現代のビジネスパーソンにとって、長時間の座りっぱなしによるデスクワークや、日々受ける様々なストレスは、腸の健康を損ねる大きな要因となっています。
腸の主な機能は「栄養や水分を吸収して、老廃物を便として排泄する」というものです。もし腸内環境が悪かったり、腸の機能が低下していると、食事で摂取した栄養をうまく吸収できなかったり、体脂肪として溜まりやすくなってしまいます。
また、腸は食べ物と一緒に入ってくるウイルスや細菌といった老廃物をブロックして、体内に吸収しないようにする “ガードマン” のような働きもしています。
腸内環境が悪いと、そのガードの機能がうまく働かず、風邪をはじめとした体調不良になりやすくなってしまいます。
更に、腸と脳には「腸脳相関」と呼ばれる関係があり、腸の調子が悪いと脳にも悪影響を及ぼすことがわかってきています。
本記事では、「腸の働きを良くする運動」にフォーカスをあて、腸の働きを効果的に改善するための運動を7つ紹介します。
筋トレ、ストレッチ、マッサージ、そして特定のツボを刺激する方法など、オフィスや自宅で簡単に実践できる運動をピックアップしました。
ワークパフォーマンスをアップさせるために、また毎日健康的でアクティブに生活を送るためにも、ぜひ腸の働きを良くする運動を、日々の生活に取り入れてみてください。
腸の働きを良くするべき3つの理由
最近よく「腸内環境を整えよう!」や「腸活をしよう!」といった言葉を耳にする機会が多いかと思いますが、具体的に、なぜ腸の働きを良くするべきなのかをお伝えします。
1)体調が良くなる
腸は大きく分けると「小腸」と「大腸」の2つに分けられます。それぞれ異なる役割を果たしていますが、小腸が果たしている大きな役割が「食物の消化」と「栄養素・水分の吸収」です1。
腸内環境が良く、小腸がうまく働いてくれると、食べたものがきちんと消化され、しっかりと栄養素が吸収されて、血液に乗って全身の細胞に運ばれていきます。
体のあらゆる細胞が栄養素をちゃんと得ることによって、それぞれの細胞が役割を果たし、体の機能がうまく働くことで、いわゆる「体の調子が良い」状態で過ごすことができます。
逆に、腸内環境が悪く、小腸の働きが悪くなってしまうと、食事で得た食物がうまく消化されずに、下痢や便秘といった不調が発生することがあります。
また、栄養素の吸収がうまくいかないことで、細胞の栄養不足・エネルギー不足が起こり、内臓の機能低下や代謝の低下が発生し、「なんか元気が出ない」「なんか調子が悪い」といった状態に陥ってしまいます。
質の低い血液では細胞も栄養素を取り込めず、結果皮下脂肪や内臓脂肪になってしまうことも考えられます。
腸内環境を整えて、腸がきちんと役割を果たせるようにすることは、仕事の生産性向上や、日々元気に生活を送る上で、非常に重要となります。
2)メンタルヘルスの向上
腸の状態は、体の健康だけではなく、心の健康にも大きく関わっています。
腸(小腸と大腸)の中では、別名「幸せホルモン」とも呼ばれるセロトニンが作られており、体全体で作られるセロトニンの約90%が腸で作られます(他は脳や血液で作られます)2。
セロトニンが多く分泌されると、下記のような効能が発生します。
- ポジティブな気持ちになる(幸福感)
- 落ち着いた気持ちになる(平常心・リラックス)
- 脳や身体をスッキリと目覚めさせる
- 腸のぜん動運動を活発にする
逆に、セロトニンの分泌が減少すると、イライラしやすくなったり、ボーっとすることが増えたり、心が不安定な状態となって、うつ病をはじめとしたメンタルヘルスの不調につながってしまうことがわかっています。
実際に、うつ症状を持つ人は腸内環境が良くないことが多いことや、うつ状態の人の腸の状態をチェックしてみたところ、セロトニンの量が少なかったという報告もあります2。
腸内環境を改善して、腸の働きを良くすることで、セロトニンをはじめとしたホルモン(神経伝達物質)がしっかりと作られるため、メンタルヘルスの向上が期待でき、体も心も健康になっていきます。
3)免疫力がアップする
食事によって、様々な食べ物を体内に体内に取り入れますが、実はその食べ物には、目には見えていない細菌やウイルスといった病原体が付着していることがあります。
この病原体をそのまま腸から吸収してしまうと、その菌が血液に乗って全身に運ばれ、風邪をはじめとした不調を引き起こします。
よって、食べ物と一緒に腸にやってきた異物(=病原体)は、吸収せずに攻撃する必要があり、そのために腸には非常に多くの免疫細胞が存在します(ヒトが持つ免疫細胞の約70%が腸に存在します)。
腸内環境が良い状態であると、腸に存在する免疫細胞がしっかりと働いてくれるため、腸に異物が侵入してきたときに、攻撃して侵入を防いでくれます(=腸から吸収しない)。
しかし腸内環境が悪く、腸の機能が低下してしまうと、腸内の免疫細胞も機能が低下するため、病原体の侵入を許してしまい、「なんか調子が良くない」「最近すぐ風邪を引く」といった状態になってしまいます。
また、花粉症やアトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎といったいわゆるアレルギー症状も、腸内環境の悪化による免疫機能の低下によって、逆に体内に吸収しても問題のないものにまで免疫機能が過剰反応してしまうことによって起こるとも言われており、腸の働きを良くすることは、このようなアレルギー症状の改善にも役立つ可能性があります。
腸の働きを良くする運動7選
腸内環境を良くすることや、腸の働きを良くするためにできることとして、日々の生活習慣の見直しや食生活の改善に加えて、運動(=体を動かす)をすることも非常に大切な要素の1つになります。
ここからは、腸の働きを良くする運動として、筋トレやストレッチ、マッサージ、ツボ押しなど、仕事の合間やスキマ時間等で、気軽に簡単にできるものを7つご紹介していきます。
1)大腸四隅マッサージ
肋骨の下〜骨盤にかけてのいわゆる「お腹」の部分は骨に囲まれていないため(骨は背骨のみ)、そのお腹の部分にある腸は、内臓の中でも唯一の「外から手で触れられる臓器」となります。
よって、手で腸をマッサージして、物理的に腸に刺激を与えることで、腸の動きが活性化することができます。
特に場所は気にせずとも、優しくお腹をマッサージすることで腸に刺激を与えることが可能ですが、特に便がたまりやすいのが、上画像の赤丸で示した隅の部分となります2。
この赤丸部分を、優しく円を描くようにしながら押し込むようにしてマッサージすることで、特に便秘気味の方は、腸の動きが活性化して便通が良くなる効果があります。
1ヶ所10〜15秒程度、4ヶ所で1分程度マッサージを行ってみましょう。もしも「ここちょっと硬いな」と感じる部分があれば、少し長めにマッサージをすると良いかと思います。
2)腸に効くツボ「百会」「天柱」
2006年に「経血部位国際標準化公式会議」と呼ばれる会議が行われ、ヒトの体に存在するツボ(経穴とも呼ばれます)として、361穴が正式に認定されました3。
ツボの多くは「神経が集まる場所」に存在することが示されており、ツボを刺激することで自律神経を活性化できるとされています。
自律神経が刺激されることで、血液循環やホルモン分泌、新陳代謝などを促進することができ、痛みやコリの緩和や身体の不調の改善が期待できます。
元々は東洋医学から生まれた「ツボ療法」であり、「ツボを押すだけで不調が改善するなんてことが本当にあるの?」と考える方も少なくないですが、2008年にはWHO(世界保健機関)がツボの位置について国際的に統一基準を定めるなど、科学的にもツボ療法の効果が明らかになってきています。
腸の働きを良くするツボとしておすすめなのが「百会(ひゃくえ)」と「天柱(てんちゅう)」です。
百会は「万能ツボ」とも呼ばれ、自律神経にアプローチして腸の活性化に効くとともに、頭痛や寝違え、二日酔いの際に頭をスッキリさせる効果も期待できます4。
天柱も自律神経にアプローチするとともに、首周り・肩周りの筋肉のコリによって発生する緊張性頭痛にも効くツボとされています4。
痛みを感じない程度の強さで5秒ほどグーッと押し続けたら、ゆっくり指を離して5秒休憩をとり、それを3〜5回程度繰り返してみましょう。
3)うつ伏せ腹式呼吸法
お腹をふくらませたり、凹ませたりする「腹式呼吸」を使ったトレーニングは、腸の上にある横隔膜が動くことで腸を活性化したり、便を出すために必要な腹圧を高める効果が期待できます。
立った状態や、椅子や床に座った状態での腹式呼吸も十分に腸を刺激する効果は期待できますが、下記しているように、うつ伏せでお腹の下にクッション等を挟んだ状態でお腹をふくらませることで、腸が更に圧迫されて、効果が高まります。
また、少し時間をかけて息を吸ったり吐いたりすることで、副交感神経の活動を活性化することができます。副交感神経が活発になると腸の働きが良くなるため、自律神経のバランスを整えるという意味でも、このうつ伏せ腹式呼吸法は効果的なエクササイズとなります。
- うつ伏せになり、お腹の下に枕やクッション等を入れます。
- 鼻から5秒かけて息を吸いながら、お腹をふくらませます(おへそ周りを膨らますように)。
- 口から5秒かけて息を吐きながら、お腹を凹ませます(ウエストを細くするように)。
- 2〜5秒、息を止めます(苦しくない程度、止められる範囲で行いましょう)。
- 「5秒吸って、5秒吐いて、2〜5秒息を止める」を4〜8回繰り返しましょう。
4)腰ひねりストレッチ
腸はお腹の中で、曲がっていたりねじれていたり、くぼみや出っ張りもあるため、腸を様々な方向に傾けたり、回転させたり、ひねったりすることで、腸を活性化させることができます。
また、背骨を通る自律神経も、ひねる動きによって活性化されるため、この腰ひねりストレッチによって、腸の活性化とともに、自律神経の活性化も期待できます。
便秘気味の方や、ガスがたまってお腹に不快感がある方は特に、お仕事の合間等にぜひ行ってみてください。
- 椅子に浅く腰掛けて、背すじを伸ばして左脚を組みます。
- 右手を左脚の膝に置き、グッと手で押しながら腰を左側にひねって、2〜3回ゆったりと呼吸をします。
- 余裕があれば、背もたれ等に左手を置いて、更にひねります。ここでも2〜3回ゆったりと呼吸をしながら、腰のストレッチを感じましょう。
- 反対側も同様に行います。
5)エルボートゥーニー
腸機能が衰えてしまう要因の1つとして「腹筋群の筋力低下」が挙げられます。
上記3で紹介したうつ伏せ腹式呼吸法では、腹筋群のインナーマッスル(腹横筋・横隔膜など)の強化や腹圧を高めることを目的として行うトレーニングですが、エルボートゥーニーは腹筋群のアウターマッスル(腹直筋・外腹斜筋など)を鍛えることを目的としたトレーニングです。
更に、脚を持ち上げることで腸腰筋が鍛えられたり、ツイストをするような動きによって腸にもしっかりと刺激が入ります。
座ったまま行えるトレーニングですので、ぜひ仕事の合間やテレビを観ながらなど、スキマ時間にぜひサクッと行っていただければと思います。
- 椅子に浅めに腰掛けて、足は肩幅に開き、片手を上に伸ばして、逆の手は腰に当てます。
- 上に伸ばした腕を曲げながら、その腕と反対側の膝を持ち上げて、お腹の前で肘と膝を近づけます。
- 10回繰り返したら、反対側も同様に行います。
6)スモウスクワット
腸機能が衰えてしまう要因の1つとして「肛門括約筋の筋力低下」も挙げられます。
肛門括約筋を鍛えることで、スムーズな排便につながります。逆に衰えてしまうと、うまく排便ができずに便秘の原因となります。
肛門括約筋を鍛えるためには「腰を深く落とす」という、いわゆるスクワット動作が有効となります。
肛門括約筋を含めた骨盤底筋群を効果的に鍛える「スモウスクワット」のやり方は以下の通りです。
- つま先を45〜60度程度外側に向けた状態(=ガニ股)で、背すじを伸ばして、手は腰にあてます。
- 鼻から息を吸い、口から息を吐きながら、背すじをまっすぐにキープしたまま、お尻を少し後ろに引きながら腰を落とします。
- つま先やかかとが浮かないようにしながら、2〜3秒かけてできるだけ深く腰を落とし、2〜3秒かけてゆっくり立ち上がります。
- 10〜20回程度繰り返しましょう。
7)四股エクササイズ
上の6で紹介したスモウスクワットを20回行える筋力がついたら、ぜひこちらの四股エクササイズも行ってみましょう。
スモウスクワットを行って腰を落とした状態から、身体の軸(頭〜体幹〜骨盤)を一直線にキープした状態で、四股を踏むようにして片足を上げて下ろします。
片足でバランスをキープすることで、様々な脚や体幹の筋肉が活性化し、腸の働きを良くする上で必要な骨盤底筋群や腹筋群を効果的に鍛えることが可能であると同時に、腹筋群の活性化は大腸のぜん動運動も活発にしてくれます。
- つま先を45〜60度程度外側に向けた状態(=ガニ股)で、背すじを伸ばして、手は腰にあてます。
- 鼻から息を吸い、口から息を吐きながら、背すじをまっすぐにキープしたまま、お尻を少し後ろに引きながら腰を落とします。
- できるだけ深く腰を落としたら、その姿勢をキープしたまま、ゆっくり片足を持ち上げ、ゆっくりと下ろして四股を踏みます。
- 反対側の足もゆっくりと持ち上げ、ゆっくり下ろして左右の脚で四股を踏んだら、2〜3秒かけてゆっくり立ち上がります。
- 2〜4を10回程度繰り返します。
まとめ
なぜ腸の働きを良くするべきなのか、その理由を3つお伝えし、具体的な腸の働きを良くするおすすめのエクササイズを7つ厳選してご紹介しました。
“第2の脳”とも呼ばれる腸が、きちんとその役割を果たせるように整えることで、健康に生活できることはもちろん、ワークパフォーマンスの向上も期待できます。
まずは腸マッサージやツボ押しだけでも構いませんので、ぜひ1つだけでも生活の中に取り入れていただき、腸活を始めてみてはいかがでしょうか。
参考文献・資料
- 川本徹. 結局、腸が9割 名医が教える「腸」最強の健康法. アスコム; 2022.
- 小林弘幸. 腸活にいいこと超大全. 宝島社; 2021.
- Lim S. WHO Standard Acupuncture Point Locations. Evid Based Complement Alternat Med. 2010;7(2):167-168. doi:10.1093/ecam/nep006
- Kato M. ホントによく効くリンパとツボの本. 日本文芸社, 2010.