現代のビジネスパーソンにとって、健康的な食生活というのは、仕事の成功やプライベートの充実において、重要な鍵であることは明らかです。

今回は、日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナーであり、管理栄養士・スポーツ栄養士でもある後藤優子氏に、「忙しいビジネスパーソンの食生活改善のコツ」をテーマにインタビューを行いました。そこで出てきたキーワードが「感じる+考える」というものでした。

後藤氏には、忙しい毎日の中でも実践可能な、シンプルで、それでいて科学に基づいた食生活の改善策を提案していただきました。

健康を支える栄養バランスの取り方や、食事・食生活に対する意識の変化が、いかにして体調やワークパフォーマンスの向上に繋がるかに焦点を当て、具体的な方法やコツを解説しています。

このインタビュー記事を通じて、日々の食事がもたらす影響を自ら感じ、考えることの大切さを、ビジネスパーソンの皆さんにお伝えします。


後藤 優子

【監修者】後藤優子

  • 管理栄養士 / 日本スポーツ協会アスレティックトレーナー

管理栄養士・スポーツ栄養士として、アスリートへのトレーナー&栄養サポートやフィットネスクラブでの運動指導、専門学校での講師も行う。トレーナーとして、東福岡高校サッカー部や大同特殊鋼ハンドボール部、DENSOボート部などをサポート。栄養士としては国学院栃木高校野球部やオムロン女子ハンドボールチームへのセミナーや食事サポートの実績あり。

食生活改善の指導方法は「その人に合った内容」が大切

編集部:食生活改善や栄養の指導って、どんなことをするのですか?

後藤さん:ある程度のフォーマット(型)にそって行いますが、嫌いなものを別のものに変えるとか、食事の時間帯がフォーマットに合わせられない場合は、フォーマットからピックアップして何回かに分けるなど、その方のライフスタイルに合うものにアレンジして提案しています。

継続していける方法なのかどうか、つまり「一生できる食生活スタイルである」かどうか、が大事なポイントです。栄養士が関わらなくなったら続かなくなった、というのではダメですからね。

お酒が好きな人には、お酒を飲みながらどう続ければいいのかを提案します。お酒以外の部分で提案するのです。食事だけでなく、階段をのぼってみましょうかなど、お酒をやめない中での提案をします。

食生活改善の選択肢は複数ある= “臨機応変さ” が大切

編集部:食生活改善のアドバイスをお願いします。

後藤さん:体作りをしている方に「何を食べていますか?」と聞くと、必ずといって良いほど「チキン」と返ってくることが多いです。体作りのために必要な食べ物はチキンだけではないのに、みんなそこを選びがちです。

調理面や、金額面から来ているところもありますが、チキン以外にもいろんな食べ物があるのだから、選択の幅を増やして、もっと食事を楽しんでもらえたらと思っています。

お寿司の話でいうと、酢飯には砂糖が入っているので、体重を気にする方の場合、お寿司を食べる回数はあまり多くない方が良いですよね。逆に、食欲がなくてあまり食べられない、という方にはお寿司はお勧めです。

つまり、「これだけ食べていればいい」というような、誰にでも合うメニューはないのです。その方その方の状況に合った食べ方、食べ物の選び方があると思うのです。

また、時間がある方や、苦にならない方は自炊をするかと思いますが、時間のない方や不得意な方は、できたものを買わざるをえない、ということもありますよね。コンビニやお惣菜が悪いとは言いません。できること、続けられることをやるのです。

編集部:忙しい人、時間のない人向けに、コンビニだったらどんな選択がいいですか?

後藤さん1個で完結できるものはなかなか無いので、組み合わせを実践してはどうでしょうか。「お弁当+サラダ」など、実際のものをみて、足りなそうなものを付け足すことから始めてみましょう。

パソコンに向かいながらなど、お箸を使いたくない人には、おにぎり+サラダチキン+野菜ジュースという手もあります。サラダチキンは、パックのお魚に替えてもいいですね。

どの食べ方がベストなのか?と考えるよりも、その時々のベストの基準を変えていくことが必要です。

また、「一回ですべてを揃えようとしない」という考え方も大切です。お昼におにぎり1個食べて、休憩で机の引き出しにストックしておいた魚肉ソーセージを食べる、など分けて食べても良いのです。

野菜ジュースのストックが難しければ、スティック(粉状)の青汁を利用するのも手です。デスクに色々と忍ばせておくという方法もありだと思いますね。

理想を追い求めてしまえば際限がなくなるので、ご自身の生活にはこの選び方があっている、というところをトライ&エラーしてみてほしいです。忙しい人はその時間さえもないかもしれませんが、可能性のあるものはぜひ一度試してほしいです。

また、炊き込みごはんは具材を一緒に食べられるので、忙しくていつもおにぎりのみの方にはすごく便利です。

おすすめの組み合わせとしては、

  • 炊き込みごはん:鶏肉・にんじん・ごぼう・油揚げの組み合わせ。豆やひじきを加えるのもGOOD
  • 混ぜごはん:おかかとチーズ など
  • ピラフ的に:シーフードミックスとバターの混ぜ合わせ
  • こんにゃくを加えてカロリーを抑える

味噌汁はインスタントでも構わないのでマグカップで飲むと良いでしょう。鉄不足が気になるならシジミの味噌汁がオススメ!発酵食品を1品取れるので味噌汁はオススメです。

カロリーや糖質カットよりも大切なこと

編集部:カロリーや糖質カットについてはどうお考えですか?

後藤さん:食生活の改善というと以前はカロリーが注目されていましたが、今ではカロリーだけでは無いことを、多くの方が知るようになってきました。

では、糖質カットはどうかというと、自分の体質や、その時の体調によっては合わない人もいます。特に女性の場合は、月経が止まってしまう人もいるため、とても大変なことです。

糖質をカットした結果、ご自身ではなく、出産した子供の糖質代謝に問題が出てくることもあります(=糖尿病になりやすくなる)。特に女性の場合は、自分だけの体ではないので注意が必要です。

カロリーや糖質カットよりも、咀嚼を意識する事の方が大切です。ウェイトコントロールにもつながるし、体調改善の良いきっかけになります(咀嚼については「しっかり噛んで食べていますか?咀嚼と健康の関係」の記事をぜひお読みください)。

今、タピオカドリンクが流行っていますが、食事のかわりにタピオカドリンクを飲んで、お腹いっぱいになっている方がいます。それでいて、他の食事では糖質カットをしていたりして、タピオカは糖質がたっぷりであることを知っていてやっているのでしょうか。

流行っているからといって、糖質いっぱいのタピオカドリンクを飲んでいるのは、少し考えてもいいかもしれません。「自分の体が心地良いかどうか」よりも「トレンドにいかに乗れるか」で選択をしてしまっているように思います。

まずは、自分の体がどう感じているのか、というところを考えてみると良いかもしれませんね。

自分に興味を持つことから始める食生活改善

編集部:具体的には、どのように食生活を改善していけばいいのでしょうか?

後藤さん:すべての方にすべての方法があてはまる訳ではありません。それが食事指導の難しさです。どれを食べてくれと言われたらやるのに、と言われるけど、それは考えることを放棄しています。

何が合うかなんて、それは指導する側にはわからない。提案はするけど、その方が試してみないと分からないことが多いのです。体調の良し悪しを栄養士という立場の人間に任されても、それはちょっとまた違います。

「体の調子が良い・悪い」「朝スッキリ起きられる」「日中に眠くならない」「集中して仕事に取り組めた」「イライラしない」など、体調が優れないのはなぜだろうか?今日調子が良いのはなんでだろう?というように、原因を探っていくと、自分は何を食べれば良いのか分からない…という人が減るのではないかなと考えています。

自分で考える、感じることが大切です。