忙しいビジネスパーソンにとって、食事は一日の楽しみであると同時に、健康を維持する上での重要な要素です。しかし、忙しさのあまり、つい早食いをしてしまうことはありませんか?

この記事では、しっかりと咀嚼することがどのように健康に影響を与えるのかについて、日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナーであり、管理栄養士・スポーツ栄養士の後藤 優子さんに、編集部がインタビューを行いました。

咀嚼は単に食物を細かくするだけでなく、消化吸収を助けたり、歯周病を予防したり、食欲のコントロールをしやすくするなど、私たちの体に多大な利益をもたらします。

忙しい毎日でも、食事の時間を大切にし、健康的な生活を送るためのヒントをお届けします。

噛むと体はどうなるの?

編集部:咀嚼の大切さについて、独自の考えをお聞かせください。

後藤さん:噛むことで体にとってどのような変化があるか、紹介します。

  1. 口腔機能が発達する(味覚、嚥下、言語機能など)
  2. 口の中で食べ物を細かく砕くことで、消化吸収力がアップする
  3. 虫歯・歯周病予防
  4. 噛んで時間をかけることで、食欲のコントロールがある程度しやすくなる
  5. 噛むと顔周りや頭周りの血流がよくなり、脳の活性化につながる
  6. 噛むことで顔周りの筋肉をしっかり使うことになるので、それによりフェイスラインがすっきりする

編集部:噛むことは、こんなに様々な事と繋がっているのですね。

後藤さん:はい。例えば、スポーツ選手がガムを噛みながら試合に出るのを見かけますよね。それは集中力アップが期待でき、瞬間的にぐっと嚙み締めることで、大きな力を出しやすくなるからです。

マウスピースをするのは、首の怪我の予防と、瞬間的に力を出すためで、ラグビー、アメフトなどのコンタクトスポーツやゴルフの選手がマウスピースをするのはそのためです。

編集部:噛むことで集中力を高めるというのは、ビジネスパーソンにも転用できますね!

脳腸相関、噛むことが脳と腸に繋がっている

編集部:逆に噛まなくなると、体にどんな影響があるのでしょう?

後藤さん:咀嚼しなくなると、あごの機能が落ち、噛み合わせが悪くなり、大きな力を出すとか、踏ん張りがきかなくなります。

例えば、点滴が続くと、胃腸を使わないので、本来消化吸収しやすいように小腸はでこぼこになっているのが、つるんとしてしまうのです。 そうなると、普通の食事に戻そうとした時に、消化不良を起こしてしまいます。

そもそも食べるものを意識するのも大事ですが、食べたものをどれだけ吸収できるかも大事です。胃腸の機能をキチンと整えると、食べることを最大限に活かすことになります。

編集部:サプリメントについてはどうお考えですか?食べることに興味ない人っていますよね。

後藤さん:サプリメントはうまく使うもの。非常事態や、食事が十分じゃないと感じている時など、かしこく使うのはいいと思います。でも、サプリメントは食事ではないですよね。噛むことがなくなる、そうすると機能が衰えます。

高齢者や麻痺などで口腔機能が低下した場合、点滴を続けていると、消化器を使わないので元気がなくなるんです。だから、胃腸の消化吸収能力をいかに使うかを病院でも大事にしています。

完全栄養食という商品があって「パスタとソース、一食ですべての栄養素がとれる」というものはまだしも、プロテインなど飲むタイプは、それにより咀嚼をしなくなるのは問題です。食べる時間、買い物に行く時間、作る時間がない時にはいいと思うけど、毎食になるとどうなのか、立ち止まって考えてみてほしいです。

噛むことは、脳につながり、腸にも関係しています。腸内環境がいいとイライラが少ないなど、腸内フローラが性格にも関係しているのではないかという文献も出てきています。脳と小腸が繋がっている、脳腸相関ですね。

咀嚼を改善するには?

編集部:咀嚼をしっかりするためのアイデアがあれば教えてください。

後藤さん:咀嚼回数の少ない人にいつも言っているのが、「口に入れる量を少なくして」ということです。
噛んでいるうちに口の中がいっぱいになっちゃって、飲み込んでしまうことが、咀嚼が少ない一番の原因かなと思います。

一口を小さくして噛む回数が増えると、口に運ぶ回数が必然的に増えるので、そうすると食事の時間が伸び、満腹感を得やすくなり、分量をコントロールしやすくなります。

編集部:咀嚼を良くする自炊時の工夫・アドバイスはありますか?

後藤さん:以下のように工夫すると、自然と噛む回数が増えていきます。

  • 人参、レンコン、きゅうり、ブロッコリーなどを、噛みごたえがある切り方(乱切りなど)で調理する
  • 昆布をおやつに食べる、出汁としてだけでなく、具材として使う
  • タコや赤身肉を積極的に取り入れる
  • ご飯の場合は、玄米や雑穀米を混ぜる
  • パンは、バケットやベーグルなどを選ぶ

素材は大きめに切るけど、一口は小さめがポイントです。

編集部:良い噛み方とは、どんな噛み方でしょうか?

後藤さん片方だけに偏らず、舌を使って食べ物を移動して、口腔内の機能はあるものは使うということですね。左右全体を意識することが大切です。どちらかに偏っている場合、癖だけでなく、口の中に痛い場所があるなどの理由もあるかもしれません。体のバランスに関わってくるので、その場合はまずは歯の治療をしましょう。

編集部:噛むことは無意識ばかりで、意識すると脳に刺激になる、お金をかけずに効果がでる。フラグを立てることで意識が向く、スマホを見ながら食べると何を食べているかも分からないような状況ですよね。

後藤さん:時間のない中で食事をすることで、噛むことが少なく飲み込んでしまう。おにぎりも1,2,3で飲んでいる状況の方も多く見受けられます。仕事をしながら食べると、ただ口に入れているだけになってしまいます。食事をゆっくり楽しむ時間を取ってもらえたらと思います。

食事の位置付けについて、体にエネルギー源を入れるのも大事ですが、食事をすることで、お腹の中を満たすだけでなく、心も同時に満たせたらいいなと感じています。


後藤 優子
福岡県生まれ
フィットネスクラブでの運動指導、アスリートトレーナー&栄養サポート、専門学校講師
■資格:日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー、管理栄養士、スポーツ栄養士
■サポート歴:
[トレーナー]東福岡高校サッカー部、中京大学水泳部、大同特殊鋼ハンドボール部、DENSOボート部、名経大高蔵高校テニス部、女子空手選手パーソナルトレーナー
[栄養士]国学院栃木高校野球部セミナー、東京都少年野球連盟セミナー、競泳選手食事サポート、オムロン女子ハンドボール食事サポート、高齢者フレイル予防セミナー