毎日長時間のデスクワークを行うビジネスパーソンにとって、肩こりや腰痛といった凝りや痛み、身体の疲れは、多かれ少なかれ皆さん感じているかと思います。

そして、凝りや痛みの改善のために、自分でちょっと揉んでみたり、ストレッチしてみたり、症状がひどい方は整体や鍼灸等に通ってらっしゃる方もいることでしょう。

なかなか凝りや痛みが改善しないという方、日々のセルフケアとして「筋膜リリース」を試してみてはいかがでしょうか?

正しいやり方で筋膜リリースを行うと、痛みに耐えたり、わざわざ治療院等に通わなくても、凝りが解消したり、痛みレベルが低下していく可能性があります。

本記事では、筋膜とはどういうものなのか?筋膜リリースを行うとどんな良いことがあるのか?といった基本情報を解説した後、部位別に筋膜リリースのやり方を写真付きでお伝えします。

いくつかのリリースには、ストレッチポール等のツールを使用するものもありますが、道具なしでできる筋膜リリースも紹介しているので、ぜひどこか一部位でも良いので試してみていただければと思います。

筋膜とは?等の座学はいらない!筋膜リリースのやり方をすぐに知りたい!という方は、目次から「部位別筋膜リリースのやり方8選」にとんでお読みください。

筋膜とは?

筋膜とは「筋肉、骨、血管、臓器などを覆う薄い膜」のことです。

鶏もも肉を切ると、白い薄い膜があってたまに切りにくい時ありますよね?あの白い薄い膜が筋膜です。

また、筋膜と聞くと「筋肉の膜」と思われるかと思いますが、筋肉だけでなく、体のあらゆる組織(骨、内臓、血管、神経など)を包んでいます。

筋膜=1枚のボディスーツ

Fascia is like a single body suit.

筋膜はよくボディスーツや全身タイツのようなものに例えられます。

スキューバダイビングを行う時に使用するウェットスーツや、スピードスケート選手が身につけるレーシングスーツのように、頭からつま先まで全身を覆っているのが筋膜です。

そして前述したように、筋膜は筋肉だけでなく骨や内臓、血管や神経も包んでおり、それぞれの組織を「あるべきところに収める」という機能があるため、筋膜は「第2の骨格」とも呼ばれるくらい、身体の機能を正常に働かせるために重要な役割を果たしています。

2種類のたんぱく質から筋膜はできている

筋膜は「コラーゲン」と「エラスチン」と呼ばれる2種類のたんぱく質でできています。

コラーゲンは引っ張る力に抵抗する丈夫な繊維であり、身体を安定させる機能があります。

エラスチンは逆に、ゴムのように伸び縮みする繊維であり、身体の柔軟性を作っています。

このコラーゲンとエラスチンは、ガーゼのように規則正しく並んでおり、規則正しく並んでいる状態であると身体は安定しながらも柔軟に動くことができ、凝りや痛みはなく、機能的に身体を動かすことが可能になります。

逆に、何かのきっかけで規則正しい織り目が崩れてしまうと、コラーゲンの丈夫な力やエラスチンの柔軟性が低下してしまうため、動きの制限が起こり、様々な不調につながってしまうのです。

なぜ筋膜をリリースするべきなのか

Fascial stiffness and adhesions cause a variety of ailments.

長時間のデスクワークや座りっぱなし、長時間のスマホ操作、猫背や反り腰といった不良姿勢での生活などによって、体の一部の筋肉や筋膜に負担がかかると、筋膜は硬くなったり、筋膜と筋肉が癒着してしまったり、規則正しい織り目が崩れてしまいます。

また、一枚のボディスーツのようになっている筋膜の一部への負荷によって「シワ」のようなものができてしまうと、全身を覆うボディスーツが着崩れたようになり、体全体に動きの制限がかかったり、内臓や血管といった組織の一部が「あるべきところからズレてしまう」といったことが起き、これが骨格の歪みや身体の機能低下が発生します。

筋膜の硬さ、シワや癒着の発生、臓器や組織があるべき場所からズレてしまうといったことが起こることで凝りや痛み、様々な不調が発生してしまうため、これらを解決するためには、筋膜リリースを行って、その硬さをほぐし、シワを伸ばして広げ、規則正しい織り目を作り、癒着を取り除く必要があります。

筋膜リリースを行うメリット

筋膜リリースによって硬さをほぐしたり、シワを解消したり、癒着を取り除くと、関節可動域の向上や運動のパフォーマンスアップはもちろんのこと、更に以下のようなメリットがあります。

1)肩こりや腰痛等の慢性痛の改善

Fascial stiffness and adhesions cause chronic pain such as stiff shoulders and back pain.

前述したように、長時間のデスクワークや座りっぱなし、スマホ使用等によって、筋膜の特定の部位にストレスがかかり続けることで、肩こりや腰痛といった慢性痛が発生することがあります。

ある研究によれば、慢性的に腰痛に悩んでいる人は、腰痛がない人と比較すると、腰の胸腰筋膜(=胸から腰にかけて広がる筋膜)が約25%厚くなっており、筋膜同士の滑りが悪くなってしまうことが報告されています。

筋膜同士の滑りが悪い状態で無理に動かしていると炎症が発生してしまい、それが痛みを生むと考えられています。

2)冷え性やむくみの改善

Fascial stiffness and adhesions cause decreased blood flow, leading to swelling and coldness.

まず、筋膜が硬くなったりシワが寄ったりしてしまうと、その部位の血流が悪くなります。

更に、硬くなった筋膜の周辺の関節可動域が低下するため、関節の動きが悪くなることでも血流低下が起こります。

また、前述したように血管自体も筋膜によって包まれているため、血管を包む筋膜が硬くなったりシワが寄ったりしてしまうと、部分的に血管が圧迫されてしまい、血管が細くなって血流が低下します。

血流の低下は、体温の低下やリンパの流れも滞ってしまうため、冷え性やむくみを引き起こします。

3)姿勢が良くなる

Postural improvement can be expected by aligning the myofascia.

前述した通り、筋膜は全身を一枚のボディスーツのように覆っており、一部の筋膜の硬さやシワの発生によって、骨格や臓器があるべき場所からズレてしまうことで、良い姿勢がとれなくなってしまうことがあります。

この状態でいくら良い姿勢をとろうとしても、骨格のズレや柔軟性が低下した筋膜によって、悪い姿勢に戻されてしまいます。

筋膜リリースを行い、筋膜のシワを伸ばして整えることで、骨格や臓器があるべき場所に収まり、姿勢が良くなることがあります。

4)呼吸機能の向上

Releasing the myofascia in the areas involved in breathing is expected to improve respiratory function.

首、肩、胸、背中周辺の筋膜の硬直は深い呼吸を妨げてしまい、常に浅い呼吸になってしまうことで、首・肩こりに加えて、呼吸機能の低下も引き起こします。

また、浅い呼吸は交感神経の活動が活発になるため、身体全体の緊張を引き起こしたり、心拍数の増加や血圧の上昇が続くことによって疲れやすくなったり、睡眠の質の低下につながることもあります。

呼吸に関わる部位の筋膜をリリースすることで深い呼吸がとれるようになるため、副交感神経活動が活性化し、身体のリラックスやメンタルヘルスの向上(精神的な余裕、安定、意欲の向上など)が期待できます。

部位別筋膜リリースのやり方8選

どの部位の筋膜リリースを行うとしても、ポイントは「多少物足りないくらいの強さで圧迫しながら、ゆっくり伸ばす」です。

硬くなっていたり、シワになっていたり、癒着している部分は、水分や栄養素が不足した状態となっているため、圧迫して刺激を与えてあげると、その部位への水分・栄養分の供給を促すことができます。

筋膜リリースのターゲットは筋膜であり筋肉ではないため、強い力は必要なく、気持ち良い程度の強さで圧迫をしながらゆっくりと引っ張って伸ばしてあげることで、織り目の規則正しさを取り戻しつつ、エラスチンの伸長性を復活させます。

一部位につき10秒間を2〜3セット、ゆっくりと穏やかに気持ち良い強さで押し伸ばしましょう。

1)首の筋膜リリース

How to do myofascial release of the neck

重い頭を支えている首の後ろ側の筋膜をリリースすることで、首や肩の凝りの緩和につながります。

また、猫背でいると首の後ろ側の筋膜が縮んで硬くなってしまうため、「普段猫背だな」と自覚がある方はぜひ首の筋膜リリースを行いましょう。

決して強く圧迫しすぎず、筋膜を抑えるようなイメージで優しく圧迫しながら、ジワーッとストレッチをかけていきましょう。

  1. 首の骨の横側についている筋肉を、両手の3本の指で軽く圧迫します。
  2. 圧迫をキープしたまま、ゆっくり頭を前に傾けて首の後ろ側をストレッチします。
  3. 10秒キープしたらゆっくり頭を元に戻してリラックスし、もう一度頭を傾けて10秒ストレッチします。
  4. 圧迫する場所を少し変えて何度か行っても良いでしょう。

2)肩の筋膜リリース

How to do myofascial release of the shoulder

首から肩にかけて広がる僧帽筋を包む筋膜をリリースすることで、首こりや肩こりといった不調の緩和につながります。

首の筋膜リリースと同様、優しく圧迫しながらゆっくりと頭を横に傾けてストレッチをかけていきましょう。

  1. 肩の凝りを感じる部分を優しく圧迫します。
  2. 圧迫をキープしたまま、手を腰に回し、頭をゆっくり逆側に傾けます。
  3. 10秒キープしたらゆっくり頭を中心に戻してリラックスし、もう一度頭を傾けて10秒ストレッチします。
  4. 圧迫する場所を少し変えて何度か行っても良いでしょう。

3)胸の筋膜リリース

How to do a chest myofascial release

首・肩の凝りや猫背の慢性化を引き起こす胸部の筋膜をリリースすることで、凝りや痛みの緩和、呼吸機能の向上、上半身の骨格や内臓が正しい位置に戻ることによる姿勢の改善等が期待できます。

  1. 鎖骨の下部分を優しく圧迫します
  2. 腕を斜め下に広げたら、ゆっくり後ろに引いて胸をストレッチします。
  3. 10秒行ったらゆっくり腕を戻し、リラックスしたらもう一度後ろに引いてストレッチします。
  4. 圧迫する場所を変えたり、腕を引く高さを変えてストレッチを行うのも良いでしょう。

4)わきの下の筋膜リリース

How to do myofascial release of the armpits

腕〜背中〜腰と、広範囲に渡って広がる広背筋と呼ばれる筋肉を包む筋膜をリリースすることで、肩の可動域が広がって腕を上げやすくなったり、肩こりや背中の張り、腰痛など、上半身の不調改善につながる可能性があります。

くれぐれも、わきの下の柔らかい部分(わき毛が生えている場所)は繊細な場所のため、圧迫しないように注意しましょう。わきの下の背中側から肩甲骨の縁あたりを圧迫していきます。

また、少しの圧迫でも痛みを感じる可能性があるため、優しく圧迫することを心がけましょう。

  1. ストレッチポールやフォームローラーを用意し、わきの下の背中側を当てます(わきの下には当てない)。
  2. 優しく圧迫をかけながら、ゆっくり肘を肩の上側に動かします(余裕があれば肘を伸ばします)。
  3. まだ余裕があれば、腕を天井側に持ち上げます。
  4. なるべくリラックスしながら10秒圧迫&ストレッチを2セット行いましょう。

5)お尻の筋膜リリース

How to do myofascial release of the buttocks

腰痛の予防や改善に、お尻周辺の筋膜リリースは欠かせません。また、長時間の座りっぱなしは、長時間お尻の筋肉をつぶし続けていることになるため、筋肉や筋膜は硬くなりやすいです。

お尻周辺の筋膜をリリースすることで、下半身の筋力発揮の向上や骨盤の動きの改善も期待できます。

  1. 坐骨や尾てい骨を圧迫するのは避けて、片方のお尻でストレッチポールやフォームローラーの上に乗ります。
  2. 痛みが出ないように腕でしっかりと体重を支えながら、圧迫をかけているお尻側の脚を組むようにして、足首を膝の上に乗せます。
  3. 余裕があれば膝を持ち上げて、お尻にしっかりとストレッチをかけましょう。
  4. 10秒行ったら一度リラックスをして、もう1セット行います。

6)股関節前側の筋膜リリース

How to do an anterior hip myofascial release

デスクワークや座りっぱなしの時間が長い方は、大腿筋膜張筋を含む股関節前側の筋膜が硬くなりやすいです。

股関節前側の筋膜の硬さは骨盤の動きを制限し、血流の低下も引き起こすため、腰痛や鼠蹊部の痛み、膝の痛み、むくみや冷え性などを引き起こします。

非常に硬くなりやすい部分のため、ぜひ毎日のルーティーンとして股関節前側の筋膜リリースを取り入れましょう。

  1. うつ伏せの状態で、骨盤前側の出っ張った骨の下部分にストレッチポールやフォームローラーを当てます。
  2. 痛みが強くならないように両腕で体重を支えながら、ゆっくり上体を起こして股関節前側にストレッチをかけます。
  3. 10秒行ったら一度リラックスして、もう1セット行います。

7)前ももの筋膜リリース

How to do a myofascial release of the anterior thigh

膝の曲げ伸ばしで膝に痛みが出るという方は、もしかしたら膝のお皿や前ももを包む筋膜の硬さが関係しているかもしれません。

膝のお皿の上部分をリリースすることで、前ももの柔軟性が向上したり、膝のお皿がスムーズに動くようになるため、膝の違和感や痛みが解消する可能性があります。

膝になんらかの違和感を感じているという方は、ぜひ一度お試しください。

  1. うつ伏せの状態で、膝の上部分にストレッチポールやフォームローラーを当てて、脚を上に乗せます。
  2. 痛みが出ないように両腕で体重を支えながら、膝をゆっくり曲げてかかとをお尻に近づけていきます。
  3. 10秒行ったらゆっくり膝を伸ばして一度リラックスし、もう1セット行います。

8)ふくらはぎの筋膜リリース

How to do calf myofascial release

「第2の心臓」と呼ばれることもあるふくらはぎの筋膜をリリースして良い状態に整えられると、ふくらはぎの筋肉による強力なポンプ作用が機能するようになり、全身の血流が向上します。

慢性的な凝りやむくみ、冷え性でお悩みの方はぜひふくらはぎの筋膜リリースをお試しください。

  1. ストレッチポールの上にふくらはぎを置き、脚の重さを使って圧迫をかけます。
  2. ゆっくりと足首をスネ側に持ち上げて、ふくらはぎにストレッチをかけます。
  3. 10秒キープしたらリラックスして、もう10秒行いましょう。
  4. 圧迫をかける場所を変えて数回行っても良いでしょう。

まとめ

筋膜についてや筋膜リリースのメリットを紹介し、全部で8部位の筋膜リリースのやり方を写真付きでお伝えしました。

筋膜リリースはテレビをみながらでもできる、とても簡単かつ効果的なセルフケア方法となります。

ぜひ一度お試しいただき、身体の変化を感じてみてください。そして、もし自分に合いそうだなと感じたら、ぜひ習慣にして、自分の身体を労る時間、身体のコンディションを整える時間として、筋膜リリースを活用していただけたらと思います。

参考資料

  1. 滝澤幸一. 痛みとこりがラクになる 1日1分筋膜リリース. マイナビ出版; 2015.
  2. のぐち径大. ながら筋膜リリース. あさ出版; 2017.
  3. Tarzan 筋膜ケアの真実. マガジンハウス; 2022.
  4. 滝澤幸一. やさしい筋膜リリースのやり方. 笠倉出版社; 2018.
  5. 竹井仁. 自分でできる!筋膜リリースパーフェクトガイド. 自由国民社; 2016.