作業療法士であり、企業に向けた「睡眠・健康」に関するコンサルティング業・講演等でご活躍されている菅原洋平先生へのインタビュー第4回目。今回は、社員の方に睡眠についてのアドバイスをする際の具体的な内容をお伺いしました。
「専門家に聞いた!健康経営に取り組む企業がすべき【睡眠対策】とは?」
- 第1回 健康経営で「睡眠対策」に取り組む際の打ち出し方とは!?
- 第2回 「健康経営」睡眠対策の成功事例をご紹介!
- 第3回 社員の睡眠を守るために!具体的なアドバイス法Part1
- 第4回 夏と冬では睡眠が変わる!?具体的なアドバイス法Part2←今回の記事はこちら
- 第5回 日中の過ごし方が鍵!?気になる睡眠と運動について
編集部:
睡眠の傾向や気を付ける事は、季節によって違いますか?
菅原先生:
季節によって、対策が変わる事ははっきりしています。
夏、日照時間が長く、睡眠時間が短い
冬、日照時間が短くなり、睡眠時間が長い
という特徴があるので、夏は無理に長く寝ようとせず、コンパクトに睡眠をとっていく
深い睡眠をとりづらい季節なので、深い睡眠を作るために上手く放熱を促していきます。
目次
【夏の対策】
- ホットタオルで足の裏を拭き、蒸気の気化熱で放熱を促す
- 帰宅したら枕をひっくり返してエアコンで寝具の熱を取る 等
冬は日照時間が短いので睡眠時間が増えるはずの季節です。
しかし、夜遅くまで電気がついていると生体リズムが崩れるので、冬に欲しているだけの睡眠時間を作る事ができるのか?が結局1年の総睡眠時間を決めているとも言えます。眠れる季節なのであれば、眠れるリズムを冬のうちに作っていくことが大切です。
【冬の対策】
- 足の冷えが起こらないように入浴後足先が出るレッグウォーマー等で足首を保温する
- 起床1時間前に暖房をかけ室温を上げ、起床前から徐々に体温が上がる事を助ける
- 日の出よりも前に起きなければならない時は、人工的なライトに近づくようにする
- 夜を暗く過ごす事で、朝の光が少なくても睡眠―覚醒リズムをキープする
春と秋は、体に負担のかかる「夏と冬の準備」と考えると良いと思います。
私達の脳は日照時間の変化で、季節の変化を感知しています。日が長くなったり短くなったりすると、その約2か月後の気温の上昇や低下を予測して、自律神経や甲状腺ホルモンなどの分泌を高めて体の準備をするのです。
なので、例えば2月末頃から意識的に朝の光を浴びる生活をしていると、夏の高温で体がダメージを受ける季節になっても、副交感神経が優位に働き、効率よくエネルギーを作る体制が整います。
また、8月末位から意識的に朝の光を浴びる生活をしていると、気温が下がり、交感神経の活発な働きによって寝つきが悪くなる寒い季節も、体調を崩さず過ごせるようになってきます。「季節の変わり目に調子をくずしちゃって~仕方ないよね。」といった会話で終わらないで、体に負担がかかりやすい季節の2か月前を意識して、太陽の光を浴びてみましょう。また、2か月前だけにターゲットを絞らなくても、いつもその季節ごとの朝の光を脳に届ける環境が整っていると、脳は常にその2か月後を準備していくわけなので、準備が遅れる事が少なくなります。
夏冬はどちらかというと、その当時の対策 今困っている事にフォーカスし、
春秋は、夏冬に負担がかかる前の準備段階と考えて過ごしてみてはいかがでしょうか。
編集部:
朝の光が脳に影響し、2か月後の体の準備をしている。というのは驚きです。
私は毎年秋になると体調を崩しやすいので、まずは8月末のタイミングに注目してみたいと思います。
先生:
同じ人は毎年同じタイミングで調子を崩します。
秋の季節だと、寒い日と暖かい日が交互にきたりするので、寝具やパジャマの選択が難しくなりますよね。暑すぎたり、寒すぎたり、汗をかいてしまったり。こまめに変えられる物を複数枚用意すると良いでしょう。秋の対策した事で、冬に体調を崩さないという成功体験をしたとすれば、それはそのまま来年の対策になります。ただ、こういった経験はすぐに忘れてしまうので、来年のスケジュールなどに記録しておく事をおすすめします。「毎年この季節は調子が悪いんです」と言うのではなく、「この季節にこういった事をやっていれば調子が良いんです」という風に考え方を変えられると良いですね。
編集部:
個人が睡眠改善の取り組みを継続する為に、何かアドバイスはありますか?
先生:
生体リズムは、1ヶ月・1年と周期があるので、その変化を感じる事が出来ると、睡眠だけでなく仕事のパフォーマンスも上がると思います。ただ「変化を感じるのは難しい・面倒くさい」という方は「感じる」よりも「可視化」する方がやりやすいのではないでしょうか。睡眠の状態と仕事のパフォーマンスの結びつきが可視化できると、睡眠改善の取り組みのモチベーションにもつながります。
例えば、睡眠の状態をノートに記録し、その日のパフォーマンスを10段階でつけていただきます。
「パフォーマンス4と5の差は何ですか?」と聞いてみたりすると、「メールが早く返せた時は5で、返せなかった時が4です」とお話してくださいます。スケール化することは皆さんお好きなので、体調の結果どのようなパフォーマンスが出ているか?をスケール化し、それを睡眠と結び付けてみると、ここでパフォーマンスが高く出たのは、体の周期と関係あるかもしれませんね。とか、こういう睡眠がとれている時は、このあたりのパフォーマンスが良くなるかもしれませんね。みたいな感じで照らし合わせる作業を第三者がサポートします。
自分の仕事のパフォーマンスをどこで見極めるのか?という評価基準を決める事で、最近これができていないな~と思った時に、睡眠を見直せばパフォーマンスが改善する可能性があります。体調はなかなか見直せないけど、パフォーマンスが上がっていないから、睡眠を見直してみよう!というアプローチも結果的には良いのではないでしょうか。
「体調の変化を感じる」方がやりやすい方は、体調+睡眠で記録し、感じるのが苦手な方は パフォーマンス+睡眠で記録する事で、睡眠のリズムが崩れやすい年代になっても自ら対策していけると思います。このように仕事のパフォーマンスと結び付け、ご自身がやりやすい方法で可視化する事で、睡眠改善は習慣化しやすくなると思います。大切なのは「自分の様子をモニターしていく事」です。
編集部:
こういったタイプの違いを理解しておくと、社内で情報を発信したり、セミナー等を企画する際も、相手やグループに合わせて「テーマの選定」や「アプローチの仕方」を変え、より効果的な取り組みが出来るようになりますね。
今回は、季節によって変化する「睡眠アドバイス」と、睡眠改善習慣化のポイントをお伺いしました。
次回(最終回)は
ここまでも出てきた「生体リズム・体温」のリズムを味方につける為の【運動】について、具体的に伺います。次回もお楽しみに!
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【プロフィール】
菅原洋平
作業療法士。ユークロニア株式会社代表。
アクティブスリープ指導士養成講座主催。
国際医療福祉大学卒。
国立病院機構にて脳のリハビリテーションに従事したのち、
現在は、ベスリクリニック(東京都千代田区)で薬に頼らない睡眠外来を担当するかたわら、生体リズムや脳の仕組みを活用した企業研修を全国で行う。
その活動はテレビや雑誌などでも注目を集める。
主な著書に、13万部を超えるベストセラー「あなたの人生を変える睡眠の法則」、12万部突破の「すぐやる!行動力を高める科学的な法則」など多数。