コロナ禍を経て、現代社会において「免疫力」を常に維持することや高めておくことは、これまで以上に重要視されています。
「免疫」や「免疫力」といった言葉を耳にする機会が増えたかと思いますが、「免疫力とは具体的にどんな力なのか?」「免疫力を高めるにはどうすればいいのか?」について、実際よくわからない、という方は多いかと思います。
本記事では、免疫とは?免疫力とは?といった基本的な知識から、私達ヒトの体に備わる免疫システムが体を守るメカニズムをお伝えし、更に、効果的な免疫力の高め方や感染症の予防法をご紹介します。
日常生活で簡単に取り入れられる具体的なアプローチをたくさん紹介しますので、ぜひ今日から実践していただき、あなたの体の免疫システムが正しく働いてくれる体作りをしていきましょう。
免疫とは?
免疫とは「疫(えき)」を「免れる(まぬがれる)」と書きます1。
「疫」は「病気」という意味であり、「免」は「避ける・逃げる」といった意味となるため、免疫とは「病気を避ける・病気から逃げる」といった意味となります。
免疫力とは?
実は「免疫力」という言葉は専門用語ではないため、免疫に関する専門家や研究者は、免疫力という言葉は使いません。
しかし本記事では、「免疫力」という言葉の持つイメージや伝わりやすさから、あえて免疫力という言葉を使用しています。
本記事では「免疫力」という言葉を「病気を避ける力・病気から逃げる力」と定義し、病気にならずに毎日元気に、仕事においても常に高いパフォーマンスを発揮できるような力をつける方法について、ここからお伝えしていきます。
2段階ある免疫システム
病気を避ける、あるいは病気から逃げるために人間の体に備わっている防衛システムのことを「免疫システム」と言います2。
病気に導くような細菌やウイルス(=病原体)、つまり “異物” が体内に侵入してきたときに、その異物を排除して体を守ってくれる仕組みが、ヒトには備わっています。
病原体が体内に侵入してきた際、免疫システムは2段構造で体を守っています。
※免疫システムを発動する病原体や異物のことを「抗原」と言います。
1)病原体が侵入してきたら最初に迎え撃つ「自然免疫」
自然免疫とは、ヒトが生まれたときからすでに持っている、自然に備わっている免疫反応です。
この自然免疫の役割を果たしているのが、マクロファージや好中球(こうちゅうきゅう)といった「食細胞」と呼ばれる細胞です。
町を毎日パトロールして町民の安全を守ってくれている「警官」のように、食細胞は全身を常にパトロールしていて、ちょっとでも体に悪そうなものを見つけると、すぐに駆けつけて、即攻撃して、敵の侵入を防いでくれます。
食細胞は、侵入してきた病原体を文字通り「むしゃむしゃと食べる」細胞で、異物を食べて細胞内で消化・吸収することで、更なる侵入や感染の拡大を防いでくれます。
2)自然免疫では排除できなかった病原体を攻撃する「獲得免疫」
自然免疫の攻撃をうまく避けて侵入してきたり、完全に駆除できなかった病原体を、自然免疫の後ろで待ち構えて攻撃するのが「獲得免疫」と呼ばれる免疫反応であり、生まれたときから自然に備わっている自然免疫とは異なり、獲得免疫は “後天的に” 獲得される免疫反応です。
食細胞が体内に侵入してきた病原体をむしゃむしゃと取り込んでいる際に、「樹状細胞」と呼ばれる情報伝達細胞が、その病原体の特徴・情報を入手して、獲得免疫に伝えます。
樹状細胞から情報を得た獲得免疫は、その病原体の特徴に合わせた攻撃精鋭部隊を作り、その相手に合わせた戦略を練って特異的な攻撃をすることで、その病原体の侵入や感染を防ぎます。
獲得免疫とした活躍するのが、病原体に感染した細胞を見つけたら接近戦で即死滅させる「キラーT細胞」や、抗原の特徴に合わせたスペシャルな武器を遠隔から発射して無力化させる「B細胞」と呼ばれる細胞です。
キラーT細胞やB細胞は、情報を得てから攻撃を開始するため、自然免疫よりも攻撃までに時間がかかるのですが、病原体がすべて体内から排除されて攻撃を終えると、これらの細胞は病原体の情報を記憶して「記憶細胞」として体内に蓄えられるという特徴があります(自然免疫には記憶する能力はありません)。
この記憶細胞によって、いわゆる “免疫がつく” こととなり、同じ病原体がまた体内に侵入してきた際に、一回目よりも早く攻撃を開始することができるようになるため、症状が軽く済むようになります。
ヘルパーT細胞による2種類の獲得免疫反応
上記したキラーT細胞やB細胞の他に、もう1つ獲得免疫のシステムにおいて重要な働きを担っているのが「ヘルパーT細胞」と呼ばれる細胞です。
その名の通り「免疫システムを助ける細胞」なのですが、このヘルパーT細胞は、病原体の種類によって排除方法を変えるという特徴を持っています3。
A)ウイルス・細菌に対する1型免疫反応
ウイルスや細菌が体内に侵入してきた際には、ヘルパーT細胞の中でも「Th1細胞」と呼ばれる細胞が反応し、「炎症」を起こして異物を排除するという方法でウイルスや細菌を攻撃します(=これを「1型免疫反応」と呼びます)。
インフルエンザウイルスやコロナウイルスが体内に侵入してくると「発熱」しますよね?これは、ウイルスが体内に侵入して、Th1細胞が攻撃を開始したことで、体内で炎症が起きたために発生しています。
B)寄生虫に対する2型免疫反応
ウイルスや細菌ではなく、寄生虫が侵入してきた場合は、ヘルパーT細胞の中でも「Th2細胞」と呼ばれる細胞が反応して、こちらは「くしゃみ」や「かゆみ」を起こして異物を体外に追い出すという方法を用います(=これを「2型免疫反応)と呼びます)。
花粉症やダニアレルギーといったものが発症すると、くしゃみが出たり、目がかゆくなったり、鼻水が出たりしますよね?これはTh2細胞が反応して、花粉やダニといった異物(本来は体に害を与える物質ではないですが)をくしゃみによって体外に出そうとしたり、かゆみを起こして「掻く」という行為で追い払おうとしているのです。
免疫力を高める方法&感染症予防法
免疫システムがどのように働くのか、そのメカニズムをお伝えしたところで、ここから免疫力を高める効果的な方法や感染症を予防する方法をお伝えしていきます。
1)ワクチン(予防接種)
ワクチンとは、細菌・ウイルスなどの病原体を無毒化(もしくは弱毒化)して作られたもので、これを体内に入れることで抗体を作り、感染症に対する免疫を得る(=獲得免疫)のが予防接種です4。
現代の医学において、予防可能なウイルスに対しては「ワクチン」の接種が最も有効な予防手段とされているとともに、現在存在する医薬品の中で、最も確実に免疫力を高める方法とも言われています。
例えば、麻疹ワクチンの有効率は90%以上と言われ、2回接種することでほとんどの人が麻疹にかからなくなります。
新型コロナワクチンの有効性は70〜95%と、多少幅はありますがかなり高い発症予防効果があると言えます。重症化予防効果に関してはほぼ100%という有効性が示されており、新型コロナウイルスに対しても、ワクチンの接種によって免疫力が高まると言えるでしょう。
ただ、免疫力が高まるのはあくまでその無毒化された病原体に対してのみであり、他の病原体に対しての効果はありません。
新型コロナウイルスは「変異」がありますよね?たとえワクチンを接種しても、違う特徴を持った病原体が体内に侵入してくると、そのワクチンによって獲得された免疫の効果はないため、感染してしまう可能性があるということになります。
2)血液やリンパ液の循環を良くする
自然免疫の役割を果たしているマクロファージや好中球をはじめとした免疫細胞は、町の警官のように全身をくまなくパトロールしているのですが、血液循環やリンパ液の循環が悪いと、このパトロールがうまく行われず、免疫がうまく機能しない可能性があります。
よって、免疫力を高めるためには、血流をよくして、血液やリンパ液が全身をスムーズに流れている状態を作ることで、何か異物が体内に侵入してきたときに、迅速に免疫細胞がその異物の場所に駆けつけて、排除してくれるようになります。
全身の血流を良くするために効果的なのが「運動」です。体を動かす行動であれば血流が良くなるので、基本的にはどのような運動でも良いですが、簡単にできる全身の血流を良くするエクササイズを3つ紹介します。
A)チェア・カーフレイズ
別名「第2の心臓」とも呼ばれるふくらはぎを使った運動をすることで、むくみの改善や全身の血流促進効果が期待できます。
椅子に座ったまま行うエクササイズのため、お仕事中や仕事の合間、ご飯を食べる前や食べた後などで簡単に行うことができます。
椅子に座っているときのちょっとした時間にかかとの上げ下げを行って免疫力を高めていきましょう。
- 姿勢良く椅子に座り、足を肩幅程度に開いて、足裏全体を床につけます。
- つま先で地面を押すようにして、かかとをできるだけ高く持ち上げます。
- 1秒程度その高さでキープしたら、ゆっくりかかとを床に下ろします。
- 2と3を繰り返しましょう(10〜30回程度)。
B)スクワット&カーフレイズ
「仕事や作業中の転倒予防ガイド|オフィスや現場での事故を防ぐ」の記事でも紹介したエクササイズですが、下半身の多くの筋肉を活性化させることができる「スクワット」は、効果的に全身の血流を良くするエクササイズと言えます。
スクワットのみでも充分ですが、更にカーフレイズも加えることで、更に血流促進効果を高めることができます。
Aで紹介した、座ったまま行うカーフレイズとは違い、立位状態でのカーフレイズはバランスも不安定になるため、より多くの筋肉を使う強度の高いエクササイズとなります。
- 両足を肩幅〜やや広めにセットし、両手は腰にあてます。
- 足裏全体が地面から離れないようにしながら、両膝を曲げて腰を落とします。
- 両足でしっかりと地面を押して、立ち上がります。
- 立ち上がったら、両かかとを持ち上げてつま先立ちになり、1秒キープして、かかとを下ろします。
- 2〜4を繰り返しましょう(10〜20回程度)。
C)肩スッキリ体操
肩周りを大きく動かすことで、肩や背中といった大きな筋肉を動員することができるため、血流促進の効果が期待できます。
Aのチェア・カーフレイズと同様に、椅子に座ったまま行うことができるエクササイズであり、「肩こりには3種類ある!原因別肩こり軽減方法【ストレッチも紹介】」の記事でも紹介している、肩こり解消にオススメのエクササイズでもあります。
首や肩の凝りが気になっている方はぜひこのエクササイズを仕事の合間等に行って、凝りの解消に加えて免疫力も高めていきましょう。
- 椅子に浅く座り、背すじを伸ばして姿勢を正します。
- イチで両腕を胸の前で合わせます。
- ニーで両手を外側に向けながら、両腕を外側に開きます。
- サンで両腕を頭上に持ち上げます。
- シーで両腕を曲げて、肘を脇腹に引きつけるようにして下ろします。
- イチに戻り、2から5を繰り返します。
- 10回程度繰り返しましょう。
3)体温を上げる
みなさん、普段の平熱はどれくらいでしょうか?実は、体温が低いと免疫細胞は働きづらくなります。
免疫細胞が活性化するのは深部体温が37℃以上のときと言われており、これはわきの下で測定する体温計を用いたときに36.5℃以上になる体温を指します。
もしあなたの平熱が36度台前半である場合は、身体が産み出す熱の30〜40%をつくる「筋肉」を鍛えるエクササイズを行うことで、体温が上がり、免疫力の向上が期待できます。
1つ注意点としては、激しすぎる運動は逆に免疫力を低下させるということです。
激しい運動をした人は、全く運動をしなかった人よりも風邪を引きやすいことや、感染リスクが一番低いのは「ほどほどの運動」をした人であることが示されている5ため、楽しみながら、呼吸が乱れない程度の運動を行うことが、免疫力を高める上では重要なポイントとなります。
血流を促進するエクササイズとして上で紹介した3つも体温を上げる効果が期待できますが、より大きい筋肉を鍛える、少しだけ強度の高いエクササイズを2つ紹介します。
A)リバースランジ・ローテーション
スクワットと同様に下半身の多くの筋肉を活性化させる「ランジ」エクササイズに、更に上半身をひねる動作を加えることで、全身のたくさんの筋肉を一気に使うことができる(=体温が上がる)エクササイズです。
- 両足をくっつけた状態で真っ直ぐ立ち、両手は胸の前で組みます。
- 片足を大きく後ろに一歩踏み出しながら腰を落とし、両手は前に伸ばします。
- 腰を落とした位置をキープしながら、上半身を前に出した脚側に回旋させます。目線は両手に向けましょう。
- 2の位置に戻ります。
- 1の位置に戻ります。1〜5を繰り返します。左右10回ずつ程度行いましょう。
B)ウインドミル
体を大きくひねりながら動かすことで多くの体幹筋を活性化させることができます。
また、両膝を伸ばしながら、お尻を引いて上半身を倒す動きはお尻やもも裏(ハムストリングス)といった大きな筋肉を動員することになり、体温を上げる効果が非常に高いエクササイズと言えます。
- 両足は大きく左右に開き、両手は肩の高さで横に広げます。
- 痛みが発生しない程度に膝を伸ばした状態で、お尻を後ろに引きながら上体を斜めに倒し、右手で左足を触ります(足首やスネのあたりでもOKです)。
- 上体を起こしたら、次は左手で右足を触るように上体を斜めに倒します。
- 2〜3を繰り返します。
1回1回しっかりと上体を起こして、まっすぐ立った姿勢に戻ることで、より効果の高いエクササイズとなります。
4)睡眠時間の確保&睡眠の質向上
睡眠時には、成長ホルモンをはじめとしたたくさんのホルモンが体内に分泌されて、細胞の修復や再生、免疫機能の調整などといった身体のメンテナンスが行われます。
睡眠時間をたっぷりとることで身体のメンテナンス時間を確保するとともに、メンテナンスの材料となる様々なホルモンがしっかりと分泌されるように睡眠の質を高めることが、免疫力を高める上で重要な要素の1つとなります。
詳しくは「寝付きが悪い人必見!寝付きが良くなる6つの入眠スイッチ」の記事を読んでいただければと思いますが、要点を簡単にまとめると以下の通りになります。
- 睡眠時間は7時間以上を確保する(18歳以上の場合)
- 起床後は日光を浴びて体内時計をリセットする
- 夕方に少し強度の高いエクササイズを2分程度行う
- 就寝の90〜120分前にお風呂に入る
- 就寝30分前に目元を温める
- 寝室は暗くする、静かにする、涼しくする
上記したものの中で、ご自身の生活でできていないものがあれば、ぜひ毎日の生活の中に取り入れていただき、免疫力向上に役立てていただければと思います。
5)頻繁に手洗いをする
病原体が体内に侵入することで感染症にかかってしまうため、病原体が体内に侵入しないようにすることが、感染症予防において重要なポイントの1つとなります。
感染症の感染源として一番多いのが「接触感染」であり、接触感染の多くは「手」を介して起こる(ウイルスが手に付着し、その手で口や鼻、目に触れて体内に侵入する)ため、頻繁に手洗いをすることで、その感染源を断つことができます。
ウイルスを効果的に洗い流す正しい手洗いの方法については、WHO(世界保健機関)が動画で紹介していますので、ぜひこちらをご覧いただければと思います。
また、ウイルスや細菌は「爪の中」に潜んでいることも多いため、可能な場合は、常に爪は短く切っておくことも感染症予防として有効です。
まとめ
免疫とはなんなのか、免疫力とはどういう力なのか、という話から、免疫システムが病原体から体を守る仕組み、更には免疫力を高める方法についてご紹介しました。
ほどほどの運動、適切な睡眠、更には本記事では紹介しませんでしたが、バランスの良い食事や規則正しい生活を心がけることで、免疫システムが常にうまく働く身体の状態をキープすることが大切です。
毎日忙しく働くビジネスパーソンにとって、免疫力を常に高い状態に保つことは、毎日のワークパフォーマンスを高める上で重要な要素の1つです。
ぜひ本記事を参考に免疫力を高めていただき、毎日元気にエネルギッシュに活動していただけたら幸いです。
参考資料・文献
- Naogi Gotoh. 【3分解説】コロナに負けない「免疫」のすべて. NewsPicks. Published April 16, 2020. Accessed February 5, 2024. https://newspicks.com/news/4826314/body/
- Newton別冊人体完全ガイド改訂第3版. ニュートンプレス; 2022.
- ムーギー・キム. 最強の健康法 世界レベルの名医の「本音」を全部まとめてみた【病気にならない最先端科学編】. SBクリエイティブ; 2018.
- 津川友介. HEALTH RULES (ヘルス・ルールズ) 病気のリスクを劇的に下げる健康習慣. 集英社; 2022.
- 裴英洙. 一流の人はなぜ風邪をひかないのか?. ダイヤモンド社; 2018.