夏になると、熱中症対策として「こまめな水分補給」「エアコンの使用」「日傘や帽子の利用」などを意識する方は多いと思います。

一方で、暑さの影響は「熱中症になるかどうか」だけではありません。暑い環境では、体が疲れやすくなり、集中力や判断力も落ちやすくなります。その結果、仕事の生産性の低下の他、転倒、接触、手元のミス、運転中の判断遅れ、現場作業中のヒヤリハットなど、仕事中のケガや事故につながる可能性があります。

「なんとなく頭がぼーっとする」
「午後になると確認ミスが増える」
「外回りのあと、いつもより疲れが強い」

こうした不調は、単なる夏バテではなく、暑さによってワークパフォーマンスが落ちているサインかもしれません。

今回は、2023年にJournal of Health Economicsに掲載された「Heat and Worker Health」という研究をもとに、ビジネスパーソンが知っておきたい「暑さとケガ・ミスの関係」と、今日からできる暑さ対策を紹介します。

暑さは「仕事・作業中のケガ」にも関係する

熱中症というと、頭痛、吐き気、めまい、倦怠感、少しひどくなると意識がもうろうとしてくる… こんな症状をイメージする方が多いかもしれません。

もちろん、これらの症状が暑熱環境下にいる際に現れたら、「熱中症かも」と思ってすぐに対応すべき重要なサインです。

ただ、仕事の現場では、その手前の段階にも注意が必要です。例えば、暑い日に次のようなことが起きていないでしょうか。

  • いつもより集中力が続かない
  • 文章や数字の確認ミスが増える
  • 外回りのあと、会議で頭が働きにくい
  • 倉庫や屋外作業で何もないところでよくつまづく
  • 汗で手が滑り、道具や荷物を扱いにくい
  • 疲労感が強く、なんかやる気が出ない

これらは、典型的な熱中症の症状というよりも、暑さによる体への負担(暑熱ストレスや軽度の脱水など)によって起こるパフォーマンス低下のサインと考えられますが、この段階で「これは暑さが原因かも」と気づき、対応できると、熱中症リスクや仕事の生産性低下を最小限に抑えられるとともに、事故の予防にもつながります。

つまり、熱中症対策は「倒れないため」だけではなく、「仕事中のミスやケガを防ぐため」のコンディショニングでもあるのです。

大規模研究「Heat and Worker Health」でわかったこと

今回参考にした論文は、2023年にIrelandらが発表した「Heat and Worker Health」です1

この研究では、オーストラリアの労災保険の記録と気温データを使用し、暑い日に仕事中のケガや病気の申請が増えるかどうかを調べました。対象期間は1985年から2020年までと長く、働く人の健康と暑さの関係を大きなデータで見た研究です。

主なポイントは次の通りです。

  • 気温が高い日に、仕事中のケガや病気の申請が増える傾向があった
  • 屋外作業や体を使う仕事では、暑さの影響がより大きくなりやすい
  • 暑さの影響は、熱中症だけでなく、仕事・作業中のケガや事故のリスク増加と関連している可能性がある

ここで大切なのは、この研究が「暑い日は熱中症 “だけ” 気をつければ良い」という考え方では不十分だと示している点です。

補足しておくと、この研究は「オーストラリアの労災データ」を使った観察研究です。そのため、日本のすべての職場にそのまま当てはまるというわけではないということ、そして「暑さがあらゆる事故やケガを引き起こす可能性がある」と断定するものではありません。

ただ、屋外の農業労働者を対象とした研究2でも、農業労働者の労災・傷害記録と、対応する気象データの関連を見ると、暑い日では基準となる涼しい日に比べて、外傷の発生率が有意に高かったことが示されています。

「暑さ」が働く人の体調、注意力、判断力、安全行動に影響するという視点は、ビジネスパーソンにとって非常に重要かと思います。

ビジネスパーソンが特に注意したい暑さの場面

熱中症や暑さによる不調は、屋外で働く人や、外回りの営業職だけの問題ではありません。

デスクワーカー、在宅勤務の方、職場内外の移動が多い管理職、イベント運営に関わる方など、多くのビジネスパーソンに関係します。

1)朝の通勤

朝は日中よりは暑くないから大丈夫と思っていても、駅まで歩く、満員電車に乗る、地下から地上に出る、といった移動だけで、体内の熱がうまく放散されず、深部体温が上昇しやすくなることがあります。

特に、睡眠不足の日、朝食を食べられずに出勤したとき、飲酒をした次の日、体調が優れない日は注意が必要です。朝の時点でコンディションが整っていないと、熱中症になるリスクが高まるとともに、午前中から集中力や仕事の生産性が低下しやすくなります。

2)外回り・営業移動

外回りや営業移動はもちろん、夏の暑い日では短時間の移動でも日差しを浴びる回数が増えます。

商談前に汗をかきたくないからと水分補給を控えたり、予定を詰め込みすぎて涼しい場所で休む時間がなかったりすると、体への負担は大きくなります。

外回り後の会議や資料作成でミスが増える場合、単に疲れているだけでなく、暑さによる集中力低下が関係しているかもしれません。

3)倉庫・工場・屋外イベント

倉庫や工場、建設現場、屋外イベントでは、気温だけでなく、湿度、風通し、照り返し、作業服、ヘルメットなどによって、体内の熱が体外へ放出されずらくなり、体への負担につながります。

ちょっとした汗でも手元が滑ってしまう、足がもつれたりつまづく回数が増える(=足元への注意が落ちる)、周囲への声かけが減る、といった小さな変化が、普段なら起こり得ないような事故につながってしまうこともあります。

4)デスクワーク・在宅勤務

夏の暑い日は、たとえずっと室内にいる方も油断はできません。

窓際の席、パソコンや機器が多い場所、冷房の風が届きにくい場所では、自分が思っている以上に暑くなったり、知らずのうちに汗をかいていて脱水になってしまうこともあります。

在宅勤務では、電気代を気にして冷房を控えたり、作業に集中して水分補給を忘れたりといったこともよく起こります。

「室内だから大丈夫」ではなく、室温や湿度はぜひ温湿度計のようなもので管理して調整しましょう。また、水分補給もこまめに意識して摂ることが大切です。

なぜ暑いとミスや事故が増えやすいのか

暑い環境では、体は体温を下げるために汗をかいたり、皮膚に血液を集めて熱を体外に放出しやすくします。これは体を守るための大切な反応です。

しかし、その状態が長く続くと、体には負担がかかります。

例えば、汗をたくさんかくと、体の水分や塩分が失われます。軽い脱水でも、頭がぼーっとしたり、だるさを感じたり、集中力が続きにくくなることがあります。

CheuvrontとKenefickらによる研究3では、体重の1〜2%ほどの水分が失われた段階から、持久力や集中し続ける力が少しずつ落ちてくることが報告されています。

夏の業務では、「今日はなんだか集中が続かないな」という感覚の裏側に、こうした軽い脱水が隠れている可能性もあるのです。

また、暑さによる疲労感が強くなると、普段なら気づくことができるちょっとした段差、周囲の人の動き、書類の数字、メールの誤字などを見落としやすくなります。

実際に、アメリカの大学生を対象とした研究4では、猛暑の時期に「エアコンなしの学生寮」で過ごしたグループは、「エアコンありの寮」の学生に比べて、朝の注意力テストや計算課題の成績の悪化、反応時間の遅延など、認知パフォーマンスの低下が報告されています。

さらに、暑い日は「早く終わらせたい」「涼しい場所に戻りたい」という気持ちも出やすくなります。その結果、確認作業を省いたり、休憩を後回しにしたりして、ミスや事故のリスクが高まることがあります。

暑さ対策は、単なる体調管理ではありません。仕事の判断力、集中力、安全行動を守るためのワークコンディショニングなのです。

今日からできる暑さによるミス・ケガ対策5選

ここからは、忙しいビジネスパーソンでも取り入れやすい暑さ対策を紹介します。

1)朝の時点で「暑さ指数」を確認する

天気予報で気温だけを見る方は多いと思いますが、熱中症対策では「暑さ指数(WBGT)」も確認したいポイントです。

暑さ指数は、気温だけでなく、湿度、日差し、地面や建物からの熱などを含めた暑さの目安です5

暑さ指数が高い日は、外回りの順番を変える、移動時間に余裕を持つ、日陰の多いルートを選ぶ、屋外作業の時間帯をずらすなど、予定の立て方を少し変えるだけでも体への負担を減らすことができます。

暑さ指数は、環境省の熱中症予防情報サイト(https://www.wbgt.env.go.jp/)が毎日更新しています。こちらでチェックすると良いでしょう。

更に暑さ指数について詳しく知りたい方は、熱中症ドットコム「熱中症を予防するために運動前に暑さ指数(WBGT値)を調べよう」の記事がオススメですのでぜひお読みください。

2)外回りや現場作業は「詰め込みすぎない」

暑い日は、同じ仕事量でも体への負担が大きくなります。

外回りの予定を連続で入れすぎたり、屋外作業の休憩を後回しにしたりすると、午後の集中力や判断力が落ちやすくなります。

おすすめは、その日のスケジュールをみながら「涼しい場所で休む時間」をあらかじめ考慮に入れておくことです。

例えば、訪問と訪問の間に商業施設に少しだけ入って涼んだり、10分だけでもカフェに入ってゆったりしたり、屋外作業の前後に少しでも冷房の効いた場所へ戻ることをルーティンにしたり、外から帰ってきてすぐに会議を入れないなど、ちょっとした工夫が、自身の体調を守るとともに、仕事の生産性の維持にもつながります。

3)水分補給は「のどが渇く前」に行う

仕事中は、集中しているほど水分補給を忘れてしまいます。みなさんも「気づいたらもうこんな時間か!」となったことがあるかと思います。

おすすめは、「会議の前や後」「メールを一通りチェック・送り終えた後」「外出前・帰社後」「トイレに立った後」など、すでにある行動と水分補給をセットにすることです。

タンブラーのようなものを携帯したり、ペットボトルを持ち歩いて、飲みたい時にすぐ飲めるように準備しておきましょう。

汗を多くかく日は、水分だけでなく塩分も意識する必要があります。ただし、高血圧や腎臓病などで塩分制限を受けている方は、医師の指示に従ってください。

4)暑い日は「確認作業」をこまめに行う

暑さで集中力が落ちているときほど、「早く終わらせて休憩したい」「めんどくさいしきっと大丈夫だから進めよう」などと、確認作業を省きたくなります。

しかし、暑い日こそチェックリストに従うことや、ダブルチェックが役立ちます。

例えば、次のような工夫が考えられます。

  • 外回り後の重要メールは、送信前に一度席を立ってから、改めて見直す
  • 数字の確認は、暑さや疲れが強い時間帯を避ける
  • 現場作業では、休憩後に声かけと作業手順を再確認する
  • 運転前に水分補給と体調確認を行う

「暑い日はミスが増えやすい」と最初から知っておくことで、事故やトラブルを未然に防ぎやすくなります。

5)睡眠不足・朝食抜きの日は決して無理をしない

暑さへの強さは、その日の体調に大きく左右されます。

睡眠不足、朝食抜き、二日酔い、発熱、下痢、強い疲労感がある日は、いつもより暑さに弱くなっている可能性があります。

こうした日は、外回りを減らす、移動時間に余裕を持つ、屋外作業を短くする、早めに休憩するなど、予定を少し軽くすることが大切です。

まず重要なのは「自分は大丈夫」と決して思いこまないこと。「気合いで乗り切る」のではなく、「今日は体の余裕が少ない」と判断して、いつも以上に水分補給や休憩、食事、仕事量の調整を行えることは、現代のビジネスパーソンにとって必須のセルフマネジメントです。

職場で取り入れたい熱中症・安全対策

暑さ対策は、もちろん個人での生活習慣の改善等の努力は重要ですが、個人の努力 “だけ” では限界があります。

職場を管理するような立場の方は、職場として、従業員の暑さによる体調不良やミスを防ぐ仕組みを作っていくことも重要です。

例えば、次のような対策は取り入れやすいでしょう。

  • 朝礼やチャットで暑さ指数を共有する
  • 外回りや屋外作業の時間帯を調整する
  • 冷たい飲み物や塩分を補給できるものを用意する
  • 屋外イベントでは、日陰・冷房スペース・冷却タオルを準備する
  • 体調不良を感じたとき言いやすい雰囲気をつくる
  • 暑い日の作業は、チェックリストや声かけを増やす
  • 新入社員や暑さに慣れていない人には、作業量を段階的に増やす

特に大切なのは、「我慢しないこと」を職場の共通ルールにすることです。「休むこと」に罪悪感を感じないような雰囲気を作ることが大切です。

また、暑さによる不調は本人が気づきにくいこともあります。顔色が悪い、汗のかき方がいつもと違う、会話の反応が鈍い、足元がふらつく、いつもよりミスが多い。こうした変化に周囲が気づけるだけでも、早めの対応につながります。

暑さ対策を個人の努力に任せず、「暑さ対策=仕事の生産性管理」と考えることが、これからの職場には必要でしょう。

まとめ

今回紹介した研究では「暑い日に仕事中のケガや病気の申請が増える傾向」が示されました。

暑さの影響は、いわゆる頭痛や吐き気、倦怠感といった、熱中症といえばで思い出されるような症状だけではありません。

疲労感、集中力低下、判断の遅れ、手元や足元のミスなどを通じて、仕事中のケガや事故にもつながる可能性があります。

ビジネスパーソンにとって、暑さ対策は「夏を乗り切るための体調管理」であり、「仕事の質と安全を守るためのコンディショニング」でもあります。

暑い日に無理をしないことは、仕事への意識が低いということではありません。自分の体調、周囲の安全、仕事のパフォーマンスを守るための大切な判断です。

今年の夏は、「熱中症にならない」だけでなく、「暑さでミスやケガを増やさない」ことも意識して、日々の働き方を整えていきましょう。

参考文献・資料

  1. Ireland A, Johnston D, Knott R. Heat and worker health. J Health Econ. 2023;91:102800. doi:10.1016/j.jhealeco.2023.102800
  2. Spector JT, Krenz J, Rauser E, Bonauto D. A case-crossover study of heat exposure and injury risk among outdoor agricultural workers. Am J Ind Med. 2016;59(3)
  3. Cheuvront SN, Kenefick RW. Dehydration: Physiology, assessment, and performance effects. Compr Physiol. 2014;4(1):257-285.
  4. Cedeño Laurent JG, Williams A, Oulhote Y, Zanobetti A, Allen JG, Spengler JD. Reduced cognitive function during a heat wave among residents of non–air-conditioned buildings: An observational study of young adults in the summer of 2016. PLoS Med. 2018;15(7):e1002605.
  5. 環境省. 暑さ指数とは? 熱中症予防情報サイト. Accessed June 14, 2026. https://www.wbgt.env.go.jp/wbgt.php
  6. National Institute for Occupational Safety and Health. Heat stress and workers. Centers for Disease Control and Prevention. Updated March 3, 2026. Accessed June 14, 2026. https://www.cdc.gov/niosh/heat-stress/about/index.html
  7. National Institute for Occupational Safety and Health. Workplace recommendations. Centers for Disease Control and Prevention. Updated March 3, 2026. Accessed June 14, 2026. https://www.cdc.gov/niosh/heat-stress/recommendations/index.html
  8. 環境省. 普及啓発資料のダウンロード:学校における熱中症対策ガイドライン作成の手引き. Accessed June 14, 2026. https://www.wbgt.env.go.jp/heatillness_pr.php