日常生活において、ほとんどの人は「歩く」という身体活動を “無意識” で行っているかと思います。
「目指せ1日1万歩!」と、健康のためにたくさん歩いているという方は多いかと思いますが、健康に良いのは“正しい歩き方”でたくさん歩いた場合であり、間違った歩き方でたくさん歩くことは、逆に体に不調をきたしてしまう可能性があります。
正しい歩き方を理解して、正しいウォーキング姿勢をマスターすることで、健康維持や身体機能の向上、姿勢改善、関節や筋肉への負担軽減などにつながるのはもちろんのこと、脳機能の向上やメンタルヘルスの改善も期待できます。
本記事では、「正しい歩き方」を6つのポイントに分けて詳しく解説します。
正しい歩き方を身につけてウォーキングを行なって、より健康的で活動的な生活を送っていきましょう!
正しい歩き方6つのポイント
膝が痛い、腰が痛い、坂を歩くとすぐに息切れする、疲れやすいなど、多くの人が抱える不調や悩みは、もしかすると間違った歩き方やウォーキング姿勢の乱れが原因である可能性があります。
ここから紹介する正しい歩き方の6つのポイントを意識して歩くことで、あなたの長年の悩みが解決するかもしれません。ぜひ、まずは1つだけでも良いので実践してみてください。
1)背すじをまっすぐ伸ばす
背中が丸まって前かがみになっていたり(いわゆる猫背姿勢や巻き肩)、反り腰になっていたり、お腹が前に出たような姿勢での歩行は、脚をスムーズに前に運ぶことができず、どこかの関節に過度に負担がかかったり、足を引きずるような歩き方となって転倒リスクが上がってしまう場合もあります。
また、猫背姿勢での歩行は、肺を圧迫したまま歩くことになるため、呼吸が浅くなりやすく、すぐに疲れてしまったり、すぐに息切れしてしまうといった状態になりやすくなります。
正しい歩き方でウォーキングを行うためには、まず「正しい立ち姿勢」を作ることが重要になります。正しい立ち姿勢を作るうえでのポイントは以下の3つです。
- 首を長くするイメージで顎を軽く引く。
- 肩をストンと下に落とし、軽く胸を張って、お腹を少し凹ませるようにして引き締める。
- 膝を軽くゆるめて(=ピンと伸ばさない)、足裏全体に体重を乗せる。
3つのポイントを意識した上で、リラックスして立ってみてください。横から見たときに「耳」「肩」「骨盤」「外くるぶしやや前方」が一直線上に並んでいたら、正しい立ち姿勢と言えます。
耳よりも肩が前方に出ている姿勢は一般的に「巻き肩」、肩よりも耳が前に出ている姿勢は一般的に「猫背」と呼ばれます。
2)足は前に置くようにして出す
歩くときは「かかとから着地しましょう」とよく言われます。聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
かかとから着地するのは正しい歩き方なのですが、あまりにもかかとから着地することを意識しすぎると、逆に「つま先をピンと持ち上げすぎてしまう」ということが発生します。
つま先をピンと持ち上げると、必要以上に膝が伸び切ってしまい、足が着地した際に膝への負荷が増してしまったり、前ももを使いすぎてしまいます。
長時間歩くと膝が痛くなる、前ももやスネがいつも張っている、ももが太くて気になっている、といった症状に当てはまるという方は、もしかすると歩行の際にかかと着地を意識しすぎてしまっていて、つま先をグッとスネ側に引き付けすぎている可能性があります。
歩行の際に前に振り出した足は、特に何も意識をしなくても自然とかかとから着地していきますので、歩行中はつま先やかかとは特に意識せず、前に置くようにして出すだけで充分です。
つま先(=足の人差し指)と膝がまっすぐ前を向くようにして、足を前に置くようにして出して歩くことで、膝も伸び切ることなくゆるやかに曲がった状態となるため、膝への負担が減り、前ももが過度に働くこともなくなるため、膝の痛みや前ももの張りが軽減する可能性があります。
3)5センチ幅の線の外側を歩く
ファッションショーなどでのモデルさんの歩き方を見ると、1本の線上を歩くような、いわゆる「モデルウォーク」と呼ばれる、足を前方でクロスさせるような歩き方をしています。
脚が長く見えたり、キレイな歩き方に見えるため、このモデルウォークが正しい歩き方と思っている方も多いようですが、これは間違いです。
モデルウォークは、そのモデルさんが着用している服や、モデルさん自身のスタイルがキレイに見えるように魅せる歩き方であり、これは一種の「振り付け」とも言えます。
綱渡りのような、一本の線上を歩くような歩き方は、腰をひねって脚をクロスさせるように足を出す必要があるため、骨盤が必要以上に左右にブレて、股関節や太もも、腰に大きな負担がかかります。
正しい歩き方は「5センチ幅の先の外側に、足の内側が触れるように歩く」という歩き方です。
左右の足の間に5センチ程度のスペースができるような足の出し方をすると、腰をひねる必要がなく、骨盤も左右にブレずに歩くことができるため、どこかの関節や筋肉に過度な負担をかけることなく、ラクに歩行を行うことができます。
4)”大股でグングン”ではなく”小股でスタスタ”
日本運動健康長寿研究所によれば、高血圧や糖尿病、メタボといった生活習慣病の改善・予防のためには「1日8000歩、そのうち速歩きを20分」のウォーキングが推奨されることを示しています1。
この「速歩き」を行う際、「大股で歩く」ことで普段よりも速いスピードにしている方がいらっしゃるかもしれませんが、これは体に負担のかかる歩き方となります。
大股での歩行や速歩きは、モデルウォークと同様に「腰をひねる」歩行になるため、腰や太ももへの負担が増してしまいます。
また、大股での歩行を行うと、足を前に着いた際に、前もも外側に体重がかかる着地となりやすいため、脚が太くなりやすい(脚に必要以上に筋肉がついてしまう)歩き方とも言えます。
よって、ウォーキングや速歩きで歩く際は大股でグングンと歩くのではなく、小股でスタスタと歩くようにしましょう。
ストライド(=歩幅)を広げるのではなく、ピッチ(=脚の回転数)を意識して、テンポ良く歩くようにすると、身体に負担をかけずに強度の高いウォーキング、速歩きを行うことができます。
5)後ろ足の親指でまっすぐ地面を押して進む
1)で紹介したように、足をリラックスした状態で前に置くようにして出すと、「かかとやや外側」で地面に着地することになります。
その後、前に出した足に体重が乗って前に進み、最後は後ろに蹴り出していくことになりますが、この一連の動きの中での「正しい重心移動」は以下のような順番になります。
- かかとやや外側
- 外側アーチ
- 足部前側の横アーチ
- 親指付け根〜親指
「重心移動の経路」のイラストで示しているような軌道で重心が移動し、最後は親指の付け根でしっかりと地面を押して、お尻の筋肉を使って骨盤を前に押し出すようにして前に進んでいくのが、正しい歩き方となります。
特に、最後蹴り出す際に「親指付け根でまっすぐ後ろに蹴り出す」ことを意識して、蹴り出した後、つま先が真下を向くように蹴り出すことができると、しっかりと地面を押した力が伝わって、力強くパワーのロスがない効率的なウォーキングとなっていきます。
6)腕は大きく振らない
ウォーキングを行うときに「腕は大きく前後に振りましょう」と言われたことがある方がいらっしゃるかもしれませんが、腕は大きく振りすぎると、身体に負担のかかる歩き方になってしまいます。
腕を大きく振りすぎると、上半身に過度なねじれが発生するため、足の着地が不安定になったり、脚への負担が大きくなってしまいます。
腕は、特に意識せずとも、歩いていると自然に前後に振られるかと思います。この「自然な腕の振り」によって体幹の安定が生まれるため、大きな腕振りは逆に体幹を不安定にしてしまい、バランスを崩しやすくしてしまう可能性があります。
足を前に出す際のかかと着地を意識しすぎないのと同じように、腕振りも意識しすぎず、上半身はリラックスさせて歩いていきましょう。
ウォーキングで脳とメンタルも鍛えられる
正しい歩き方を身につけて、身体に負担の少ない効率的なウォーキングができるようになると、生活習慣病の改善・予防や健康増進といった「身体」へのメリットはもちろんのこと、脳の活性化やメンタルヘルスの向上にもつながることがわかっています。
1)ウォーキングは創造性(クリエイティビティ)を高める
アメリカ・スタンフォード大学が2014年に行った研究2によれば、トレッドミルの上を歩きながら創造性を測るテストを受けたグループは、座ったままテストを受けたグループと比較して81%もスコアが高かった、ということを報告しています。
「創造力を生み出す「ウォーキングミーティング」とは?」の記事でも紹介していますが、スティーブ・ジョブズやマーク・ザッカーバーグ、ジャック・ドーシーなどは、歩きながら打ち合わせを行う「ウォーキングミーティング」を好んで行ったと言われています。
「ながら歩き」は転倒リスクを高めるため、安全で広い場所を選ぶことが大切ですが、歩きながら何かを考えることで、クリエイティブな発想が生まれやすくなります。
デスク前で座ったままなかなか良いアイデアが浮かばないというときは、ぜひ立ち上がって歩いてみましょう!
2)ウォーキングでうつ病を予防する
2018年にノルウェーで行われた大規模な調査3によれば、毎週1時間の軽い運動(=1日約9分)によって、新たに発生するうつ病のうちの少なくとも12%を予防できた可能性がある、ということを示しています。
日本でうつ病やうつ状態にある人の数は、全人口の17.3%(約6人に1人)にものぼると言われ4、決して自分には関係のない病気とは言えません。
うつ病やうつ状態に対する運動での予防効果は、運動の強度は関係なかったと報告があるため、正しい歩き方での1日10分程度の散歩やウォーキングで、メンタルヘルスの向上が期待できます。
まとめ
正しい歩き方を6つのポイントに分けて詳しく解説しました。
正しい歩き方でのウォーキングは、脳にも身体にもメンタルにもたくさん良い影響を与えてくれます。
健康に良いとたくさん歩いて、怪我をしたり不調になってしまってはもったいないので、ぜひ正しい歩き方を身につけて、楽しく元気に活力溢れる生活を送っていきましょう!
参考文献・資料
- 中之条研究 | 株式会社健康長寿研究所. kenju-jp.com. Accessed May 10, 2024. http://kenju-jp.com/nsystem/
- Oppezzo M, Schwartz DL. Give your ideas some legs: the positive effect of walking on creative thinking. J Exp Psychol Learn Mem Cogn. 2014;40(4):1142-1152.
- Harvey SB, Øverland S, Hatch SL, Wessely S, Mykletun A, Hotopf M. Exercise and the Prevention of Depression: Results of the HUNT Cohort Study. Am J Psychiatry. 2018;175(1):28-36. doi:10.1176/appi.ajp.2017.16111223
- Health at a Glance 2021: Highlights for Japan (oecd.org)