新型コロナウイルス感染症の流行により、在宅勤務も増え、会食や旅行なども控える自粛生活が続いています。それらは、私たちの脳にどんな影響を与えているのでしょうか。

このインタビューでは、脳科学者として多方面で活躍されている諏訪東京理科大学 篠原菊紀教授に、今私たちの脳内に迫っている危機、そして回避方法、また、リモートワークに活かせる脳の使い方について教えていただきました。


前回までの記事はコチラ
【脳科学者インタビュー/第1回】コロナ禍で脳に迫る危機


編集部:
リモートワークが定着してきましたが、自宅で仕事をしていると、なかなか生産性が上がらないという声も聞かれます。何か対策はありますか?

篠原教授:
コロナウイルス感染症流行前は、職空間に移動することで生活から切り離して仕事をすることができました。リモートワークでは、住環境と職空間が一緒になってしまい、仕事に生活が入り込んできていることで生産性が落ちてしまうのです。
その対策としては、ToDoリストを作ることをおすすめします。

編集部:
ToDoリストにはどんな効果がありますか?

篠原教授:
脳には、ワーキングメモリという作業に必要な情報を一時的に保存するメモ帳が存在しています。やることがたくさんあると、やることを思い出すためにメモ帳を使ってしまっています。一度に使えるメモはそれほど多くありません。ToDoリストを使うことで脳のワーキングメモリの負担を軽減することができます。

編集部:
ToDoリストは、通常の仕事でも作ることがありますが、それとは違うのでしょうか?

篠原教授:
生活と仕事が切り離されていた時は、「仕事」のToDoリストをつくればよかったはずです。リモートワークでは、仕事に家事などの生活が割り込んでくることで混乱し、そこでワーキングメモリを使うことになってしまいます。「生活」「仕事」と分けずに、時系列のToDoメモをつくったほうがいいでしょう。

編集部:
リモートワークでは、相手の状況が見えないがゆえに、急にチャットで話しかけられることがあります。仕事が中断してしまい、なかなか効率が上がらないと感じます。それに関する対策はありますか?

篠原教授:
一度に脳のメモが使えるのはいいところ3枚まで。単純作業ならいいのですが、クリエイティブな仕事をするときは、脳のメモ3枚を全部使わないと多面的に考えることができません。
だから、クリエイティブな仕事をするときは、オンラインを切り、隔離するような環境をつくることが必要です。脳のメモを空けて取り組むことが大切です。

急に入ってきた仕事に対しては対応が大雑把になりますし、脳のメモがいっぱいになっているのでギブアップしてしまいます。できるだけ邪魔が入らないように仕事をするのが良いです。

編集部:
自宅で仕事をしていると、集中したくても子どもが入り込んでくることがあります。これにはどう対応したらいいでしょうか?

篠原教授:
それは受け入れるしかありません。脳のメモがいつもは3枚使えるのに、今はその半分しか使えないと思って対応する。いつも通りに仕事をすることにこだわっていたら、イライラするだけです。普段と同じにできない自分を責めるよりも、できないことを受け入れたほうがいいと思います。

編集部:
具体的にはどう仕事をすればいいのでしょうか?

篠原教授:
たとえば、子どもが騒いでいるなら、単純作業にしぼったり、ななめ読みですむような資料を読む時間にする。しゃべりながらできるレベルのことにしてみるのも方法だと思います。

編集部:
リモートワークでは、なかなかToDoリストの通りにはいかないということですね。

篠原教授
1日のうちで何度でも、リスケジュールをする。予定を見直していけばいいんです。何度も繰り返すうちになんとなく仕事の区分けができるようになります。そうすると、ToDoリストがいらなくなることもあります。

編集部:
自宅で仕事をしていると、集中力がなかなか持続できないとも感じます。一般的に集中力は、どのくらい続くものなのでしょうか?

篠原教授:
集中力の持続時間については、よく質問されます。しかし、測定方法によって全く異なるため、何とも言えません。
たとえば、時々2秒進む時計があったとします。その時計の秒針を観察していて、2秒進んだ瞬間にボタンを押す。このテストでは、集中力は、よくて1分。それを超えると見逃しが起こります。
クレペリン検査のような数字を足していくテストでも、せいぜい3~7分です。それを超えると成績が下がってきます。
テレビでは、10~15分でCMが入ります。そのあたりが限度です。
もし、30分仕事をするなら、間に何か一つ他のことを入れてみる。もしくは仕事に「起承転結」の構造をつくるなどです。

編集部:
集中力が高いといわれている人がいますが、何かが違うのでしょうか?

篠原教授:
東大生は長時間、高い集中力をもって勉強していると思われている方が多いかもしれません。そんなことはありません。自分で集中力の波がなんとなくわかっていて、集中力が落ちそうになったら、科目を変えるなどの何らかの行動をしています。
将棋棋士の藤井聡太さんも、ずっと集中しているように見えますが、そんなことはありません。どこで、お茶を飲んだり、トイレに立ったり、外を歩くなどの行動をしているかなのです。

3時間勉強するなら、続けて勉強するよりも、1時間ずつ3回にわけて勉強したほうが成績が上がることは繰り返し報告されています。集中学習よりも分散学習の方が効率的なんです。分散の間にはデフォルトモード(なんらかの思考や関心や注意を伴わない、ぼんやりと安静状態にある脳が示す神経活動)が働きます。
学習に関して言えば、間に睡眠を挟むと定着します。
ひたすら集中していれば、パフォーマンスが上がるというのは、概ね嘘です。


(後書き)
今回は、リモートワークで生産性をアップさせるコツを伺いました。ToDoリストの使い方がポイントになりそうです。

3回目は、オンラインの営業のコツやひらめきの生み出し方についてお話を伺います。最後に登場した「デフォルトモード」が、次回の重要なポイントになります。
次回のインタビュー記事もお楽しみに!


篠原菊紀
脳科学者
専門分野は応用健康科学、脳神経科学
公立諏訪東京理科大学 工学部情報応用工学科教授、地域連携研究開発機構 医療介護・健康工学部門長、学生相談室長。

東京大学卒業、東京大学大学院教育学研究科を修了
東京理科大学諏訪短期大学講師、助教授、諏訪東京理科大学共通教育センター教授を経て、現職。
著書多数。テレビ、雑誌などメディアの出演、監修も多く手がけている。