健康経営の一環として「睡眠」の重要性はますます注目されています。企業が従業員のパフォーマンスや幸福度を高めるためには、睡眠の質を保つことが不可欠です。
しかし、具体的にはどのような取り組みが有効なのでしょうか。第3弾のこのインタビューでは、菅原洋平氏に社員の睡眠を守り、その質を向上させるための実践的な対策を伺いました。
- 第1回 健康経営で「睡眠」対策を行うべき理由
- 第2回 睡眠対策の実践による健康経営の成功事例
- 第3回 社員の睡眠を守るための睡眠の質向上策 ← 今回の記事はこちら
- 第4回 季節に合わせた対策で最高の睡眠を
- 第5回 良い睡眠のために運動をオススメする理由
第3回となる今回は、具体的に睡眠の質を高めるためのアイデアをご紹介いただきました。
【セルフチェック】自分が持つ遺伝子タイプを知る
編集部:
健康経営の中で「睡眠課題」を企業として取り組む際、具体的にどのようなアドバイスをするのがよいでしょうか?
菅原先生:
具体的なアドバイスをする際、「まず自分が持ち得ている素質(遺伝子のタイプ)を知りましょう」 というお話をします。睡眠は大きく分けると3つの生体リズムによって構成されます。
- 光に依存するタイプ(=メラトニンリズム)
- 運動に依存するタイプ(=深部体温リズム)
- 寝ている時間と起きている時間の区分タイプ(=睡眠 – 覚醒リズム)
どの遺伝子のタイプかによって、どのリズムから整えるのが効果的なのかが変わってくるため、チェックリストを使って、事前に自分の傾向を予測するのは良い方法だと思います。
以下のチェックリストを是非参考にしてみてください。
1)光感受性タイプ(=メラトニンリズム)
菅原先生:
光感受性タイプの方は、以下の点に当てはまる方が多いです。
- 朝に外の光を見ると頭がさっぱりする感じがある。
- 夜は、電化製品の待機中の照明がついているだけでも明るくて気になる。
- 外出しない日は、夜になっても眠くならずに夜更かししたくなる
このタイプかなという方は、朝と夜の光をうまくコントロールして、明暗を強調するとリズムが整いやすいです。朝起きたら朝日をしっかり浴びたり、夕食後はオレンジ色の間接照明等を使用して室内を暗くするといった対策が良いでしょう。
2)運動依存タイプ(=深部体温リズム)
菅原先生:
深部体温リズムが中心リズムとなっている方は、以下に当てはまることが多いです。
- 首、腰、足が冷える。
- たくさん歩いた日の夜はよく眠れる。
- 夕方に眠ってしまうと、その後眠くならずに就寝が遅くなる。
深部体温リズムの方が一番行うべきは「夕方に運動をする」ことです。
深部体温は夕方の時間帯に一番高くなり、そこを境に徐々に深部体温が下がっていくことで、身体は睡眠をとる準備をしていきます。
夕方に深部体温が上がる運動や筋トレを行い、しっかり深部体温が上がるべきタイミングで上げておくことで、スムーズに夜に向かって深部体温が下がっていくリズムを形成することができます。
3)睡眠の時間と起床の時間の区分タイプ(=睡眠 – 覚醒リズム)
菅原先生:
睡眠−覚醒リズムタイプの方は、以下に当てはまることが多いです。
- すぐに寝つけるが、夜中まで起きてはいられない。
- カフェイン飲料、栄養ドリンク、ガムなどでよく眠気対策をしている。
- 居眠りをすると余計に眠くなって、しばらくボーっとしてしまう。
こんな方におすすめの対策は「毎日同じ時間に起きて、同じ時間に寝る」ことと「計画的に仮眠をとる」ことです。睡眠と覚醒のリズムを毎日同じにすることで、生活リズムが整いやすいです。
計画的に仮眠をとる際は、下記の4つのルールを守るようにしましょう。
- 眠くなる前に目を閉じる。
- 仮眠の長さはMAX30分まで。
- ネックピロー等を使って頭を垂直に保つ。
- 「◯分後に起きる」と3回唱えてから仮眠に入る。
これらのルールを守って仮眠をとると、仮眠後スッキリしてすぐに仕事に戻れるとともに、夜眠れなくなるといった弊害も生まれにくくなります。
遺伝子タイプに合わせてまずは1つだけやってみる
菅原先生:
自分は感度が高いのはこれかな?と大まかにでも分かると、具体的な対策をやってみようかな、という気になりやすいかなと思います。
またチェックの過程で「確かにそう言われると、自分ってこういう事がある気がするな」と振り返って頂く事も大事なので、そういった意味でチェックポイントを作っています。
また、それぞれのリズムは「同調する」特性があるので、何か一つが整うと、その他の要素も整ってきます。そういった意味でも、まずは自分の特性に合わせた対策を1つだけで良いので、始めてみるという事にとても意味があります。
編集部:
行動をいきなり変えるのは難しくても、チェックだけならやってみよう!という方が多そうですね。
菅原先生:
自分のタイプをチェックせずに色々とやり始めてみた場合、「朝の光を意識しても意味なかったです」と言われる方や、「夕方の運動やってみたけど効果なかったです」という方も居ました。
元々、私が生体リズムをターゲットに「睡眠」をお伝えしようと思った時、複数の選択肢を用意しておくことを重視していました。フィットする対策は人それぞれ違うので、全て出来なくても良い。どれか1つやれればよい。という事が伝えられれば良いなと思っていました。
どのタイプでも重要なのは「作業と場所を一致させる」こと
編集部:
色々なタイプがある中でも、皆さんに共通する「最低限これだけはやるべき!」というポイントはあるのでしょうか?
菅原先生:
皆さんに共通しているのは「作業と場所を一致させること」、つまり、ベッドや布団の上では眠る以外の事をやらないということです。これは、リモートワークを経験して特にはっきりしてきましたね。
会社に出勤していた頃から「デスクの上でお茶を飲まない」「デスクでスマホを見ない」といったことをお伝えしていましたが、以前は場所が混ざると生産性が低くなるという実感があまり持てなかったんです。
しかしリモートワークでは、自分のデスクで食事もするし、エンターテインメントで映画も見るし、仕事もする・・・となり、仕事しようと思っていたのに、気づいたら別の事をやっていて、仕事をするのがすごく遅くなるという事を皆さんが経験したので、場所と作業を一致させる事の大切さを感じて頂けるようになりました。
習慣は変えず、場所だけ変えてくださいという事なので、「一旦環境設定をしてしまえば、自分の行動は変えなくていい」というのは、負担が少ないようです。
「夜ネットサーフィンをしてもいいし、LINEのメッセージを返してもいいし、音楽を聴く事もあるけれど、それをベッドの上で行うことだけはやめましょう」ということですね。「場所を区切る」というのは最低限やってもらいたい事としてお伝えしています。
あとがき
「今回のリモート環境で効率を保つのが難しく感じた」という例を出すと、ベッドの上で睡眠以外の事をしないように気を付けるというのも説得力があると思いました。
次回は、季節によって行うべきことが変わるというお話です。ぜひお楽しみに!
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【プロフィール】
菅原洋平
作業療法士。ユークロニア株式会社代表。
アクティブスリープ指導士養成講座主催。
国際医療福祉大学卒。
国立病院機構にて脳のリハビリテーションに従事したのち、
現在は、ベスリクリニック(東京都千代田区)で薬に頼らない睡眠外来を担当するかたわら、生体リズムや脳の仕組みを活用した企業研修を全国で行う。
その活動はテレビや雑誌などでも注目を集める。
主な著書に、13万部を超えるベストセラー「あなたの人生を変える睡眠の法則」、12万部突破の「すぐやる!行動力を高める科学的な法則」など多数。