「ちょっとお腹が出てきたな…」「そろそろダイエットしなきゃなぁ」と考える人は多いと思います。
でも、ジムに行く時間はないし、美味しいご飯はやっぱり食べてしまうし。できることなら、今の生活スタイルをなるべく変えずに体重を数キロでも減らせたらいいですよね。
「運動」と言うと、近くの公園でジョギングしたり、ジムに行ってトレーニングしたり、といったことを思い浮かべる方が多いかもしれません。ですが、そんなに気合いをいれる必要はありません。むしろ気合の入れすぎは逆効果です。
予防医学の研究者である石川善樹さんは、著書「最後のダイエット1」の中で、運動はなにかの「ついでに」行うことを薦めています。
脳は「大きな変化を極度に嫌がる」と言います。普段運動をしていない人が「仕事終わりにジムに行って筋トレ」や「朝いつもより早く起きてジョギング」といった「大きな変化」は、最初は意志の力でなんとかできるかもしれませんが、嫌がる脳の司令を無視して逆らい続けるのは、すごく大変です。
よって、何か新しいことを始めて「習慣」にしたいときは、少しずつ始めて「これはいつもと一緒だよ。大きな変化はしてないよ」と脳をだますことが重要なのです。
忙しくて運動する時間なんて作れないよ!というビジネスパーソンでも問題ありません。むしろ、脳が気づかないくらいの小さな変化で、少しずつ始めることが、結果的に習慣化しやすくなり、ダイエットという目標達成の近道となります。
ダイエットを成功させるために必要なのは「摂取カロリーを減らす(=食事のコントロール)」ことと「消費カロリーを増やす(=カラダを動かす)」こと。
今回の記事では「消費カロリーを増やす」にフォーカスをあて、いかに日常生活の中で無理なく、脳が気づかないくらいの変化で消費カロリーを増やしていくか、その方法をお伝えします。
消費カロリーを増やすカギは「身体活動量」
私達が1日で消費しているカロリーは、以下の3つで構成されています2,3。
- 基礎代謝
- 食事誘発性熱産生
- 身体活動
基礎代謝は「生命を維持していくために必要な最低限のエネルギー」のこと。普段、基本的に座って生活をしている方でも、1日の約60%の消費カロリーを基礎代謝が占めます。
筋肉量が多いほどこの基礎代謝量は増えますが、筋肉は数日で簡単に増えるものではないので、基礎代謝は今日明日で増やそうと思って増やせるものではなく、基礎代謝による消費カロリーの量は基本的に毎日ほぼ一緒です。
食事誘発性熱産生とは「食べたものを消化・吸収するときに使っているエネルギー」のこと。1日の消費カロリーの約10%を占めます。
食事の量が増えればこの食事誘発性熱産生による消費カロリーは増えますが、もちろん摂取カロリーも増えます。消費カロリーを増やすために摂取カロリーを増やしては、ダイエットが目的だとすると意味がないですね。よって、食事誘発性熱産生を増やして消費カロリーを増やすという選択肢もありません。
つまり、ダイエットのために、日常生活の中で消費カロリーを無理なく増やしていくためには、最後の「身体活動」の量を増やすことがカギになります。
気合を入れた運動は必要なし!NEATを増やしてダイエットせよ!
カギとなる身体活動は、更に2種類に分けられます。
- 運動性活動熱産生
- 非運動性活動熱産生
運動性活動熱代謝とは、ジョギングや筋トレといった運動や、ゴルフやテニスなどのスポーツを指します。もしあなたが現在、習慣的に運動やスポーツを行っているのであればそれは素晴らしいこと。ぜひ楽しんで続けてください。
もう1つが「非運動性活動熱産生」、別名「NEAT(ニート)」です。学生でもなく働いてもいない、あのニート(NEET)ではありません。
NEATとは「Non-Exercise Activity Thermogenesis」の頭文字をとったもので、簡単に言うと「日常生活で消費されるカロリー」のこと。「日常生活」というのがポイントで、上記したような運動ではなく、掃除や洗濯といった家事や、通勤や買物、貧乏ゆすりやパソコンのキーボードを打つ動作で消費するカロリーなんかも、このNEATに含まれます。
日常生活での活動で消費されるカロリーなんて、そんな多くなさそうに思えるかもしれませんが、甘く見てはいけません。
国際スポーツ栄養学会(International Society of Sports Nutrition)が2017年に出した公式見解4によれば、1日動き回っているような人は1日の消費カロリーの50%をこのNEATが占めていることもあると示し、更には、このNEATだけで1日2,000kcal消費している人もたくさんいる、と示しています。
2015年にマドリード工科大学で行われたBenitoらによる実験5では、肥満(BMI>30)の男女96人を被験者として、以下の2グループに分けられました。
A)食事の適度なカロリー制限 + 週3回の筋トレ1時間&有酸素運動1時間
B)食事の適度なカロリー制限 + 「エレベーターの代わりに階段を使う」「車に乗らずに早歩きをする」といった身体活動を増やす
つまり、Aグループの「週3回、1回2時間のハードな運動」と、Bグループの「毎日NEATを増やす」を比較して、体重や筋肉量の変化に違いが出るか、という研究です。
実験は22週間行われました。結果は、AグループもBグループもどちらも9〜10kgの減量に成功し、筋肉量もどちらのグループも4〜5kg増量した、ということでした。
この研究の結論は、「週3回1回2時間のハードな運動をすること」と「毎日こまめに活動量を増やすこと」は、ダイエット効果として変わらなかったということです。それくらい「NEATを増やす=普段の生活の中で活動量を増やす」というのは、筋肉にたくさんの刺激を与え、消費カロリーを増やす効果があるのです。
運動をする時間がない方、運動があまり好きではない方も、ダイエットのために無理に運動をする必要はなく、この「NEAT」を増やす生活を目指しましょう。
日常生活で無理なくNEATを増やす5つの方法
では、具体的なNEATの増やし方を5つご紹介します。これらはどれも、私が実際に行っているものです。全然負担に感じずに私はできているので、本当にオススメの方法ですよ。
1)電車を使う時は「あえて遠い方の出口の改札」を使う
よくNEATを増やす方法として紹介されるのが「最寄り駅の一駅手前で降りて歩いて帰る」というもの。確かに歩く時間は増えるのですが、正直、結構面倒ですよね?
「一駅分歩く」って、すごく時間がかかるなと感じるため、脳が大きな変化と感じやすく、面倒になって長続きしないことが多いです。
なので、最寄り駅はそのまま使うのですが「使う改札・出口」を変えてみましょう。例えば、家から一番近い出口が「西口」なら、あえて「東口」まで歩いて電車に乗る。帰ってきた時も、東口から出て自宅に向かう。
駅にもよりますが、出口を変えるだけで、5〜10分くらい歩く時間が増えます。一駅歩くよりは時間がかからず、最寄り駅を使っているので「大きな変化」ともあまり思えず、習慣化しやすいですよ。
2)「下りる」ときだけ階段を使う
「エレベーターやエスカレーターを使わずに階段を使いましょう」という方法も、NEATを増やす方法としてよく紹介されます。でも、階段を上るのってキツイですよね?
なので、上がるときはエレベーターを使ってもOK。ただ、下りる時だけは階段を使ってみませんか?
下りるのはそんなにツラくないので続きやすいです。実際「階段を下りる」という身体活動は、速歩きと同じくらいの強度なので、平地を歩くよりはカロリーを多く消費します。
駅や、会社ビル内での移動、マンションなど、下りるときだけでも階段を使ってみてください。
3)1時間に1回「とりあえず立つ」
身体活動の点からも、健康の観点からも、とにかく「座りっぱなし」がよくありません。
WHOをはじめ6、多くの研究によって「座っている時間が長いほど、肥満や糖尿病といった生活習慣病になるリスクは上がる」ことや「認知機能や集中力、作業効率が低下する」ことが明らかになっています。
よって、テレワークの方も、会社でお仕事をしている方も、1時間に1回を目安に「とりあえず立つ」ことを心がけるようにしましょう。
トイレに行くもよし、飲料水を取りに台所へ行く、コーヒーを取りにコーヒーメーカーがある棚へ行くもよし、その場で立ち上がってグーッと伸びをするだけでもよし。立ったついでに10回程スクワットなんてできる余裕があれば最高です!
4)移動はとにかく「速歩き」
とにかく時間がない!というビジネスパーソンは、移動は「速歩き」を心がけましょう。時間を節約しながら消費カロリーも増やせて一石二鳥です。
「大股で」「腕を振って」「早く歩く」ができれば、これはもはや全身運動!精神科医の樺沢紫苑先生によれば7、「1日20分の速歩き」さえすれば、健康のための最低運動量はクリアできるといいます。
ヒールを履いて移動の方は怪我に気をつけてほどほどにするべきですが、普段の日常生活でみなさん必ず行っている「歩く」を、ちょっと意識して「速歩き」にするだけで、得られるメリットは膨大です。
5)ランチは「5〜10分くらいかかる場所」へ
社員食堂や、テレワークの方は自宅でランチを食べる機会も多いと思いますが、たまにはお昼休憩で外に出ましょう。10分くらいかかる場所まで行けば、往復で20分。速歩きで行けばかなりの身体活動量になります。
Levine8による研究によれば、1時間椅子に座ってパソコンのキーボードを打ち続けていると、消費カロリーは20〜30kcal。しかしその1時間に1回、数分でも立ち上がって少し歩くだけで消費カロリーは2倍になり、その「少し歩く」を「速歩き(時速4〜5km)」にするだけで消費カロリーは3倍になる、と示しています。
テラス席があるようなカフェでランチするもよし、テイクアウトして自宅で食べてもよしです。もし近くに公園などがあれば、ベンチに座って自然の中でお弁当を食べるのもいいですね。気分転換にもなり、消費カロリーも稼げて文句なしです。
まとめ
運動によって消費できるカロリーは、思っている以上に少ないです。
茶碗半分のご飯でおよそ100kcalですが、それを運動で消費するには15分のジョギング、もしくは30分のウォーキングをする必要があります。
つまり、ちょっと大変だけどダイエットのために運動を始めよう!は、なかなかうまくいきません。
ダイエットの基本は「食べる量をコントロール」して「少しだけ身体活動量を増やす」ことを「継続する」のが基本です。
ぜひ「小さな変化」で、脳に「変化するのはやめろ!」という司令を出させないようにしながら、少しずつNEATを増やしていきましょう。
「頑張ってやらなきゃ!」という意思の力をなるべく使わずに、無理なく消費カロリーを増やしていくことで、特別な運動の時間を設けずともダイエットを成功させることができます。
ぜひ、まずはどれか1つだけでもお試しいただければと思います。
参考文献・資料
- 『最後のダイエット』(石川善樹著、マガジンハウス、2015年)
- Levine, J., 2007. Nonexercise activity thermogenesis ? liberating the life-force. Journal of Internal Medicine, 262(3), pp.273-287.
- e-ヘルスネット.「身体活動とエネルギー代謝」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/exercise/s-02-003.html(参照 2020-10-15)
- Aragon AA, Schoenfeld BJ, Wildman R, et al. International society of sports nutrition position stand: diets and body composition. Journal of the International Society of Sports Nutrition. 2017;14(1). doi:10.1186/s12970-017-0174-y.
- Benito, P., Bermejo, L., Peinado, A., López-Plaza, B., Cupeiro, R., Szendrei, B., Calderón, F., Castro, E. and Gómez-Candela, C., 2015. Change in weight and body composition in obese subjects following a hypocaloric diet plus different training programs or physical activity recommendations. Journal of Applied Physiology, 118(8), pp.1006-1013.
- WHO「健康のための身体活動に関する国際勧告(WHO)日本語版」http://www.nibiohn.go.jp/files/kenzo20120306.pdf
- 『ブレインメンタル強化大全』(樺沢紫苑著、サンクチュアリ出版、2020年)
- Levine JA. Nonexercise activity thermogenesis (NEAT): environment and biology. Am J Physiol Endocrinol Metab. 2004;286(5):E675-85.