現代の働き方において、「座りっぱなし」は避けられない問題となっており、オフィスでの長時間のデスクワークや、在宅勤務での固定された作業環境は、健康へのリスクを高めてしまいます。

実は、長時間座り続けることは、肩こりや腰痛の原因になるだけでなく、心臓病や糖尿病などの慢性疾患のリスクも高めることが科学的に証明されています。

本記事では、「座りっぱなし対策」というキーワードを軸に、オフィスでも在宅ワークでも簡単に取り入れられる座りすぎ解消習慣を6つご紹介します。

仕事中でも、日常生活でも、どなたでも簡単に組み込めるアクティブブレイクのアイデアをお伝えし、座りがちなライフスタイルを健康的に変えるための実践的なアドバイスをお届けします。

Sitting is the new smoking|座ることは新しい喫煙である

長時間の座りっぱなしや運動不足による健康被害を表す言葉として、欧米をはじめとした英語圏の国でよく使われるのがこの「Sitting is the new smoking.(座ることは新しい喫煙である。)」です。

Leeらによる研究1によると、運動不足が原因で死亡してしまう人は、全世界で1年間に約530万人にもなり、この数は喫煙が原因で死亡してしまう人の数とほぼ同数である、ということを報告しています。 

デスクワーカーの長時間の座りっぱなしでの仕事、日常生活での長時間の座りっぱなしでのテレビ・動画視聴やゲーム、買い物はネット注文で事足りてしまう現代では、身体を動かさずに過ごす時間が昔と比較すると圧倒的に長くなっています。

医師で作家の李啓充先生によれば、ヒトも含めた「動物」は活発に「動く」ことを前提に進化してきたため、「動かない」生活をすることで様々な健康被害が起こるのは容易に想像がつく、と示しています2

「余暇の運動」だけでなく「座りっぱなしの頻繁な中断」が重要

Dunstanらによる長時間の座りっぱなしに関するレビュー3によると、普段の生活で座りっぱなしの時間が長い人ほど早死してしまう確率が上がることを示しています。

更にこの研究では、この「長時間の座りっぱなし」による死亡率の上昇は、たとえ余暇に中〜高強度の運動を行っても下げることができない(=早死の死亡率は高いまま)、ということを報告しています。

では、どうすれば早死による死亡率の上昇を下げることができるのかと言うと、「頻繁に座位を中断する」のが重要であることがレビューには示されています。

同じくDunstanらによるレビューには、長時間の座りっぱなしをしている人ほど、腹囲や中性脂肪、血糖値が高いことが示されており、更にこれは「座りっぱなしの状態を頻繁に中断する(=頻繁に立ち上がる)」ことで軽減することを報告しています。

「仕事が休みの日は3時間テニスやってます」「毎週登山してます」など、1回の運動を長時間行ったり、強度の高い運動を行うということは、もちろん体やメンタル、脳にとってすごく良いことであり、ぜひ継続するべきです。

しかし、それ以外の時間は全然動いていない、ずっと座りっぱなしである、という方は、「30〜60分に1回は立ち上がる」「身体の非活動的な時間をなるべく減らす」という習慣づくりも同時に行うことで、より健康的な心身を手に入れることができ、常に快適なコンディションで活動することができるようになります。

座りっぱなしの中断時は「ただ立ち上がる」だけでもOK

長時間の座りっぱなしを避けて、頻繁に座位の継続を中断することで、腹囲や中性脂肪、血糖値の軽減が期待できることを前述しましたが、この際の「身体活動の強度の違い」による軽減度・改善度には違いが見られなかったことが示されています。

つまり、本当に「立ち上がる」だけで良いのです。立ち上がってちょっと手足をブラブラしたり、上にグーンと1回伸びをしたり、トイレに行ったり、コーヒーを淹れにいったりなど、本当にごく軽度の身体活動で充分なのです。

そんな程度の行動を30〜60分に1回の頻度で行うだけで、お腹周りについた脂肪の減少や増加の予防、血糖値の改善による糖尿病の予防などが期待できます。

座りっぱなし対策6選|身体活動を増やし、座位行動を減らすコツ

2020年にWHOが発表した身体活動と座位行動に関するガイドライン4には、重要なキーフレーズとして以下2つの文言が強調されています。

  • 少しの身体活動でも、何もしないよりは良い。多いほうがより良い。
  • EVERY MOVE COUNTS.(ちょっとした身体活動にも意味がある。)

「YouTubeで見たエクササイズを今日10回やっただけじゃ何も変わらないよな」「目の前の階段を今日だけのぼったところで何も変わらないからやっぱり今日もエスカレーターに乗ろう」などとは、決して思わないでください。

今日の、ちょっとした身体活動でも、ちゃんと意味があります。脳にも、心にも、身体にも、間違いなく良い刺激となって、健康にポジティブな影響を与えてくれます。

WHOが発表したガイドラインには更に「少しでも身体活動を増やし、少しでも座位行動を減らすことで、妊娠中もしくは産後の女性、慢性疾患のある方、障がいのある方なども含めて、あらゆるすべての人が健康効果を得ることができる」とも示しています。

ではここから「座りっぱなし対策6選」として、毎日忙しく働くビジネスパーソンでも簡単に実践できる、少しでも身体活動を増やして少しでも座位行動を減らすためのコツをご紹介します。

1)ウェアラブルの使用

ウェアラブルとは、生体情報を集めるために体に身につける装置のことで、有名なのはapple watch、fitbit、Garmin、指輪型のウェアラブルoura ringといったものもあります。

スマホを持ち歩くだけで歩数が測定できますよね?つまりスマホもウェアラブルと言えます。

長時間座りっぱなしのままデスクワークを続けてしまったり、ゲームをしてしまったりする方の多くは「集中していたらつい何時間も座りっぱなしだった」というパターンかと思います。

そこで、ほとんどのウェアラブルについている「アラーム機能」を利用し、30〜60分に1回アラームが鳴るように設定しておくだけで、立ち上がるべきタイミングを忘れずにすみ、座りっぱなしの時間を頻繁に中断することが可能になります。

また、ウェアラブルが運動量や心身の健康に与える影響を調べたレビュー5,6によると、ウェアラブルを身につけただけで、1日の歩数が約1800歩増加したことや、BMIや最高血圧が減少したことが報告されています。

なぜウェアラブルを身につけただけでこのような変化が起こったのかについて、著者は「ウェアラブルによって自分の身体活動量が可視化されたことで、自分の状況が把握でき、無意識的に “あるべき姿” に近づいていこうという動機づけが行われたのではないか」と考察しています。

ウェアラブルを身につけるだけで身体活動量が増えるとともに、アラーム機能を使うことで効果的な座りっぱなし対策が可能になります。ウェアラブルをお持ちでない方は、ぜひ利用を検討してみることをオススメします。

2)1時間に「2分」だけ動く

2015年にユタ大学が行った研究7によれば、1時間に2分、軽度な運動を行うだけで、常に座り続けていた人と比べて死亡率が33%減少したことを報告しています。

座位を頻繁に中断して「ただ立ち上がる」だけでも健康に良い影響を与えることは上記しましたが、ウェアラブル等を使用して60分に1回アラームをかけ、アラームが鳴ったら2分軽い運動を行うだけで、更に多くのメリットが享受できそうです。

また、2022年に発表された身体活動と血糖値の関係を調べたレビュー8によれば、食事が終わった後に2〜5分の軽いウォーキングを行うことで、血糖値スパイクの緩和に大きな影響を与えることを示しています。

血糖値スパイクは、急激な眠気を引き起こして仕事の生産性を低下させたり、血管を傷つけてしまうことによる血管系の病気や2型糖尿病の発症リスクを高める可能性があるため、仕事中の1時間に2分の軽度な運動に加えて、食後の2分の軽度な運動も組み合わせると、1日快適なコンディションをキープできるでしょう(血糖値スパイクについては「血糖値スパイクを抑えてワークパフォーマンスを最大化する5つの方法」の記事をぜひお読みください)。

「2分の軽度な運動」は「歩行」でOKですが、デスクワークの合間でその場でできるオススメの簡単なエクササイズを2つご紹介します。2つのエクササイズを1分ずつ行えば2分になりますよ!

A)お尻クロスランジ

座位の状態ではずっとつぶされてしまっているお尻の筋肉を活性化させるエクササイズです。

座りっぱなしが長いとお尻の筋肉は硬くなりやすく、非常に大きい筋肉であるお尻の筋肉の働きが悪くなると、腰痛や下肢のむくみの原因になってしまうことがあります。

お尻のストレッチを感じること、お尻の筋肉を使っている感覚を得ることを意識して行ってみてください。

  1. 両腕を胸にクロスして立ち、膝を軽く曲げます。
  2. お尻をプリッと横にスライドさせ、お尻の横部分がストレッチされているのを感じます。
  3. お尻のストレッチ感をキープしながら、体重を前の足に乗せた状態で反対脚を斜め後ろに引きます。
  4. ストレッチされているお尻の力で脚を元の位置に戻しながら、膝を伸ばしてピシッと立ちます。
  5. 左右10回ずつ行いましょう。

B)ツイストレッグアーム

「回旋動作(体をひねる動作)」は自律神経に良い刺激を与えるため、身体のコンディションを整える上ですごく良い動作です。

背筋を伸ばした姿勢をキープしたまま、膝を高く上げながら回旋するツイストレッグアームは、座りっぱなしで硬まった全身をほぐし、血流を促進する素晴らしいエクササイズです。

  1. 両腕を肩の高さで前に伸ばし、両手を組みます。
  2. 高くもも上げを行いながら、脚を上げた側に腰からひねります。
  3. 目線は、組んだ両手を見続けましょう。
  4. 20〜30回行います。

3)「20-20-20ルール」で座りすぎ解消&目の疲れ軽減

眼精疲労改善まとめ|ビジネスパーソンの目の疲れをとる方法5選」でもお伝えした方法になりますが、アメリカ眼科学会が推奨する「20分おきに、20フィート(=6メートル)遠くを、20秒間見る」というルールを実践することで、目の疲れの軽減・予防となります。

目の疲れが気になっている方は、ぜひこちらのルールを使用して、「20分に1回」の頻度で立ち上がり(ウェアラブルのアラーム機能等を利用して)、窓側へ行ったり、ベランダに出たり、ちょっと外に出て、20秒だけ遠くを見てみましょう。

座りっぱなし対策になると同時に、目のケアにもなります。

4)「ポモドーロ・テクニック」で座りすぎ解消&仕事の生産性アップ

ポモドーロ・テクニックとは、「25分間の作業」と「5分の休憩」で構成された、集中力を高めて仕事の生産性を上げるタイムマネジメント術です9

ポモドーロとはイタリア語で「トマト」を指します。ポモドーロ・テクニックを考案したイタリア人起業家が、勉強時間を測定するために利用したのがトマト型のキッチンタイマーだったことから、ポモドーロ・テクニックと名付けられたようです。

タスクの時間が長すぎると仕事の生産性が下がり、逆にタスクを細切れにして間に短い休憩を挟むことで、集中力が維持しやすくなると言われています10

「ポモドーロ・テクニック」と検索すると無料アプリがたくさんヒットしますので、ポモドーロ・テクニック用のタイマーを使用することで、25分おきに立ち上がって座位を中断しつつ、5分の休憩中に、歩いたり、上で紹介したエクササイズを行ったり、「筋膜リリースのやり方|ポイントは優しく圧迫しながら伸ばす」の記事で紹介しているような筋膜リリースでセルフケアを行うのも良いですね。

5)不必要に座らない

「この作業は座って行う必要があるのか」を一度考えてみて、もし座らなくてもできることなのであれば、立って行いましょう。

電話や社員同士でのオンラインミーティング、考え事、スマホの操作、通勤での電車待ちや電車内など、あえて座る必要のないとき、座って行わなくても問題ない行動の際には「立つ」という選択をしましょう。

座位よりも立位のほうが体幹や下半身の筋肉をより使うことになりますし、なにより座位行動の減少につながります。

スタンフォード大学が行った研究11によると、トレッドミルマシンの上を歩きながらクリエイティビティ(創造性)を測るテストを受けたところ、座った状態でテストを受けたグループと比較して81%もスコアが高かった、という結果が出ています。

何か考え事をするときは、ぜひ歩きながら考えてみましょう。身体活動を増やすことにもつながり、良いアイデアも浮かびやすいとなれば、座って考えるのは損しかありませんよ!

6)運動不足解消には「NEAT」を増やす

厚生労働省が発表している「健康づくりのための身体活動・運動ガイド202312」には、身体活動を「運動」と「生活活動」の2種類に分けています。

運動は、スポーツやフィットネスジムでのトレーニングといった、健康や体力の維持・増進を目的に計画的に行う活動をさします。

一方、生活活動とは、日常生活での掃除や洗濯といった家事、通勤、通学などに伴って行う活動をさします。

毎日忙しく働くビジネスパーソンの多くは「運動しなきゃいけないのはわかっているけれど、時間がなくて運動できない…」という状況にある場合が多いですが、運動する時間がとれない方は、ぜひ生活活動を増やす努力をしてみましょう。

この生活活動によって消費されるカロリーのことを「NEAT(Non-Exercise Activity Thermogenesis; 非運動性活動熱産生)」と呼びます。

NEATについて詳しくは「NEATの増加がダイエットの鍵【運動する時間がないならコレ】」の記事を読んでいただきたいですが、Ravussinによる研究13によれば、肥満の人とそうでない人(非肥満者)の1日の活動を比較すると、肥満者は座りっぱなしの時間が約150分も多かったと報告しており、更に、この座位時間を生活活動をするように変えてもらったところ、1日の消費カロリーが約350kcal増加したことを示しています。

「350kcal=ショートケーキ1個分のカロリー」ということを考えると、NEATを増やすだけで運動不足が解消されるという意味がわかるのではないでしょうか?

「運動」という特別な時間をわざわざ捻出しなくても、普段の生活の中で立っている時間、動いている時間を少しでも増やすことで、座位時間は減り、健康や体力の増進につながっていきます。

まとめ

座りっぱなし対策をテーマに、座りっぱなしの時間が増えることによる健康被害をお伝えし、座位行動を減らして身体活動を増やすコツを厳選して6つご紹介しました。

デスクワーカーの多くが陥りがちな「気づいたらもうこんなに時間が経っていた!」を防ぐためにも、定期的な座位行動の中断を実行するには、アラーム機能の使用は必須ではないかなと私は感じています。

ウェアラブルやスマホアプリをうまく活用して、立ち上がる時間を定期的にとりつつ、座っている時間は集中して仕事をする。このメリハリをうまく活用することで、ワークパフォーマンスは向上するとともに、健康増進のメリットも享受することが可能になります。

座りっぱなしや運動不足に悩む方の、問題解決のヒントに少しでもなっていれば幸いです。

参考文献・資料

  1. Lee IM, Shiroma EJ, Lobelo F, Puska P, Blair SN, Katzmarzyk PT, et al. Effect of physical inactivity on major non-communicable diseases worldwide: an analysis of burden of disease and life expectancy. Lancet. 2012;380(9838):219-229.
  2. Sitting is the new Smoking(李啓充): 2013年: 記事一覧: 医学界新聞: 医学書院. Accessed February 22, 2024. https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2013/PA03041_04.
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  5. Ferguson T, Olds T, Curtis R, et al. Effectiveness of wearable activity trackers to increase physical activity and improve health: a systematic review of systematic reviews and meta-analyses. Lancet Digit Health. 2022;4(8):e615-e626. doi:10.1016/S2589-7500(22)00111-X
  6. Bravata DM, Smith-Spangler C, Sundaram V, et al. Using pedometers to increase physical activity and improve health: a systematic review. JAMA. 2007;298(19):2296-2304. doi:10.1001/jama.298.19.2296
  7. Beddhu, S., Wei, G., Marcus, R. L., Chonchol, M., & Greene, T. (2015). Light-Intensity Physical Activities and Mortality in the United States General Population and CKD Subpopulation. Clinical Journal of the American Society of Nephrology, 10(7), 1145–1153.
  8. Buffey AJ, Herring MP, Langley CK, Donnelly AE, Carson BP. The Acute Effects of Interrupting Prolonged Sitting Time in Adults with Standing and Light-Intensity Walking on Biomarkers of Cardiometabolic Health in Adults: A Systematic Review and Meta-analysis. Sports Med. 2022;52(8):1765-1787.
  9. Raeburn A. ポモドーロとは?仕事の生産性を上げる時間管理術 [2024] • Asana. https://asana.com/ja/resources/pomodoro-technique. Published January 18, 2024.
  10. Brief diversions vastly improve focus, researchers find. ScienceDaily. https://www.sciencedaily.com/releases/2011/02/110208131529.htm. Published February 11, 2011.
  11. Oppezzo M, Schwartz DL. Give your ideas some legs: the positive effect of walking on creative thinking. J Exp Psychol Learn Mem Cogn. 2014;40(4):1142-1152.
  12. 健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023. 厚生労働省. https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001171393.pdf. Published 2023. Accessed February 22, 2024.
  13. Ravussin E. Physiology. A NEAT way to control weight? Science. 2005;307(5709):530-531.