意しましょう。

股関節の付け根にストレッチを感じたら、そのポジションをキープしながら、ストレッチをしている側の腕を天井に向かって伸ばし、軽く逆サイドに側屈させます。逆側の手を椅子に乗せて身体を支えましょう。

ゆっくり呼吸をしながら、股関節前側から体側全体を伸ばしていきます。

こちらも左右30〜60秒ほど行いましょう。

【STEP 3】活性化させる|弱った腰周りの筋肉を復活させる

最後に行うのが「活性化させる」です。ここまでは股関節前側にフォーカスしてきましたが、活性化させたいのは腰周りの筋肉。ずっと座った状態で伸びきった腰の筋肉を収縮させて、筋肉の機能を呼び戻していきます。

まずは「キャット&カウ」からはじめます。ヨガのポーズの1つとして知っている人もいるかもしれません。

四つ這いになり、両手は肩の真下、両膝は股関節の真下にそれぞれ置きます。息をゆっくりと吐きながら背骨を丸めていきましょう。背中を上から引っ張られているようにイメージをしながら行います(上左写真参照)。

続いて、息をゆっくり鼻から吸いながら、お腹をリラックスさせて、逆に背骨を反っていきます。頭と尾てい骨が天井から引っ張られているようなイメージで行うと良いでしょう。首に力が入りすぎないように注意します(上右写真参照)。

ゆったりとした呼吸に合わせながら、10回ほど行います。

もう1つ行いたい活性化エクササイズが「ヒップリフト」です。腰からお尻にかけての筋肉を鍛えるエクササイズです。

仰向けになって両膝を立て、両腕は身体の横に置きます。そこから、かかとで地面をしっかりと押しながら、お尻を持ち上げていきます。1秒で持ち上げて、1秒上で静止し、1秒かけて地面に下ろしましょう。

10〜15回ほど行うと、腰からお尻の筋肉がしっかりと活性化されます。

まとめ|習慣化して腰痛の改善に

今回紹介したエクササイズは、1回行うだけでも腰周りのスッキリを実感できるかと思いますが、習慣的に行うことで、慢性的な腰痛の改善や予防に非常に効果的となります。

  • 朝起きた後:硬くなった身体をリセットして1日をスタート
  • 昼の休憩時:午前中の疲労をリセット
  • 帰宅後:1日のデスクワーク疲れを解消
  • 就寝前:寝付きの改善や翌日の準備として

こんなタイミングで実施できると、より効果を実感できるのではないかなと思います。

現代のビジネスパーソンにとって、デスクワークは避けては通れないものです。どうしても腰に負担がかかってきてしまうのは事実ですが、正しい知識と継続的なケアで、腰痛は確実に改善できます。

3ステップエクササイズを日々の習慣にぜひ取り入れていただき、腰痛のない生産的なワークライフを実現していただければと思います。

参考文献・資料

  1. ‌Fujii T, Matsudaira K. Prevalence of low back pain and factors associated with chronic disabling back pain in Japan. Eur Spine J. 2013;22(2):432-438. doi:10.1007/s00586-012-2439-0.