毎日忙しく働く現代のビジネスパーソンの多くは、睡眠に悩みを抱えています。
枕を変えてみたり、良いマットレスを購入してみたり、日中に少し運動をしてみたりなど、なんとか睡眠の質を良くしようと努力されている方も多いでしょう。
そんな中で、毎日必ず行う「食事」が睡眠に与える影響は非常に大きいことがわかっています。
本記事では、具体的にどのような食事や栄養素の摂取が睡眠に良いのか、逆にどのような食事・栄養素が睡眠に悪影響を及ぼすのかをお伝えします。
睡眠を促進する栄養素や食事のタイミング、避けるべき食事のパターンなどを科学的根拠に基づいてお伝えし、あなたの睡眠の質を高めるお手伝いができれば幸いです。
睡眠に良い食事=地中海式食事法
まず大前提として、睡眠に良い食事というのは「栄養バランスが整っている食事」となります。
健康的な食品を積極的に摂取し、不健康な食品を過剰に摂取しないようにすることが、睡眠の質を高めるための基本的な考え方となります。
では具体的に、どのような食事が、栄養バランスが整っている食事と言えるのでしょうか?研究によって、栄養バランスが整っていて睡眠の質を改善することが報告されているのが、「地中海式食事法」と呼ばれる食事スタイルになります。
地中海式食事法で睡眠の質が高まる
地中海式食事法とは、1960年代にギリシャやイタリアで実践されていた食事法を模したものであり、2013年にはユネスコで無形文化遺産として登録されています。
この地中海式食事法を実践することによって、不眠や短眠といった睡眠の問題が改善され、快眠で過ごせるようになるという研究報告があります。
2019年に行われた、イタリア人約2000人を対象とした研究1によれば、普段の食事が地中海式食事法(もしくはそれにかなり近い食生活)であった人たちと、地中海式食事法からかけ離れた食事をしていた人たちを比較したところ、以下のような結果が報告されました。
- 快眠で過ごしている人の割合が多かった
- 寝床に入ったらすぐに眠れる人の割合が多かった
- 日中に眠くならない日数が多かった
この研究では、なぜ地中海式食事法を実践することで睡眠の質が改善するのか、というところまでは報告されていませんが、地中海式食事法は睡眠の質を高めることに加えて、記憶力の向上や、健康に関するポジティブな結果が、多くの研究によって報告されています。
地中海式食事法の具体的なやり方
地中海式食事法は、以下のような食品を中心とした食事法です。
- 野菜:ほうれん草、ケール、ブロッコリー、にんじん、トマト、パプリカ など
- フルーツ:メロン、ぶどう、バナナ、オレンジ、いちご、りんご など
- ナッツ:アーモンド、くるみ、マカデミアナッツ、カシューナッツ など
- 豆類:納豆、味噌、大豆、いんげん豆、ヒヨコ豆 など
- イモ類:じゃがいも、サツマイモ、ヤムイモ など
- 全粒粉:全粒小麦粉、大麦、ライ麦、玄米、ソバ粉、オーツ など
- 魚介類:エビ、イカ、サーモン、イワシ、タラ、カニ、カキ、ハマグリ など
- 鶏肉・卵
- 乳製品:ヨーグルト、チーズ など
上記した食品を積極的に食べることで、特に、睡眠の質を高めると考えられる「食物繊維」や「不飽和脂肪酸」を豊富に摂取することができ、良い睡眠につながります。
味付けは、ハーブ類(ローズマリー、ナツメグ、バジル、にんにくなど)やスパイス、オリーブオイルを使用することが推奨されます。
また逆に、地中海式食事法ではあまり食べない食品も紹介しておきます。
- 赤肉全般:牛肉、豚肉、羊肉 など
- 加工食品全般:ハム、ソーセージ、スナック菓子、アイスクリーム、チョコレート、清涼飲料水 など
- 精製穀物:うどん、パン、パスタ など
- その他:サラダ油、マーガリン
赤肉類はたまに食べるくらいの頻度はOKです。個人的には、赤肉は鉄分や亜鉛といった重要なミネラルが摂取できるため、積極的に摂取していっても問題ないと感じています。
加工食品、精製穀物、その他はできるだけ避けることが望ましいです(パン、パスタは全粒粉であれば食べてOKです)。
睡眠に悪影響を与える食事とは?
睡眠の質に悩む多くの人は、食事の質も悪いことがわかっています。特に睡眠の質に悪影響を及ぼすと考えられているのが「砂糖」「飽和脂肪酸」「加工食品」の3つの摂りすぎです。
2016年にアメリカで行われた研究2によれば、飽和脂肪酸が多く、食物繊維が少ない食事を摂っていると、眠りが浅くなり、深夜に目覚めやすくなることが報告されています。
更に、日中に砂糖(ブドウ糖、果糖、ショ糖、乳糖)を多く摂取していると、夜中に頻繁に目が覚めやすくなることも報告されており、睡眠の質を高めるためには、日中に食べるものにしっかりと気を使って選択することが大切です。
睡眠不足だと食事の質が低下する
睡眠と食事はお互いに関連し合っているため、食べる食事によって睡眠の質が変わると同様に、睡眠不足(量が足りない、質が悪い)だと食事の質が低下していってしまうことがわかっています。
筑波大学が2016年に行った研究3によれば、睡眠が不足すると、たんぱく質やフルーツ、野菜など、いわゆる健康的な食品の摂取が減り、清涼飲料水やデザート、超加工食品などの摂取が増えることを示しています。
睡眠不足になると、脳の快感に関わる部位が、オートミールやフルーツ、野菜といった健康的な食品よりも、ピザやドーナツなどといった糖質や脂質を多く含む食品を見ると活発に活性化されることが報告されており、糖質の摂取が増えることで太りやすくなったり、睡眠の質が低下してしまいます。
睡眠の質を高める朝食と夕食の摂り方
よく眠れる食事術として、「1日を通してどのような食品を摂るべきか」と同様に、「起床後の朝食と就寝前の夕食の摂り方」が重要になります。
よく眠れる食事術①「朝食」
「寝付きが悪い人必見!寝付きが良くなる6つの入眠スイッチ」の記事でもお伝えしていますが、睡眠の質を高める上で重要なポイントの1つが「起床後に日光を浴びること」と「朝食を食べること(胃腸を動かすこと)」になります。
朝食を食べることで体内時計が整うとともに、睡眠中に使われたエネルギーが補給されるため、身体が温まって覚醒が促されます。
朝からしっかりと覚醒状態を作ることで、1日のリズムのメリハリができ、夜にかけて身体のリラックス状態が作られやすくなります。
身体を温めると覚醒につながって脳が目覚めるため、朝食で温かいものを食べる(味噌汁やスープ等の汁もの)ことが推奨されます。
また、「よく噛んで食べる」と、咀嚼筋を支配する三叉神経(さんさしんけい)と呼ばれる神経を刺激して脳を活性化するため、これも覚醒を促します。
ここまでを踏まえて、おすすめの朝食メニューの例は以下の通りです。
- 主食:オートミール、玄米ご飯
- おかず:オムレツ、カリカリベーコン、野菜サラダ、味噌汁、野菜スープ、たくあん
- その他:りんごなどのフルーツ全般、ナッツ入りヨーグルト
数口噛んだだけでは飲み込めないような、ある程度硬めでよく噛まないといけない食品を最低一品、更に一品は温かいスープなどを取り入れると、脳と身体の覚醒が促され、1日の活動を元気にスタートを切ることができるでしょう。
よく眠れる食事術②「夕食」
夕食を考える上でまず重要なのが「夕食を食べるタイミング」です。
夕食を食べた後、時間を空けずにすぐに眠ると、消化のために就寝中に胃腸が活発に働いてしまうため、睡眠の質が下がってしまいます。
よって、夕食は就寝の2〜3時間前までに食べ終わることが、睡眠の質を下げないことにつながります。
そして、夕食で食べるべき食品は「深部体温を下げる食べ物」です。
「寝付きが悪い人必見!寝付きが良くなる6つの入眠スイッチ」の記事では、就寝時の深部体温を下げるために、就寝の90〜120分前に入浴することをご紹介しましたが、夕食で食べる食品を選ぶことでも、深部体温を下げる効果を促進することができます。
地中海式食事法の範囲の中で、深部体温を下げる食品は以下の通りです。
- 夏野菜:トマト、きゅうり、ナス、ピーマン、オクラ など
- 南国フルーツ:バナナ、キウイ、みかん、パイナップル、マンゴー など
- 飲み物:牛乳、麦茶、白ワイン など
- その他:そば、こんにゃく など
逆に夕食で避けるべき食品は「消化に時間がかかるたんぱく質・脂質(揚げ物など)」や「刺激の強いもの(唐辛子、にんにくなど)」です。
胃腸に負担をかけやすい食品は、消化により時間がかかるため、睡眠の質を低下させてしまいます。
まとめ
睡眠に良い食事と悪い食事、更に具体的に睡眠の質を高める朝食と夕食についてご紹介しました。
地中海式食事法は、睡眠の質を高めるだけでなく、健康にとって多くのメリットがある食事法になるため、本文で例として挙げた食品を含む食事を意識して選択するようにしてみましょう。
自分で食べる食品・食事を意識的に選択して、睡眠の質を高めて、快適な生活を送っていただければと思います。
参考文献・資料
- Godos J, Ferri R, Caraci F, Cosentino FII, Castellano S, Galvano F, et al. Adherence to the Mediterranean Diet is Associated with Better Sleep Quality in Italian Adults. Nutrients. 2019;11(5). doi:10.3390/nu11050976
- St-Onge MP, Roberts A, Shechter A, Choudhury AR. Fiber and Saturated Fat Are Associated with Sleep Arousals and Slow Wave Sleep. J Clin Sleep Med. 2016;12(1):19-24.
- McEown K, Takata Y, Cherasse Y, Nagata N, Aritake K, Lazarus M. Chemogenetic inhibition of the medial prefrontal cortex reverses the effects of REM sleep loss on sucrose consumption. Elife. 2016;5. doi:10.7554/eLife.20269