スポーツ医学は、主としてスポーツ競技の能力向上を目的とする学問分野です。人間の骨格、筋力などの運動機能や、運動する時の呼吸や代謝機能などを科学的に解明し、スポーツを行うことによる身体の変化や健康への影響を様々な分野の専門家が横断的に研究しています。
そのほか、スポーツやトレーニングを医療現場で活用することも、スポーツ医学と呼べるでしょう。
一方、近年では、ケガの治療や病気の回復のために運動を取り入れる「運動療法」が、予防医学やリハビリテーションの現場で取り入れられるようになりました。
これは、スポーツ競技選手に限らず、ビジネスパーソンにも役立つのではと考えられ始めました。
そこで、スポーツ医学に長年関わっていらっしゃる東京明日佳病院院長の渡邊 幹彦先生にお話を伺いました。
前回のインタビュー記事はこちら↓↓
第1回:身体の声、聞こえていますか?
第2回:感じる心、気づける感性が幸せの鍵
自分で考え、見通しが立てられるか
渡邊先生:
僕はスポーツ選手を診ているけど、結局日本中、社会や学校でも同じ事が起きていると感じています。
例えば患者さんが、「良くならないけど、治らないけど、どうしてでしょう」と病院の先生へ言ったりしますが、結局診察している内容だけではだめなのです。毎日2時間リハビリをやっていたとしても、それ以外の時間や、食事や生活全体を改善しないと、やっぱり良くならないですよね。
チームでやるスポーツなら、一人だけじゃなく、みんなが変わらないと、そのチームは変わりませんね。
そこが、スポーツ整形の専門でありながら、いろんな患者さんを見ていく上で、患部だけでなく、心とか、体全体とか、いろんなことについて感じている所です。
編集部:
それはビジネスパーソンの仕事でも同じなのでしょうか?
渡邊先生:
ビジネスパーソンが仕事をする際に営業成績を上げようと、結果を出さなくちゃいけないストレスの中で、どこかで負担・破綻を起こしてしまうというのも、選手が腰を痛める、肩を痛めると同じ理屈だと思っています。
日本では、大人も子供もみんなと一緒にいることで安心したいという面があったり、ヒエラルキーがあったほうが楽というか、学校の先生と生徒だったり、お客さんとサービスする側の関係だったり、立場がはっきりした関係に慣れていて、人と人とのフラットな人間関係に慣れていなかったりします。
だから、上から言われた事をそのまま受け入れるのは得意でも、自分で感じたり考えることをなおざりにしがちなので、自分で見通しを立てたり、判断するのが苦手だったりします。
いい選手やビジネスパーソンは、自分なりの見通しがあるから、結果がでなくても別にいいと言えます。割り切れているから、無理をしない。だから破綻しません。
個をもっと大事にする、多様性を認める社会へ
渡邊先生:
世界で通用する選手は、枠に入らないから扱いづらく、日本では嫌われたりします。だからみんな海外に行きます。日本国内だと、上下関係だとか、いらぬおせっかいだとか、嫌になっちゃいます。それは、平たく言うと、日本は個を大事にしないからなのではと考えています。
編集部:
渡邊先生は選手や働いている人に対して、無理をしている人が多い印象ですか?
渡邊先生:
病院に来る人は、無理しなくてはいけないと思っていて、がんばっているのに、うまくいかないと言う人が多いです。同じ内容をこなしても、こんな事どうってことないと言う人もいる。日本は小さいキャパシティーを認めない傾向があり、画一的な判断基準を優先しがちです。それは、いい所でもあるけど、悪い面でみると、日本の社会の歪みのようにも感じています。
物事を自分で決められないのは、社会そして教育の構造が関係していて、制度不良がおきています。個をもっと大事にし、多様性を認めて、一人一人がよく生きられればいいじゃないかと思います。
(編集後記)
今回で渡邊先生へのインタビューは最終回となります。
働き過ぎ、無理しすぎな人の共通点。そんな中でよりよく生きる為のヒント。とても参考になりました。
今後も、専門家の皆様へのインタビューを企画して参りますので、どうぞお楽しみに!Work conditioning lab 編集部
渡邊 幹彦
東京明日佳病院院長 スポーツ整形外科医
日本整形外科スポーツ医学会評議員、日本臨床スポーツ医学会評議員、日本肘関節学会評議員、2013年WBC日本代表チームドクター
香川医科大学卒業後、昭和大学整形外科に入局し活躍
その後、日本鋼管病院スポーツ整形外科部長、昭和大学客員教授などを歴任し
2013年に東京明日佳病院副院長
2015年に院長へ就任