「熱中症になりやすい人」って、どんな人かご存知ですか?
同じ場所で、同じような活動をしていても、ある人は熱中症になってしまい、ある人は熱中症にならずに元気に活動を続けられる。この違いって何だと思いますか?
どんな人が熱中症になりやすいのかを知っていると、自分が熱中症にならないように予防や早めの対策ができますし、周りの人(家族、会社の同僚、スポーツチームのメンバーなど)で熱中症になりやすい人がいれば、注意深く観察したり早めの声掛けができて、重大な熱中症の事故を未然に防ぐことが可能になります。
本記事では、どんな人が熱中症になりやすいのかの解説とともに、熱中症になりやすい人が行うべき熱中症予防対策を厳選して3つお伝えします。
熱中症になりやすい人ってどんな人?
熱中症になりやすい人というのは、上の表に挙げられている「熱中症を引き起こす要因」をたくさん持っている人、となります1。
より多くの項目に当てはまる人ほど、熱中症になるリスクは高くなる、と言うことができます。
Aくんは熱中症になって、Bくんは熱中症にならないワケ
「より多くの項目に当てはまる人ほど熱中症リスクは高くなる」を具体的に示すと、上のようになります。
AくんとBくんは同じ野球チームのメンバーで、同じ場所で練習を行っているため、「環境」については2人とも同じ数の熱中症リスク要因を持っています。
しかし、「カラダ」の面で見てみると、Bくんは熱中症リスク要因を1つも持っていませんが、Aくんは「肥満気味」であり、更に前日寝るのが遅くて「睡眠不足」でもある、という2つのリスク要因を持っています。
更にAくんのポジションはキャッチャーのため、防具をつけている時間が長く、これも熱中症リスク要因の1つとなります。
合計すると、Aくんは7個のリスク要因、Bくんは4個のリスク要因を持っていることになるため、この2人を比べるとAくんの方が、この日熱中症になるリスクがより高い、と言うことができます。
熱中症リスク要因を減らす対策をして熱中症を予防しよう!
「熱中症になりやすい人=熱中症リスク要因をたくさん持っている人」と考えると、熱中症にならないように予防するためには、熱中症リスク要因を減らせば良いということができます。
ここからは、いくつかの熱中症リスク要因をピックアップして、熱中症予防のための対策方法をお伝えします。
1)睡眠不足
前の日に睡眠時間が短くて睡眠不足の状態であると、熱中症になるリスクは上がります。
また、睡眠不足というのは蓄積するため(=累積睡眠量の不足)、数日かけてずっと睡眠が不足している状態であると、更に熱中症リスクは上がってしまいます。
更に、長期的な睡眠不足は肥満や体調不良、脱水、体温調節機能の低下など、他の熱中症リスク要因を生むことにもなってしまうため、特に暑い夏の期間は、しっかりと睡眠時間を確保する生活を送ることが、熱中症の予防につながります。
どれくらいの睡眠時間を確保すべき?
National Sleep Foundation(国立睡眠財団)は、各年代の推奨睡眠時間を以下のように示しています2。
- 新生児(0〜3ヶ月):14〜17時間
- 乳児(4〜11ヶ月):12〜15時間
- 幼児(1〜2歳):12〜14時間
- 未就学児(3〜5歳):10〜13時間
- 小学生(6〜13歳):9〜11時間
- 中高生(14〜17歳):8〜10時間
- 若年成人(18〜25歳):7〜9時間
- 成人(26〜64歳):7〜9時間
- 高齢者(65歳以上):7〜8時間
上記した睡眠時間を確保できていない方は、「睡眠不足」の熱中症リスク要因を持つことになります。睡眠時間を確保できるように、1日のスケジュールを見直してみましょう。
睡眠時間を増やすカギは「早く起きる」こと
よく「早寝早起き」と言いますよね?この言い方だと「早く寝て、早く起きる」ということになるかと思いますが、実はこれは逆で「早く起きると、早く寝られる」が正しいと言えます。
睡眠ホルモンとも呼ばれる「メラトニン」という物質は、太陽の光を浴びると、その光の刺激によって分泌が止まり、体は覚醒して活動モードとなります。
メラトニンの分泌が止まると覚醒モードになり、分泌が始まると睡眠モードになるのですが、メラトニンは「分泌が止まってから約15時間後に再び分泌が始まる」という性質があります。
例えば朝7時に起きてすぐに太陽の光を浴びると、その15時間後である22時に再びメラトニンの分泌が始まって、眠くなってきます。
早く起きること、そしてその起床時間を固定して、起きたらすぐに太陽の光を浴びることで、毎日夜の早い時間、そして同じような時間に眠くなり、たっぷりと睡眠時間をとることができるようになります。
睡眠時間を確保するためには「寝付きの良さ」も重要です。寝付きを良くする方法については「寝付きが悪い人必読!寝付きが良くなる6つの入眠スイッチ」の記事で詳しく解説しておりますので、ぜひこちらもお読みください。
2)脱水状態
水分の補給量が足りなかったり、下痢や風邪といった体調不良でも脱水は起こります。
体温を下げる上で非常に重要な役割を果たす「汗をかく」という行為は、脱水状態であるとうまくいきません。汗も体内の水分を使ってかきますからね。
1日を通してこまめに水分を補給して、常に体内に充分な水分が満たされている状態を作りましょう。
脱水しているかしていないかは「おしっこの色」でチェックする
多くの研究によって、尿の色を確認することで、自分の体は今水分が充分に満たされているのか、脱水状態なのか、を知ることができると示されています3。
トイレに行ったとき、尿の色が上に示した「おしっこの色確認シート」の5以上(5〜8)の色であった場合、体重の2%以上の水分が失われていると推測できます。
体重の2%の水分が体内から失われてしまうと、以下のような能力の低下が起こります。
- 運動・スポーツパフォーマンスの低下
- 体内の熱を体外に放散する能力(=体温調節機能)の低下
- 気持ちがネガティブになる / モチベーションが下がる
- すぐ疲れてしまう / 疲れた状態からなかなか回復できなくなる
- 脳機能の低下(集中力・判断力・思考力などの低下)
脱水状態は熱中症リスクを上げるとともに、脳、身体、メンタルにも悪影響を引き起こします。
おしっこの色が「透明〜薄い黄色」ではなく「濃い黄色〜茶色気味」であったら、すぐに水分を補給するようにしましょう。
夏は意識的に多めに飲水するべき
ヒトには「口腔咽頭反射(こうくういんとうはんしゃ)」という性質があります4。
これは「水を飲み込むと口渇感が抑制される」というもの。つまり「のどが渇いた」と感じて水分を補給しても、その口渇感は少量の飲水で満たされてしまいます(=少量の飲水で「のどが潤った」と感じる)。
もう少しわかりやすく言い換えてみると、水分を補給して「のどの渇きが満たされた」と感じても、それは「充分な量の水分を補給できた」わけではなく、この口腔咽頭反射によって口渇感がなくなっただけである、ということです。
特に脱水になりやすい夏は、この口腔咽頭反射に惑わされないように、のどの渇きが潤った!と感じてからもう一口、二口多めに飲むことで、しっかりと体内に必要な水分が補給されます。
3)暑さに慣れていない
急に気温が上がった日や梅雨明けなどは、特に熱中症になりやすい時期です。
なぜなりやすいかというと、身体が暑さにまだ慣れておらず、体温が上がりやすい(=体温調節機能がまだ追いつかずに、上がった体温を下げるスピードが遅い)からです。
暑熱馴化を行うことで身体は徐々に暑さに慣れていき、汗を上手にかけるようになったり、暑さという感覚に慣れて疲れにくくなる、といった変化が起こるようになりますが、暑熱馴化には10〜14日間ほどかかると言われています。
よって、まだ暑さになれていない時期は、積極的に身体を冷やす行動をとって、自力で体温を下げていく必要があります。
冷たい水分を飲む
「身体を冷やす」というと、多くの方は「氷を体に当てる」などの “体の外側” から冷やすことを考えますが、冷たい水分を補給することで ”体の内側” から冷やすことが可能です。
環境省による熱中症環境保健マニュアル2022によれば、水分補給に使用する飲み物の温度を「5〜15℃」にすると冷却効果が高く、水分の体内への吸収も早い、ということが示されています1。
こまめな水分補給を冷たい飲み物で行うことで、脱水を防ぐとともに体温上昇も防ぐことが可能になります。
ただし、冷たい飲み物は上記した「口腔咽頭反射」が起きやすく、少量の補給ですぐに喉の乾きが潤った感覚になるため、意識的に多めに飲むようにする必要があります。
手の平を冷やす
手の平には「AVA血管」と呼ばれる、体温調節をメインに行うという特殊な血管があります5。
よって、このAVA血管が存在する手の平を冷やすことで、他の部位を冷やすよりも効果的に体温を下げることができる、もしくは体温の上昇を防ぐことができる、と言うことができます。
凍ったペットボトルなどの冷たいものを手で持ったり、手を洗うついでに少し長めに流水に手をあてておくといったことで、日常生活の中でも比較的簡単に手の平は冷やすことが可能かと思います。
まとめ
以上、熱中症になりやすい人ってどんな人?という話から、熱中症を引き起こす要因の中から「睡眠不足」「脱水状態」「暑さに慣れていない」の3つを取り上げて、具体的にどのようにそのリスクを解消するべきかについて解説しました。
「熱中症を予防する=熱中症リスク要因を減らす」と考えると、どう熱中症を予防すれば良いのかが少しわかりやすくなるのではないかなと思います。
日本でこれからも生活をしていく方は、毎年夏の「熱中症予防」は避けては通れません。
ぜひ、熱中症にならずに快適で楽しい夏を過ごせるように、熱中症予防や熱中症対策を日々の生活の中に取り入れていきましょう。
参考文献・資料
- 環境省熱中症予防情報サイト 熱中症環境保健マニュアル 2022. https://www.wbgt.env.go.jp/heatillness_manual.php
- Hirshkowitz M, Whiton K, Albert SM, et al. National Sleep Foundation’s updated sleep duration recommendations: final report. Sleep Health. 2015;1(4):233-243. doi:10.1016/j.sleh.2015.10.004
- McKenzie AL, Muñoz CX, Armstrong LE. Accuracy of Urine Color to Detect Equal to or Greater Than 2% Body Mass Loss in Men. J Athl Train. 2015;50(12):1306-1309. doi:10.4085/1062-6050-51.1.03
- 永島計. 体温の「なぜ?」がわかる生理学.; 2021.
- 塚越小枝子. 手足の冷えのカギ握る「AVA血管」、調節のコツは?. 日経Gooday(グッデイ). Published December 8, 2017. Accessed June 11, 2023. https://gooday.nikkei.co.jp/atcl/report/14/091100031/120400531