前回のインタビューに引き続き、今回も産業医の金子多香子先生にお話を伺いました。

多様な働き方で、仕事とプライベートの切り分けが難しくなる中、どの様な「リフレッシュ法」がお勧めか?金子先生がオンライン面談時に気を付けていらっしゃるコミュニケーションのコツ等お伺いしました。


前回の記事はコチラ
【産業医インタビュー/第1回】コロナ禍の今、働く現場で起きていること


リフレッシュは「短時間で飽きずに出来て、成長が感じられるもの」を!

編集部:
コロナ禍を経験してみて発見した、「オススメのリフレッシュ方法」はありますか?

金子先生:
一人で家に居て簡単に出来るリフレッシュ方法として「ゲーム」はコロナ感染のリスクも全くなく安全なのでお勧めしています。テレビをボーっと見るよりも、30分や1時間と決めて手を動かしてゲームをしていた方が、軽く集中出来て頭が切り替わるので効果がある様です。
やりすぎて睡眠不足になったりするともちろん良くないですが、ゲームで気分転換する方法は皆さんも抵抗が少ない様で、「ゲームであればやってみます」とおっしゃる方が多いですね。

編集部:
うまく30分や1時間で切り上げるコツはあるのでしょうか?ゲームもやりすぎてしまう可能性はないのでしょうか?

金子先生:
それは何でもそうだと思います。スポーツも中毒性があって、ずっと走っていないと落ち着かない人もいますよね。やはり自分の中で「週に○時間とか」1週間単位で、これくらいやろうと決めるのが良いですね。なんでもやりすぎると良くないです。例えばゲームは、在宅の仕事がおわってから1時間などと決めてオンとオフの切り替えに使うとよいと思います。
お酒もリラックス効果がありますが、飲みすぎると体に良くないですよね。家で飲む場合には適量を決めておく必要があると思います。
運動もゲームもお酒も「適量」が良い。というのは共通だと思います。

また、運動であれば「短時間で飽きず、切り替えられるもの」が良いですね。

私は、キックボクシングのジムに通っています。
短い時間で運動量があって、1コース45分でそのあとの仕事にも影響がなく切り替えられるので私にはとても合っている様です。
ボクシングは続けていると「だんだん自分なりに上手に楽になってくる感覚」が分かりやすいんです。最初は脚が上がらなかったのが、楽に上がる様になったり、進歩が感じられるので、モチベーションを保つには丁度良い感じです。

「前できなかった事が出来る様になる」という変化が分かるものはとても良いと思います。

縄跳びや筋トレもオススメです。
海外勤務の方が帰国した際は14日間の隔離があるので、室内で出来るエクササイズとして、体幹トレーニングなどをお勧めする事もあります。

編集部:
最近はオンラインフィットネス等もありますが、いかがでしょうか?

金子先生:
私も以前やってみた事はあるのですが、動画はネット上に溢れているので、どれを選んだら良いか分からなかったり、自分で体を動かす時間を作るハードルがあるので、難しいなと感じています。その時間にベルがなったり、家のことが気になったりして集中しにくいと感じます。
私の周りでも、家からウェアを着たまま行けるくらいの近場で、少人数制で出来る様なジムやフィットネスクラブに通っている方も多く、そういう方は励まされて・声をかけられる事でモチベーションが上がっている様ですね。場を変えたり、仲間がいると集中しやすいということもあると思います。

なので、オンラインでフィットネスをする場合には、相互コミュニケーションが取れる「オンラインレッスン」や、お気に入りのインストラクターの方を見つけて、コメント欄で参加者同士励まし合ったり、インストラクターの方から返信がもらえたりする様な所で出来ると、楽しく続けられるのだと思います。

オンラインコミュニケーションは、「ボディーランゲージ」が鍵

編集部:
オンラインのコミュニケーションと言えば、金子先生はオンラインでの「産業医面談」などをされていると伺いましたが、対面ではなくオンラインでコミュニケーションを取られる際に工夫されている事はありますか?

金子先生:
オンラインでは、必ず顔出し(カメラオン)をお願いして、時間も30分は取る様にしています。オンラインで時間が短いと、どうしても気持ちがつながるのが難しいと思います。
産業医面談は、お互い理解しあいたいと思ってやっているので、お互い顔を見ながらしっかり時間を取れば問題なく出来ているので、対面と比べてやりづらさを感じた事は無いですよ。

編集部:
一対一の面談ではなく、チームミーティング等でオンラインコミュニケーションを取るコツについては、どの様にお考えでしょうか?

金子先生:
オンラインは、顔は見えるけれど胸から上の画像になるので、ボディーランゲージが見えないですよね。メリットとしては 顔が正面から大きく見えるので表情はふつうの対面よりよくわかると思っています。
一般にコミュニケーションは、相手の言葉だけでなく、ボディーランゲージ・座り方・態度なども相手に気持ちを伝えるものなので、それが見えないということがオンラインの面談の弱点だと思います。
なので、自分が何か伝えたい事があるときは表情が良く映る様に工夫したり、手を顔の近くに持ってきてボディーランゲージを使う、座り方も工夫するなどする事で、伝わりやすさは変わってくるのではないでしょうか?

とはいえ、参加者全員がそういった意識を持っている訳ではないので、言語化が苦手な方、察してほしい・・・といったタイプの方は苦戦されていると思います。

会議だけでなく、チャットでのコミュニケーションも難しいですよね。オフィス環境であれば、お手洗いに立ったタイミング等見計らえますが、相手の様子が見えない中、チャットで声をかける事になるので、相手がポジティブに返事してくれる可能性が下がってしまいます。人に尋ねる、教えてもらう、手伝ってもらうのが難しくなり、異動後、新しい職場に入った人が特に悩んでいる様です。

全てを会社に求めない考え方

編集部:
ランチタイムや移動のついでに行っていた「雑談」によるコミュニケーションも減っていますよね?

金子先生:
今まで息抜きになっていた「へぇ~この人こんな事言うんだ~!」という様な雑談がないので、コミュニケーションが味気なくなるのかもしれませんね。

編集部:
気づいた人から、リモート環境でも「積極的に話しかけていく」という工夫しかないのでしょうか?

金子先生:
どうなんでしょうね?今までが何もかも会社に求めすぎていたのかもしれないですね。

慰め、愚痴も会社の人とばっかりやっていたから、会社に行かなくなると大変なのかもしれません。理想は、家の周りにそういう事を話せる友人がいれば良いですよね。
会社以外で、地域・地元の仲間が居れば心強いのだと思います。今は地域社会の中の自分が希薄になり、会社の比重が大きくなりすぎているので、働き方が変化するとコミュニケーションで悩まれる方が多いのかもしれません。

編集部:
「会社の中で何が出来るか?」だけを考えるのではなく、プライベートや今いる環境を見渡して、繋がれる所がないか?と世界を広げる必要があるのですね。

金子先生:
これから転職する人が増えてくることや、定年後の生活が長くなることを考えると、会社と家庭だけでなく、+α自分の空間があった方が良いと思います。気軽におしゃべりをしたり、共通の趣味などの楽しい会話ができる仲間がいると、気分転換やストレス発散の力強い味方になるはずです。
全てを会社に求めてしまうと、出社しないリモート環境になった時などに辛くなる方が多いのではないでしょうか。

(後書き)
リフレッシュは「短時間で飽きずに出来て、成長が感じられるもの」を。
オンラインコミュニケーションは、「しっかり時間を取って、表情だけでなくボディーランゲージでも工夫」をする。
そして、コミュニケーションの全てを会社に求めず、地域社会や自分の今いる環境の中にも「自分の空間」を見つけておくなど、様々なヒントをいただきました。
次回はインタビュー最終回。「これからの時代を生き抜く為に大切な事」というテーマでお届けします。どうぞお楽しみに!


金子 多香子
昭和63年 東京女子医科大学医学部卒業
平成3年 東京女子医科大学大学院卒業(内科学 血液内科専攻)
順天堂大学医学部血液内科助手,北里大学医学部血液内科講師を経て、
平成11年 日本IBM株式会社 本社・川崎事業所 産業医
平成13年 日本IBM株式会社 安全衛生・産業保健部 副部長
厚生労働省 労働政策審議会委員
日本経団連 安全衛生部会委員
平成16年 日本IBM株式会社 Well-Being 企画担当部長
平成18年 株式会社日本ヴィクシー・コーポレーション設立
ウェルビーイング研究所所長に就任 
現在 都内複数企業の産業医を務める